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骨髄異形成症候群(MDS)
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

骨髄異形成症候群(MDS)の概要

骨髄異形成症候群は、血液細胞の元となる造血幹細胞のうち、骨髄系幹細胞に異常が生じて起こると考えられている血液疾患です。一部は急性骨髄性白血病に移行する可能性があります。 日本では、1年間に約6,000 人が診断されており、高齢者、特に70歳以上に多く発症するために加齢が重要なリスク因子と予想されています。 造血幹細胞が未熟な状態のまま成熟しなかったり、造血幹細胞の機能や形態に異常が生じる「異形成」が起きたり、成熟して細胞が壊れてしまい血球が減少する「無効造血」が起きたりと、さまざまな疾患からなる症候群の集まりと考えられています。 色々な血液疾患との境界線状に位置するような疾患であり、経過観察や他疾患の除外診断や形態学的な診断が重要です。

分類

以前は1982年のFAB分類によって分類されていました。現在は2017年のWHO分類第4版改訂版によって診断・治療がなされますが、現在でも臨床ではFAB分類も併用されています。

  • 血球減少
  • 末梢血と骨髄の芽球割合
  • 造血細胞の異形成
  • 染色体異常
といった項目から病型が分類され、同じMDSであっても患者さんの予後には大きく差がつくため、臨床上では病型診断と予後予測が不可欠です。

骨髄異形成症候群(MDS)の原因

近年のゲノム解析により、MDSは遺伝子変異の蓄積によって発症・進行する腫瘍性の疾患であるとわかりました。 遺伝子変異は多様性に富んでおり、2017年に発表されたWHO分類第4版改訂版で、初めて遺伝子変異が分類の項目として採用されています。

これらの遺伝子変異によって、前述のように無効造血、血球の形態異常、末梢血における血球減少といった症状が起こります。血球減少においては赤血球、白血球、血小板の全てが減る場合と、いずれかの種類が減る場合があります。 その結果、血球減少によって貧血が起こり、動悸、息切れ、易出血性(歯茎からの出血や鼻血などの容易な出血)、皮膚の点状出血、倦怠感、発熱といった症状が現れる可能性があります。

骨髄異形成症候群(MDS)の前兆や初期症状について

MDSの症状として、初期に限らず貧血に伴う動悸や息切れ、易出血性、発熱などが見られます。自覚できる症状がないまま、健康診断で血液検査の異常を指摘されて初めて気がつくこともあります。 血液検査で異常を指摘された場合は血液内科を受診するか、もしくは一度かかりつけ医に相談しましょう。

骨髄異形成症候群(MDS)の検査・診断

MDSの診断に際しては、検査・診断は血球、骨髄、遺伝子を調べます。

血液検査

MDSでは血球減少が見られ、どれか1種類の場合もあれば全ての種類が減っていることもあります。1種類のみの軽度な血球減少の場合は、MDSに該当するかどうか慎重な判断が必要です。

MDSの血球減少の基準を以下に示します。

成人において、
  • ヘモグロビン濃度:13g/dL未満(男性)または12g/dL未満(女性)
  • 好中球数:1,800/μL未満
  • 血小板数:15万/μL未満
また、軽度の血球減少の目安位としては
  • ヘモグロビン濃度:10g/dL < Hb <13g/dL (男性) / 10g/dL < Hb < 12g/dL (女性)
  • 好中球数:1500/μL < 好中球数 <1800/μL
  • 血小板数:10 万/μL < 血小板数 < 15 万/μL
(出典:骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和4年度改訂版)

さらに、血液を鏡検して血球の形や芽球の有無について調べます。

骨髄検査

血球を作り出している骨髄についても検査を行います。一般的には腸骨から骨髄を採取し、異常な細胞の有無、芽球の有無や割合など、骨髄細胞について検査します。骨髄細胞は正常または過形成のことが多いと言われていますが、逆に低形成のこともあります。

遺伝子検査

病型を確定するため、骨髄標本の遺伝子検査や染色体検査を行います。遺伝子結果の検査のみでは診断できず、血球の形態異常を確認する必要があります。

骨髄異形成症候群(MDS)の診断基準

厚生労働省の研究班が提示する参照ガイドにおける診断基準では、以下のように必須基準と決定的基準、補助基準に分かれています。

A.必須基準
  • 末梢血と骨髄の芽球比率が30%未満(WHO分類では20%未満)
  • 血球減少や異形成の原因となるほかの造血器あるいは非造血器疾患が除外できる。
  • 末梢血の単球数が 1,000 /μL 未満である。
  • t(8;21)(q22q22.1), inv(16)(p13.1q22) または t(16;16)(p13.1;q22), t(15;17)(q24.1;q21.2)の染色体異常を認めない。PML::RARA キメラ遺伝子を認めない。
FAB分類では1、 2 が、WHO分類では1〜4 が必須とされています。

B.決定的基準
  • 骨髄塗抹標本において、異形成が異形成の程度の区分でLow以上である。
  • 骨髄塗抹標本(鉄染色)において、骨髄赤芽球中環状鉄芽球が 15%以上である(SF3B1 遺伝子変異がある場合は5%以上である)。
  • 分染法またはfluorescence in situ hybridization (FISH) 法で骨髄異形成症候群が推測される染色体異常を認める。

C.補助基準
  • 骨髄異形成症候群で認められる遺伝子変異が証明できる。
  • 網羅的ゲノム解析で、ゲノム異常が証明できる。
  • 骨髄生検標本において骨髄異形成症候群で認められる所見が証明できる。
  • フローサイトメトリーで異常な形質を有する骨髄系細胞が証明できる。
(出典:骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和4年度改訂版)

骨髄異形成症候群(MDS)と鑑別が難しい疾患

慢性的な血球減少と血球の形態異常が生じるため、MDSを診断する際に除外すべき疾患として、以下が挙げられます。病歴を聞き取り、身体所見と合わせて慎重に判断するようにしましょう。

  • 造血器疾患:白血病、悪性貧血、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、血球貪食症候群、再生不良性貧血など
  • 栄養障害:鉄、葉酸の欠乏
  • 感染性疾患:感染性心内膜炎、HIV感染
  • 炎症性疾患:SLE、サルコイドーシス、炎症性腸疾患など
  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症
  • 肝疾患
  • アルコール過剰摂取
  • 薬剤性血球減少症

骨髄異形成症候群(MDS)の治療

MDSの治療は、病型によって治療法が異なります。 IPSS-R予後因子スコアやWPSSといった予後予測するスコアリングシステムにより、低リスクと高リスクの2群に分けられて治療が進められます。具体的な治療法は以下の通りです。

低リスクの場合

臨床症状なし:経過観察 臨床症状あり:輸血、貧血改善薬、サイトカイン療法、ビタミン製剤、レナリドミド(5q-症候群)など。輸血後鉄過剰症に対しては鉄キレート療法

高リスクの場合

同種移植実施可能な場合:同種造血幹細胞移植、一部で強力化学療法 同種移植実施不可能な場合:アザシチジン、一部で強力化学療法、アザシチジン不応かつ5q欠損例ではレナリドミド

骨髄異形成症候群(MDS)になりやすい人・予防の方法

MDSのリスク因子として、加齢(特に70歳以上)と遺伝子変異がわかっています。遺伝子変異は家族性の遺伝とは異なり、身内に複数名MDSが発症した場合は大変珍しい状態です。

加えて
  • がんの化学療法、放射線療法
  • ベンゼンなど、特定の環境用、 工業用化学物質への長期接触
といった外部要因によって発症する可能性があります。 また、予防法は今のところ存在していません。症状に乏しい場合は早期発見が難しいこともあります。貧血やだるさが続いたり、血液検査で異常が見られた場合は早めに医療機関を受診し、詳しい検査につなげましょう。

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