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動脈硬化
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

動脈硬化の概要

動脈硬化は、動脈の血管が硬くなり弾力性を失う状態を指します。 動脈は心臓から全身に血液を送り出す役割を担っている血管で、正常であれば弾力性があり柔軟です。しかし、加齢や高血圧、糖尿病、脂質異常症などの影響で、動脈の内膜にダメージが蓄積し、コレステロールやカルシウムなどが沈着して血管壁が厚く硬くなることで、動脈硬化となります。動脈硬化は、主に次の三つのタイプに分類されます。

一つ目の、粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)は、大動脈や心臓などの太い動脈に起こりやすいタイプで、コレステロールが内膜に沈着して隆起性病変(プラーク)を形成します。狭窄した血管により、狭心症や心筋梗塞を引き起こすことがあります。また、プラークが破裂すると血栓が生じ、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります。

二つ目の、細動脈硬化は、脳や腎臓の細い動脈に起こりやすいタイプで、高血圧が主な原因とされています。血管が硬く脆くなるため、血圧の変動に耐えられず、動脈瘤の原因となったり、脳出血などを引き起こす可能性があります。

三つ目の、メンケルベルグ型硬化は、動脈の中膜にカルシウムが沈着し、血管が硬化するタイプです。一般的に内腔の狭窄は伴いませんが、動脈瘤や動脈解離など、重大な血管疾患を引き起こすリスクがあります。

動脈硬化の原因

動脈硬化の原因には、加齢、高血圧、糖尿病、血中の高コレステロール、喫煙、肥満、運動不足、ストレス、食生活の偏り、遺伝などのさまざまな要因が関与しています。

加齢による動脈組織の変化では、年齢を重ねると動脈の弾力性が失われ、硬化が進行しやすくなります。高血圧では、動脈壁に物理的なストレスを与え、損傷を引き起こします。

また、糖尿病により高血糖状態が続くと動脈の内膜が損傷し、硬化が進行しやすくなります。さらに、高コレステロール値もリスクファクターで、血中のコレステロールが動脈壁に蓄積し、プラーク形成を促します。

喫煙は免疫系が関与する炎症により動脈壁を直接的に傷つけ、動脈硬化を加速させます。喫煙者(1日20本以上)の心臓発作のリスクは、非喫煙者より男性で3倍、女性で6倍高いともいわれています。

肥満は動脈に余分な負荷をかけることで硬化が進みやすくなり、運動不足により適度な運動が欠如すると血液循環が悪化し、硬化が進みやすくなります。そして、長期間のストレスも動脈壁に悪影響を与えます。

食生活が偏っている場合は、飽和脂肪やトランス脂肪酸を多く含む食事が動脈硬化を引き起こしやすくします。加えて、遺伝的な要因もあり、家族に動脈硬化の既往歴がある場合、そのリスクは高まります。

動脈硬化の前兆や初期症状について

動脈硬化の前兆や初期症状は、進行の程度や影響を受ける動脈の場所によって異なりますが、以下のような症状が見られます。

まず、心臓にある冠動脈と呼ばれる血管が硬化すると、運動やストレスがかかった際に胸痛や胸の圧迫感を感じることがあります。これは狭心症と呼ばれ、運動を止めると症状が和らぐことが多いようです。安静時にも症状が出現する場合には心筋梗塞を起こしている可能性があり、危険なサインです。

足の動脈が硬化すると、歩行中にふくらはぎや太ももに痛みや痙攣を感じる間欠性跛行が見られます。休息すると痛みが軽減するのが特徴です。

脳の動脈硬化が進むと、頭痛やめまい、一時的な視覚障害が発生することもあります。

また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を持っていたり、肥満や血中のLDLコレステロール値が高いと指摘されていたりする場合は、より動脈硬化の前兆に気を付ける必要があります。

これらの症状が現れた場合は、循環器内科を受診しましょう。

動脈硬化の検査・診断

動脈硬化の主な検査と診断方法を紹介します。

まず、基本的な検査として血液検査があります。 血液検査では、動脈硬化のリスク評価を行うために以下の項目が測定されます。 血糖値は糖尿病の有無や管理状態を確認するために重要です。 また、コレステロール値ではLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、総コレステロール、中性脂肪が測定され、脂質異常症の評価が行われます。中性脂肪値が高いと、動脈硬化のリスクが高まることが示唆されます。

次に、画像検査があります。 動脈の状態を直接観察するために、超音波検査(エコー)が用いられます。 特に頸動脈の超音波検査は、動脈の壁の厚さやプラークの存在を確認するために広く用いられます。 また、CT検査(コンピュータ断層撮影)では血管の石灰化の程度を評価し、冠動脈カルシウムスコアでは心臓の動脈硬化リスクを評価します。 MRI検査(磁気共鳴画像)は動脈の詳細な構造を高解像度で描出します。 さらに、造影検査では造影剤を使用して血管の狭窄や閉塞を詳細に観察します。冠動脈造影やCTアンギオグラフィーが含まれます。

血管機能検査も重要です。 この検査では、動脈の硬さや機能を評価します。 心臓足首血管指数(CAVI)は動脈の硬さを定量的に評価し、脈波伝播速度(PWV)は動脈の弾力性を評価します。PWVが高いほど、動脈硬化が進行していることを示します。 足関節上腕血圧比(ABI)は足首と上腕の血圧を比較し、末梢動脈の閉塞の有無を評価します。ABI値が低いと、既に動脈硬化が進行している可能性が高いです。

負荷試験も行われます。 これは、心臓の血流や機能を評価するために行われる検査で、運動や薬物で負荷をかけた状態で心電図を記録し、心筋への血流不足や異常な心電図変化を検出します。

最後に、心臓カテーテル検査があります。 これは冠動脈の狭窄や閉塞を直接観察するための侵襲的な検査で、カテーテルを冠動脈に挿入し、造影剤を注入してX線撮影を行います。動脈の詳細な状態を確認し、必要に応じてそのまま治療を行うこともあります。

動脈硬化の治療

治療の主な目的は、病気の進行を遅らせ、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を予防することです。以下に治療の要点をまとめます。

まず、生活習慣の改善が重要です。 喫煙は動脈硬化の主要な危険因子であるため、禁煙することが強く推奨されます。 また、定期的な運動も重要で、中程度の運動でもリスクを減らし、死亡率を低下させる効果が期待できます。 さらに、食事面では、飽和脂肪、トランス脂肪酸、精製炭水化物、高度加工食品の摂取を控え、果物や野菜、食物繊維を多く含む食事を心がけることが推奨されます。

次に、薬物療法についてです。 コレステロール値が高い場合は、LDLコレステロールを下げる内服薬の服用により心臓発作や脳卒中のリスクを減少させます。 また、血栓の形成を防ぐために抗血小板薬(アスピリンやそのほかの抗血小板薬)が使用されますが、出血リスクがあるため慎重に使用されます。 さらに、血圧をコントロールする高血圧治療薬も、動脈硬化のリスク低減に役立ちます。

外科的治療では、動脈が高度に狭窄または閉塞している場合に行われるバイパス手術があります。これは、新たな血流路を作る手術です。 また、ステントを用いたカテーテル治療により、狭くなった動脈を広げる方法もあります。動脈瘤がある場合には、人工血管を使用して破裂を予防する手術が行われることもあります。

これらの治療方法を組み合わせることで、動脈硬化の進行を抑え、重大な合併症を予防します。

動脈硬化になりやすい人・予防の方法

動脈硬化のリスクが高い人には、いくつかの特徴があります。 ウエストが85cm以上(女性は90cm以上)の内臓脂肪型肥満、高血圧、高血糖や糖尿病、中性脂肪やLDLコレステロール値が高い人が含まれます。また、動物性脂肪を多く摂り、野菜を摂らない人、運動不足、喫煙者もリスクが高いとされています。

予防には、禁煙、生活習慣病の管理、肥満の解消、適度な運動、バランスの取れた食事が不可欠です。喫煙期間の長さにかかわらず、禁煙をすることでそのリスクを半減させるとされています。そして、適度な運動には有酸素運動を取り入れ、食事管理では動物性脂肪を控え、野菜を意識して摂るようにしましょう。

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