

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
ジルベール症候群の概要
ジルベール症候群は、生まれつき肝臓でビリルビン(赤血球の老廃物)を処理する酵素の活性が低下する状態です。血液中の間接ビリルビン(肝臓で処理される前の赤血球の老廃物)の値がわずかに上昇し、疲労・ストレス・空腹・断食をきっかけに一時的に黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)が現れることがあります。
ジルベール症候群は常染色体優性遺伝(親のどちらかが遺伝子を持っていれば、子どもに受け継がれる可能性のある遺伝の形式)で、日本を含む東アジアでは特定の遺伝子変異が発症に関与していることが多いと報告されています。
診断は血液検査でビリルビンが高いことを確認し、画像検査などでほかの類似疾患と鑑別して行われます。
ジルベール症候群は基本的に治療の必要がなく、日常生活へ支障をきたす場面も少ないです。黄疸の出現を抑えるには断食や過度のストレス、寝不足を避け、適切な水分摂取を心がけることが大切です。

ジルベール症候群の原因
ジルベール症候群の原因は、肝臓でビリルビンを処理する「グルクロン酸抱合酵素(UGT1A1)」の活性が生まれつき低いことです。酵素の働きが一般的な人と比べて低下しているため、十分に処理できずに血液中のビリルビンが蓄積してしまいます。
酵素活性の低下は、主に遺伝子の変異によって引き起こされます。両親から受け継がれる常染色体優性遺伝で、家族内で発症します。特に日本を含む東アジアでは、UGT1A1遺伝子の変異が関与していることが多いとされています。
ジルベール症候群の前兆や初期症状について
ジルベール症候群に特定の前兆や初期症状はありません。
しかし、疲労がたまったときや強いストレスを受けた後、徹夜や断食をした後に一時的にビリルビン値が上昇して黄疸が現れることがあります。体調を崩した際、特に風邪やインフルエンザに罹患すると黄疸が現れる場合もあります。
黄疸以外の自覚症状はほとんどないことが一般的ですが、「なんとなく体がだるい」「疲れやすい」と感じる人もいます。
黄疸が出現しても、通常は一過性で自然に治まることが多く、肌や目の色の変化以外に痛みやかゆみなどの不快な症状を伴うことはありません。
ジルベール症候群の検査・診断
ジルベール症候群の診断は、間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症が持続していることを確認し、ほかの肝疾患や血液疾患と鑑別することで行われます。
血液検査
血液検査では総ビリルビン値と直接・間接ビリルビンの比率を調べます。ジルベール症候群では間接ビリルビンが高く、直接ビリルビン(肝臓で処理された赤血球の老廃物)は正常範囲内であることが特徴的です。
肝機能の酵素(ASTやALT)やアルブミン値は正常で、尿中にはビリルビンが出ないことが多いです。
画像検査
超音波検査やCT検査で、肝臓や胆のう・胆管に結石や腫瘍など黄疸の原因となる病変がないか調べることもあります。ほかの疾患との鑑別に役立てます。
特殊検査
低カロリー試験(飢餓試験)と呼ばれる方法があり、1日400kcal程度の食事制限を2日間行い、ビリルビン値の変化を観察します。ジルベール症候群の場合、飢餓状態で総ビリルビンが通常の2倍以上に上昇することが知られています。
遺伝子検査
確定診断を求める場合、UGT1A1遺伝子の変異を確かめる検査(DNA検査)も行うことがあります。ただし、通常は血液・画像検査で十分診断できるため、遺伝子検査は必ずしも必要ではありません。
ジルベール症候群の治療
ジルベール症候群自体には基本的に治療の必要がありません。
どうしても黄疸の見た目が気になる場合には薬でビリルビン値を下げる方法もあります。フェノバルビタールという薬を少量服用するとビリルビン値が大きく低下することが知られていますが、眠気などの副作用もあります。
ジルベール症候群の人がほかの病気の治療で手術を受けたり、強い薬を使用したりする際には、事前に主治医に体質を伝えておくことが大切です。手術前の絶食で黄疸が出ても、ジルベール症候群によるものだと把握されていれば適切に対応できます。
ジルベール症候群になりやすい人・予防の方法
ジルベール症候群は先天的な体質であるため、男女問わずあらゆる年代で起こります。思春期以降に肝機能検査を受ける機会が増えることで発見されるケースが多く、黄疸もホルモンバランスが変化する20歳前後の若年成人で気付かれることが多い傾向です。
また、家族内に健康診断でビリルビンが高いと言われた人がいる場合、遺伝的にジルベール症候群を受け継いでいる可能性が高くなります。
ジルベール症候群は遺伝的な要因による体質の変化であり、根本的に予防する方法はありません。ただし、発症後は黄疸を誘発する要因を避けることで症状を出にくくすることが可能です。
例えば、空腹状態が続くと黄疸が出やすいため、無理な断食ダイエットは避けて規則正しい食事を心がけます。また、寝不足や過度のストレスをためないように注意することも大切です。
また、過度の飲酒は肝臓に負担をかけるため控えるとよいでしょう。脱水になると血中のビリルビン濃度が相対的に上がりやすいため、暑い環境で汗をかくときや運動時は、意識的に水分をとると予防しやすくなります。
参考文献
- Gilbert症候群と血液疾患/日本小児血液学会雑誌/18巻/6号/2004年/p.601-608
- 黄疸研究の進歩―薬物代謝との関連を含めて/日本内科学会雑誌/96巻/9号/2007年/p.1980-1986
- 小児科医の関わる共同研究―早産児ビリルビン脳症の多角的研究と臨床応用―/脳と発達/54 巻/2号/2022年/p.123-125
- 市販薬およびフルバスタチンナトリウムによる薬物性肝障害を発症した Gilbert 症候群の1例/肝臓/50巻/3号/2009年/p.139-144
- 体質性黄疸/肝臓/44巻/10号/2003年/p.483-491
- 各種肝疾患におけるニコチン酸試験の検討とその臨床応用について/日本消化器病学会雑誌/74巻/5号/1977年/p.645-654




