

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
うっ血性肝障害の概要
肝臓の血流が滞り、血液が貯まることで肝臓の細胞は徐々にダメージを受けます。ダメージを受けた肝臓はその機能が低下することで、身体にさまざまな症状が現れます。
うっ血とは、血液の流れが悪くなり、特定の部位に血液が異常にたまることを指します。このうっ血によって、肝臓の機能が障害されることをうっ血性肝障害といいます。
肝臓の働きと重要性
肝臓は、次のような重要な機能を担っています。
栄養の代謝と貯蔵
糖質をグリコーゲンとして貯蔵し、必要に応じてエネルギーとして利用します。また、脂質やタンパク質の代謝も担い、身体の恒常性(こうじょうせい)を維持します。
解毒作用と老廃物の処理
アルコール、薬物、体内で発生する毒素を分解し、無害化して排出します。
胆汁(たんじゅう)の生成と消化のサポート
脂肪の消化を助ける胆汁を生成し、小腸へ分泌します。
血液の調整
アルブミンや血液凝固因子(けつえきぎょうこいんし)を合成し、血液の流れを正常に保ちます。
このように、肝臓は身体の化学工場として重要な役割を果たしますが、血流が滞るとうっ血が起こり、肝細胞が十分な酸素や栄養を得られずに機能低下を起こします。
うっ血性肝障害の原因
うっ血性肝障害の主な原因は、血流の異常によるものです。特に心臓や血管の異常が関与します。
右心不全(うしんふぜん)
心臓の右側は右心系(うしんけい)といって、右心房(うしんぼう)と右心室(うしんしつ)という2つの部屋に分かれています。右心系は全身を巡った血液を受け取り、肺に送る役割を担っています。
右心系の機能が低下すると、静脈の圧力が上昇します。この圧力が下大静脈(かだいじょうみゃく)や肝静脈を介して肝臓に伝わり、肝臓の出口の血液の流れが悪くなり、肝臓がうっ血を起こします。
慢性的な右心不全
肝臓のうっ血が長い期間持続することで肝硬変(かんこうへん)へ進行する可能性があります。
急性右心不全
突然の肝機能低下を引き起こし、重篤化(じゅうとくか)する場合があります。
三尖弁疾患(さんせんべんしっかん)
三尖弁は右心房と右心室の間にある弁で、右心室から右心房への血液の逆流を防ぐ役割を担っています。三尖弁が正常に機能しないと、右心房と右心室の間の血流が妨げられ、肝臓からの血流が滞り、うっ血が起こります。
肺高血圧症(はいこうけつあつしょう)
肺高血圧症とは、心臓から肺に血液を送る血管の血圧が高くなる病気です。肺動脈の血管が何らかの理由で狭くなることが原因であると考えられています。
主な要因は、膠原病(こうげんびょう)・肝臓病・遺伝・低酸素・薬剤の影響などによって肺動脈の壁が厚く・固く変化すること、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)や腫瘍組織が詰まる腫瘍塞栓などで肺動脈に血栓などが付着し狭くなること、肺動脈で痙攣(けいれん)が起こり血管が収縮する(狭くなる)ことだといわれています。肺動脈の血圧が高くなることで心臓に負担がかかり、右心不全を引き起こします。
肝静脈閉塞(かんじょうみゃくへいそく)
肝臓の血流出口である肝静脈が閉塞すると、うっ血が起こり、肝機能が低下します。
うっ血性肝障害の前兆や初期症状について
うっ血性肝障害の初期症状は軽微であることが多いため、病気の進行に気付きにくいことが特徴です。うっ血性肝障害の主な症状には、下記のようなものがあります。
倦怠感(けんたいかん)
倦怠感とは、だるい、しんどい、身体が重い、疲れやすいといった状態を指します。これは、肝臓のエネルギー代謝が低下し、全身へのエネルギー供給が不足するために起こります。
食欲不振・吐き気
胆汁の分泌が低下し、脂肪の消化が困難になるために、食欲がなくなることがあります。
腹水(ふくすい)・お腹の膨満感(ぼうまんかん)
肝臓のうっ血が起こることで、腹腔(ふくくう)というお腹にある空間に体液が異常に貯まります。貯まった体液は腹水と呼ばれ、腹水によってお腹の中から圧迫され、お腹が張っているように感じます。これを膨満感といいます。
黄疸(おうだん)
黄疸は、皮膚や白目が黄色く変色することを指します。肝臓の排出機能が低下することで、胆汁の成分であるビリルビンが体内に蓄積します。ビリルビンは黄色いために、体内に蓄積することで身体全体が黄色くなります。
うっ血性肝障害を疑う症状がある場合は、まずは循環器内科を受診することをおすすめします。原因となる心疾患の診断と治療が最優先となるためです。循環器内科での評価の後、必要に応じて消化器内科も受診し、肝機能の評価と管理を行います。可能であれば、両科の連携が取れている総合病院での診療が望ましいでしょう。
うっ血性肝障害の検査・診断
うっ血性肝障害の診断には、以下の検査が必要です。
身体診察
医師が皮膚や眼球の色、お腹の状態を確認し、うっ血性肝障害の症状を診察します。
血液検査
肝酵素
AST・ALTといった肝臓の酵素を測定することで、肝細胞の損傷度を評価します。
ビリルビン値
ビリルビン値は、黄疸の程度を評価する指標として役立ちます。
アルブミン値
アルブミン値は、肝臓の合成能力や栄養状態を評価する指標として役立ちます。
画像診断
うっ血性肝障害では、以下の検査によって特徴的な所見が見られます。
腹部超音波検査
超音波検査によって、肝静脈の拡張や血流の異常を確認できます。
CT・MRI
CTやMRIによって、血流の停滞が原因でみられる肝臓の異常を確認できます。
うっ血性肝障害の治療
うっ血性肝障害の治療には、以下の治療があります。
原因疾患の治療
右心不全や三尖弁疾患が原因の場合、心臓の治療が最優先されます。
心不全の治療
利尿薬(りにょうやく)、β遮断薬(べーたしゃだんやく)、ACE阻害薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)で心臓の負担を軽減することで、心不全を改善します。
利尿薬
身体に貯まった水分を、尿として体外に排出する作用があります。うっ血性心不全は過剰な体液を減らし、心臓への負担を軽減します。
β遮断薬
心臓の拍動を抑えて血圧や心拍数を下げる薬です。心不全では慎重に投与量を調整することで、長期的に心機能を改善する効果があります。また、高血圧や狭心症、頻脈性不整脈などの治療にも用いられます。
ACE阻害薬、ARB
アンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害する「ACE阻害薬」と、アンジオテンシンⅡ受容体を遮断する「ARB」があります。どちらも血圧を下げる薬で、心臓や腎臓などを保護する効果も期待でき、心不全や糖尿病性腎症などの治療にも使用されます。
SGLT2阻害薬
近年、糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が、糖尿病の有無にかかわらず心不全の治療薬としての有効性が証明され、使用されるようになっています。
また、心不全の原因が心臓に栄養を供給する冠動脈(かんどうみゃく)である場合には、カテーテル治療による冠動脈形成術(かんどうみゃくけいせいじゅつ)が行われる場合があります。
三尖弁の異常
重度の場合は、弁形成術(べんけいせいじゅつ)や弁置換術(べんちかんじゅつ)といった手術が必要になる可能性があります。
生活習慣の改善
- 肥満を解消する
- 塩分の摂取を控える(1日6g未満を目標とする)
- 糖質・脂質を控え、たんぱく質・ビタミンをとる
- アルコールを控える
- 習慣的に適度な有酸素運動をする
うっ血性肝障害になりやすい人・予防の方法
うっ血性肝障害は、心疾患などが原因で肝臓の血流が滞る病気です。初期症状が少ないため、リスクのある方は定期的な検査を受け、早期発見・治療を行うことが重要です。 生活習慣の改善と予防が健康を守る鍵となります。
なりやすい方
- 高血圧、糖尿病、心臓病を持っている方
- 肥満や運動不足の方
- アルコールの過剰摂取をしている方
予防の方法
適度な運動(ウォーキング、軽い水泳など)や食事によって、生活習慣病の予防・改善をしましょう。そして定期的な健康診断で心臓や肝臓の状態をチェックすることも大事です。
参考文献




