

監修医師:
吉川 博昭(医師)
胆管細胞がんの概要
胆管細胞がんは、肝臓内の胆管に発生する悪性腫瘍です。胆管は、肝臓で作られた胆汁を十二指腸へ運ぶ役割を担っていますが、この胆管の細胞ががん化することで発症します。
胆管がんは、発生する場所によって「肝外胆管がん」と「肝内胆管がん」に分類されます。肝外胆管がんは肝臓の外側の胆管に発生するのに対し、肝内胆管がんは肝臓内の胆管に発生し、「胆管細胞がん」とも呼ばれます。
胆管細胞がんは、肝臓に発生するがんの中では、肝細胞がんに次いで2番目に多くなっています。発生頻度は約5%と高くはありませんが、近年は増加傾向にあると報告されています。
胆管細胞がんは、初期段階ではほとんど症状があらわれません。しかし、進行すると黄疸(おうだん)が生じ、皮膚や白目の部分が黄色くなることがあります。胆管細胞がんは、胆管の炎症性疾患や結石、肝炎ウイルスなどの疾患との関連が報告されていますが、原因は明らかになっておらず、正常な肝臓から発生することが多いと考えられています。
胆管細胞がんの治療の第一選択は、外科手術による肝臓の切除です。手術が難しい場合は、化学療法が行われます。胆管細胞がんは、手術によって根治が期待できるがんのため、早期発見と適切な治療が重要です。
胆管細胞がんの原因
胆管細胞がんの発症メカニズムは完全には解明されていませんが、一般的には正常な肝臓に発生することが多いとされています。一方で、胆管の炎症性疾患(原発性硬化性胆管炎)、結石、肝炎ウイルス、肝硬変との関連も報告されていることから、慢性的な胆管や肝臓の炎症、胆汁の流れの異常が発症リスクを高める可能性があると考えられます。
また、近年の研究により、胆管細胞がんの発症に関わる特定の遺伝子が明らかになっています。胆管や肝臓の炎症が長期間続くことで、胆管の細胞の遺伝子が少しずつ損傷を受け、がんの発生を抑える「がん抑制遺伝子」に異常が生じ、胆管細胞がんが発症すると推測されています。
胆管細胞がんの前兆や初期症状について
胆管細胞がんは、初期にはほとんど症状がなく、自覚しにくいのが特徴です。そのため、健康診断や別の疾患の検査中に偶然発見されることもあります。
がんが進行すると、胆汁の流れが妨げられ、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」という症状があらわれます。黄疸は、がんが胆管をふさぐことで胆汁の流れが妨げられ、胆汁のビリルビンという黄色の成分が血液中に増えることで起こります。そのため、黄疸がみられる場合は、すでにがんが進行している可能性が高いと考えられます。
また、胆汁の成分が便に排出されにくくなることで、便の色が白っぽくなることがあります。一方で、尿の色は濃くなり、茶色に変化することがあります。このほか、皮膚のかゆみが生じることもあります。
さらに、腹痛や背中の痛み、食欲不振、体重減少、全身の倦怠感、発熱などの症状があらわれることもあります。
胆管細胞がんの検査・診断
胆管細胞がんの診断では、まず血液検査と腹部の超音波検査が行われます。
血液検査では、ビリルビンやALP、γ-GTPなどを測定し、肝機能や胆汁の流れに異常がないかを確認します。腹部の超音波検査(エコー検査)では、胆管の拡張や腫瘍の有無を調べます。
胆管に異常がみつかった場合は、CT検査やMRI検査を行い、がんの大きさや広がり、胆管の状態、他の臓器への転移の有無などをくわしく調べます。
より確定的な診断のために、造影剤を用いた内視鏡検査や、がん細胞の一部を採取して顕微鏡で調べる病理検査が実施されることもあります。
胆管細胞がんの治療
胆管細胞がんの治療は、がんの進行度によって異なりますが、主に外科的手術と化学療法が選択されます。
胆管細胞がんの根治を目指すためには、外科手術が最も有効とされており、可能な限り肝臓の一部を切除してがんを取り除きます。ただし、がんの広がり方によっては切除範囲が広範囲に及ぶ場合もあります。
手術が難しい場合や、すでにがんが進行している場合には、がんの進行を抑えるための化学療法(抗がん剤治療)が行われます。また、補助的に放射線治療が行われることもあります。
黄疸の症状がみられる場合には、胆汁の流れを改善するための処置(胆道ドレナージ)が、手術や化学療法の前に行われることが一般的です。
胆管細胞がんになりやすい人・予防の方法
胆管細胞がんの発症リスクを高める要因として、原発性硬化性胆管炎や胆管結石、肝炎ウイルス感染、肝硬変などが報告されています。これらの疾患をもつ方は、胆管細胞がんを発症するリスクが高いと考えられます。
また、印刷工場で使用される化学物質(ジクロロメタン、1,2-ジクロロプロパン)への曝露も発症リスクを高めると考えられており、有機溶剤を扱う職業の方は注意が必要です。
疫学的には、胆管細胞がんは女性よりも男性に多くみられる傾向があります。生活習慣の影響も指摘されており、喫煙や飲酒が発症リスクを高める可能性があるとされています。
胆管細胞がんは、正常な肝臓に発生することが多く、進行するまで自覚症状がほとんどないため、発見が遅れやすい病気です。健康診断などで肝機能の異常や胆管の拡張などが指摘された場合には、精密検査を受けることをおすすめします。
現時点では確立された予防法はありませんが、肝炎ウイルスの感染を防ぐこと、過度な飲酒を控えること、禁煙を心がけること、化学物質への曝露を避けることなどが、胆管細胞がんの予防につながる可能性があります。
参考文献
- 国立研究開発法人国立がん研究センター 胆道がん(胆管がん[肝内胆管がんを含む]・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん)について
- 一般社団法人 日本肝胆膵外科学会 肝内胆管がんと肝良性腫瘍
- 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 成果情報 予後不良な肝内胆管がんの新たな発症機序を解明―治療標的の同定により新規薬剤開発に期待―
- 一般社団法人 日本胆道学会 胆道 26 巻 5号 678~690(2012) 膵・胆管合流異常の診療ガイドライン(日本膵・胆管合流異常研究会・日本胆道学会編)
- 国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト 喫煙・飲酒と肝内胆管がん・胆道がん罹患との関連
- 独立行政法人労働者健康福祉機構 産業保健21 2012.10 第70号 緊急特集 職業性胆管がん
- 一般財団法人 日本消化器病学会 消化器難治癌シリーズⅡ 胆道癌




