目次 -INDEX-

肝臓がん
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

プロフィールをもっと見る
信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

肝臓がんの概要

肝臓がんは、肝臓に発生する悪性腫瘍であり、その多くは肝細胞から発生する肝細胞ガン(HCC)です。肝臓は人体最大の臓器であり、栄養の代謝や解毒、胆汁の生成など、生命維持に欠かせない重要な機能を担っています。肝臓がんは進行が早く、早期発見が難しいため、治療の難易度が高い疾患です。

肝臓がんの原因

B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の感染は、肝臓がんの原因です。これらのウイルスは、血液や体液を介して感染し、長期間にわたって肝臓に炎症を引き起こします。慢性肝炎の状態が続くと、肝硬変を経て肝細胞ガン(HCC)へと進行するリスクが高まります。なかでもC型肝炎ウイルスは慢性化しやすく、肝硬変や肝臓がんの発症リスクを増加させます。

過度の飲酒はアルコール性肝炎や肝硬変を引き起こし、最終的に肝臓がんのリスクを高めます。アルコールは肝細胞に直接的な毒性を持つとされ、長期間にわたる大量摂取が肝臓の細胞を損傷させます。アルコール依存症や長年の飲酒習慣を持つ方々は、肝臓がんの発症リスクが特に高いです。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコールを摂取しないにも関わらず、肝臓に脂肪が蓄積する状態です。NAFLDが進行すると、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)となり、肝硬変や肝臓がんのリスクが高まります。NAFLDの主なリスク要因には、肥満、2型糖尿病、高脂血症が含まれます。

アフラトキシンは、カビ(アスペルギルス属)が生成する強力な発がん性物質で、主に汚染された食品(例えば、ピーナッツや穀物)を通じて摂取されます。アフラトキシンは肝臓に直接的なダメージを与え、肝臓がんの発症リスクを高める場合があります。特に、熱帯および亜熱帯地域ではアフラトキシン汚染が深刻な問題となっています。

近年、生活習慣病も肝臓がんとの関連があるとされています。糖尿病や肥満、高血圧などのメタボリックシンドロームは、肝臓への負担を増加させ、肝硬変や肝臓がんのリスクを高める要因となります。これらの生活習慣病を予防・管理することが、肝臓がんの発症リスクを減少させるために重要です。

肝臓がんの前兆や初期症状について

肝臓がんの初期症状として、体のだるさや疲労感が挙げられます。これは、肝臓の機能が低下することにより、エネルギーの代謝がうまくいかなくなるためです。日常生活で感じる疲労感が増し、休息を取っても改善しない場合は注意が必要です。

肝臓は右上腹部に位置しているため、肝臓がんが進行するとこの部分に痛みや不快感を感じることがあります。痛みは鈍いものから鋭いものまでさまざまで、持続的な場合もあります。特に、運動や深呼吸をした際に痛みが増すことがあります。

肝臓がんの初期症状には、食欲不振や体重減少も含まれます。これは、肝臓の機能低下により消化や栄養吸収が悪くなるためです。食欲がなくなり、急激に体重が減少する場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。

黄疸は、肝臓の機能が著しく低下した場合に現れる症状です。皮膚や目の白い部分が黄色くなる現象で、ビリルビンという物質が血液中に過剰に蓄積されることが原因です。黄疸が現れた場合は、すぐに医師の診察を受けることが必要です。

肝臓がんが進行すると、腹部の膨満感や腹水が見られる場合もあります。腹水とは、腹腔内に液体がたまる状態で、腹部が張った感じや膨らんだ感じがします。これにより、呼吸困難や動きにくさを感じることがあります。

肝臓がんの初期には、上記の症状以外にも発熱、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状や、皮膚のかゆみ、あざができやすくなるといった症状も見られる場合があります。これらの症状が長期間続いたり、複数の症状が同時に現れたりする場合は、早めに内科や消化器内科を受診しましょう。

肝臓がんの検査・診断

慢性肝炎や肝硬変を持つ方は、肝臓がんの発症リスクが高いとされるため、約3〜6ヵ月ごと定期的な超音波(エコー)検査や腫瘍マーカー検査が推奨されます。これにより、肝臓内の異常を早期に発見できる可能性があるとされています。

定期検査で異常が発見された場合、さらに詳細な検査を行います。超音波検査で異常が確認された場合には、造影剤を使用したCT検査やMRI検査が行われます。これにより、肝臓がんの大きさや位置、ほかの臓器への影響などを詳しく調べることができます。

また、血液中の腫瘍マーカーを測定し、肝臓がんの有無や進行状況を評価します。肝臓がんでは、AFP(アルファ・フェトプロテイン)、PIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)などの腫瘍マーカーが使用されます。腫瘍マーカー検査は診断の補助として重要な役割を果たし、診断後の治療効果の評価にも用いられます。
CTやMRI検査で悪性か良性かの区別が難しい場合や、さらに詳細な診断が必要な場合には、病変部の組織を採取して詳しく調べる生検が行われます。これにより、よりしっかりとした診断が可能とされており、治療方針の決定に役立てられます。

治療方針を検討する際には、血液検査による肝機能の調査も重要です。また、肝硬変の進行に伴い食道や胃に静脈瘤ができているかを確認するために、内視鏡検査も行われます。静脈瘤からの出血の危険性を調べることで、適切な治療計画を立てることにつながります。

肝臓がんの治療

手術療法は、肝臓がんの根治を目指す治療法です。主にがんの進行が初期段階で、ほかの臓器に転移していない場合に適用され、手術によってがんを切除することが目標となります。腹腔鏡手術やロボット支援手術など、患者さんの負担を軽減する低侵襲手術が行われる場合もあります。

肝移植は、肝臓がんが肝臓内に限局している場合に適用される治療法です。なかでも肝機能が著しく低下している患者さんにとって有効な治療法とされています。適切なドナーが見つかることが前提となりますが、肝臓全体を新しいものに置き換えることで、がんの除去を図ります。

局所療法には、ラジオ波焼灼術(RFA)やマイクロ波凝固療法、経皮的エタノール注入療法(PEIT)などがあります。これらは、腫瘍を直接焼灼や注射で破壊する方法で、小さな腫瘍に対して適用されます。患者さんの体への負担が少ないとされるため、高齢者や手術が難しい方におすすめです。

放射線療法は、高エネルギーの放射線を使用してがん細胞を破壊する治療法です。肝臓がんにおいては、手術やほかの治療が困難な場合に用いられます。定位放射線治療(SBRT)など、精度の高い放射線治療を行い、正常組織への影響を抑える工夫がされています。

化学療法は、抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃する治療法です。進行した肝臓がんや手術後の再発予防に用いられます。新しい分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの登場により、治療効果が向上している傾向があります。いずれにおいても、患者さんの状態に合わせて、適切な薬剤と投与方法が選択されます。

肝臓がんのなりやすい人・予防の方法

肝臓がんの発症要因のひとつは、B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスの持続感染です。これらのウイルスが体内に長期間とどまることで、肝細胞が繰り返し炎症を起こし、その結果、遺伝子変異が蓄積してがん化します。

その他にも次のような危険因子が知られています。長期間の大量飲酒は肝硬変を引き起こし、肝臓がんのリスクを高めます。また、喫煙はすべてのがんのリスクを増加させる可能性があり、肝臓がんも例外ではありません。肥満は脂肪肝を引き起こし、肝臓がんの発症リスクを高めます。糖尿病患者さんも肝臓がんのリスクが高くなる場合があります。また、男性や高齢者は、肝臓がんのリスクが高い傾向があります。

肝臓がんの予防には、生活習慣の改善と定期的な検査が重要です。禁煙し、アルコール摂取を控えることで、肝臓への負担を軽減すると、肝臓がんのリスクを減らせる可能性があります。
また、バランスのよい食事と適度な運動も大切です。栄養バランスの取れた食事と定期的な運動は、健康な体重を維持し、肝臓の健康を保つ助けになります。

肝炎ウイルスの感染予防も重要です。B型肝炎ウイルスはワクチン接種により予防可能とされています。そして、定期的に検査を受け、早期に感染を知ることも重要です。特に肝炎ウイルスに感染している方や肝硬変のある方は、定期的な腹部超音波検査や腫瘍マーカー検査を受けることが推奨されています。

関連する病気

この記事の監修医師