いびきは循環器系の疾患を引き起こす可能性があるという事実、睡眠中の「変な呼吸」に要注意
眠っているときに酸素不足を起こす「睡眠時無呼吸症候群」。その予兆は、いびきをかくこととも言われています。だとしたら、いびきの種類や音から疾患リスクを判定することもできそうですが、はたして、この考え方は合っているのでしょうか。「吉祥寺睡眠メディカルクリニック」の服部先生に伺ってみました。
監修医師:
服部 庸一郎(吉祥寺睡眠メディカルクリニック 院長)
北里大学医学部卒業。平塚共済病院勤務を経て、2011年、東京都武蔵野市に位置する「医療法人社団新洋和会吉祥寺睡眠メディカルクリニック」の院長に就任。睡眠時無呼吸症候群の治療に注力している。日本睡眠学会認定専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定産業医。
種類や音は問わず、「いびき」そのものがリスク
編集部
いびきって、何かの病気のサインですか?
服部先生
絶対とは限らないですが、睡眠時無呼吸症候群の兆候が出ていると言えるでしょう。睡眠時無呼吸症候群を診断する目安の1つに、「1時間のうち、5回以上の無呼吸か低呼吸があること」という要件があります。そして、いびきは低呼吸の一種とみなされています。
編集部
睡眠時無呼吸症候群だと、何がいけないのでしょうか?
服部先生
症例研究から、「脳・心血管系障害の合併率が高い」ことが判明しています。例えば、睡眠時無呼吸症候群の人は、脳卒中なら約4倍、心筋梗塞なら約2~3倍かかりやすいということです。また、自覚としてよく言われるのは「日中の眠気やだるさ」です。ただし、実際のところは睡眠時無呼吸症候群と診断された患者さんの半数くらいしか感じていないようです。
編集部
寝ているときの呼吸が循環器に影響しているのですか?
服部先生
そうです。睡眠時無呼吸症候群による酸素不足が起きると、心拍出量の増加によって酸素を補おうとするため、血圧は上昇します。起きているとき、意識的に息を止めると心拍数が上がってきますよね。簡単に言えば、これと同じことが睡眠中にも起きているということです。
編集部
そこで本題です。いびきの種類は関係しているのでしょうか?
服部先生
「ガーガー、ゴーゴー」という音のするいびきと、突然「カッ」という音と共に呼吸を再開するようないびきがあるものの、「いびきの種類は睡眠時無呼吸症候群の指標にならない」と考えています。いびきの種類ではなく、「睡眠中における血中の酸素濃度」が問題になってきます。
無呼吸や低呼吸は、いつしているかわからない
編集部
血中の酸素濃度は、どうやって測ればいいのでしょうか?
服部先生
医療機関にご相談いただければ、睡眠中の血中酸素濃度を測定して睡眠状態を確認することができる簡易測定器を貸し出してくれます。
編集部
受診の目安とかってありますか?
服部先生
ご自身でいびきに気づくのは難しいと思いますので、パートナーやご家族から「寝ているときに変な呼吸の仕方をしている」と指摘があった場合は、血中酸素濃度を調べた方がいいかもしれません。もしかしたら、先述した睡眠時無呼吸症候群の可能性が考えられます。他方で、周囲からしたら音そのものが迷惑なのかもしれません。ですから、ご本人の病気としての治療はもちろんのこと、ご家族の安眠対策としても一度受診してみてはいかがでしょうか。
編集部
受診した結果、「病的ないびきではない」と言われたら恥ずかしいです……。
服部先生
「睡眠時無呼吸症候群ではない」とわかっただけでも、立派な成果だと思います。その一方で睡眠時無呼吸症候群と診断が付けば、治療に進むことでお悩みを解決できます。どちらの結果になったとしても、けっして「空振り」では終わりません。そこは遠慮せず相談しにきてほしいですね。
合併症対策として治療すべき
編集部
どんな人がいびきをかきやすいのでしょうか?
服部先生
よく言われているのは、太っている人ですね。ただし、痩せていても起こり得ることに加えて、女性にも多くみられます。とくに日本人の場合、生まれつき顎が小さいので、「舌を収納するスペース」が十分ではありません。収まりきらない舌が喉をふさいでしまい、いびきをかいてしまう仕組みです。また、閉経後にホルモンバランスが変わることで、気道が狭くなることもあります。実際に、いびきで受診される人の約4割は、肥満に属さない人たちです。
編集部
いびきは見かけによらないということですね?
服部先生
はい。加えて、先ほど申し上げたとおり、大きな音のするいびきだから病的とも言えませんし、逆もまたしかりです。酸素が送られていない「無呼吸」の間も音はしないですからね。したがって、いびきの種類からは呼吸の中身が問えないということです。
編集部
つまり、いびきの音をなくすというより、呼吸障害の合併症対策として治療するべきだということですか?
服部先生
そのとおりです。最も怖いのは酸素不足による脳卒中や心筋梗塞などの「脳・心血管系障害の合併」です。そして、睡眠中の呼吸障害は必ずしも“音のするいびき”に限らず起こります。ぜひ、隠れているかもしれない病気の有無を確認しておきましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
服部先生
睡眠時無呼吸症候群という病名が知られてくるにつれ、「いびきが心配だから調べてほしい」という患者さんは増えています。かつては寝ている間の“突然死”の原因が追いきれませんでしたが、今ではある程度のリスク判定ができます。いびきの音にとらわれず、睡眠中に「変な呼吸」の仕方をしていたら、それが受診の目安です。パートナーやご家族にも確認してもらうのもいいと思います。
編集部まとめ
いびきには、「放置していても差し支えないもの」と、「怖い病気の前触れとして起こっているもの」があるようです。しかし、外見や音からは区別がつかず、血中の酸素濃度を測って診断するほかないようです。さらにいえば、我々がいびきと認識している生理現象以外でも、血中の酸素不足が起こり得ます。合併症のリスクをはらんでいるので、「変な呼吸」をしていたら検査だけはしてみてください。
医院情報
所在地 | 〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-4-16 サンク吉祥寺4階 |
アクセス | JR・京王井の頭線「吉祥寺駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 睡眠時無呼吸症候群、内科 |