子宮内膜症を発症する人が増えているって本当? 医師に実際のところを聞きました
本来子宮の中にある子宮内膜が、子宮以外の場所で増殖してしまう病気を「子宮内膜症」といいます。この病気を発症する人が年々増えているといわれますが、本当でしょうか? 子宮内膜症に対するアレルギー療法などの研究で実績を残し、世界不妊学会での受賞歴もある、日本産科婦人科学会専門医の内出一郎先生に、話を聞きました。
監修医師:
内出 一郎(内出産婦人科 院長)
東邦大学医学部卒業。東邦大学医療センター大森病院産婦人科にて、森田峰人教授の片腕として多数の腹腔鏡手術執刀に携わる。執刀経験数は2,000症例以上。その後、東邦大学医療センター 佐倉病院産婦人科講師、東京腎泌尿器センター大和病院産婦人科部長などを歴任し、平成25年に先代院長より医院を継承する。第18回世界不妊学会(カナダ・モントリオール)にてBest Poster Award 受賞。子宮内膜症に対するアレルギー療法という、オリジナリティのある研究および臨床応用で良好な結果を残している。日本産科婦人科学会専門医、日本産科婦人科内視鏡学会評議員・技術認定医など、多数の学会で専門医・認定医の資格をもつ。東邦大学大学院卒・医学博士。
そもそも、「子宮内膜症」とは?
編集部
子宮内膜症とは、どのような病気でしょうか?
内出先生
子宮内膜またはそれに類する組織が、子宮の内腔以外の場所で発生し、増殖してしまう疾患のことを子宮内膜症といいます。一般に、多く発症するのは20〜30代の女性と言われており、ピークは30〜34歳とされています。
編集部
「子宮の内側以外の場所」とは、具体的にどのような場所ですか?
内出先生
卵巣や、子宮と直腸の間のくぼみである「ダグラス窩」、子宮を後ろから支える靭帯である「仙骨子宮靭帯」、卵管、子宮と膀胱の間のくぼみである「膀胱子宮窩」などにできやすいと考えられています。また、それほど多くありませんが、肺や腸にもできることがあります。
編集部
なぜ、それらの場所に子宮内膜が発生してしまうのですか?
内出先生
現在、子宮内膜症の原因ははっきり解明されていません。主要な説などはありますが、現在でも研究が続けられているところです。
子宮内膜症の女性は増えている?
編集部
「子宮内膜症の患者さんが増えている」という記事を見かけます。実際はいかがでしょうか。
内出先生
たしかに、「近年、子宮内膜症が増えている」という言葉を耳にすることが多くなりました。しかし実際のところ、どれくらい前と比較しているのか明らかではありませんし、統計学的には明確な根拠がありません。ただし考えられるとすれば、近年は昔と違って、女性にとって産婦人科を受診するハードルが下がっており、その結果「子宮内膜症ではないか?」と診断されるケースが増えたのではないかと思います。
編集部
産婦人科を受診するハードルは以前と比べて下がっているような感じがします。
内出先生
インターネットをはじめ、さまざまなメディアを通して、女性の体特有の疾患に関する情報が広く出回るようになりました。その結果、女性にとって「産婦人科を受診する」ということは以前に比べてハードルが下がり、「気になる症状が出ているから、念のため、産婦人科に行ってみよう」という方が増えたのではないでしょうか。
編集部
なるほど。「産婦人科を受診するひとが増えたから、結果的に、子宮内膜症と診断される人が増えたのではないか」ということですね。子宮内膜症の症状は、一般的に、どのようなものですか?
内出先生
まずは月経痛がひどくなる、ということ。また、炎症や癒着が起こることにより、月経時以外にも下腹部痛や腰痛、排便痛、性交痛などが起こる場合もあります。
編集部
どのようにして診断されるのですか?
内出先生
まずは問診や内診、超音波検査などを行います。それから、卵巣がんなどほかの病気と見分けるため、CTやMRIの検査や、血液検査を行うこともあります。しかし、確実な診断をつけるには、お腹の中の様子を直接見ることが必要。そのため、場合によっては腹腔鏡検査を行うこともあります。
子宮内膜症の治療と予防
編集部
子宮内膜症はどのように治療するのですか?
内出先生
一般的に、薬物療法と手術療法があり、それらを併用することもあります。いずれにしても、症状や進行具合、患者さんの年齢、今後妊娠を希望するかなどを総合的に判断し、それぞれに適した治療法をご提案します。
編集部
子宮内膜症は根治することができるのですか?
内出先生
子宮内膜症は完治することのない疾患です。卵巣や子宮ごと、病巣を取り除く根治手術を受ける以外は、月経が終わるまで、長く付き合っていくことが必要になります。
編集部
予防することはできるのですか?
内出先生
発症の原因がわかっていないため、予防することはできません。しかし、月経痛の痛みをコントロールすることはできます。そのために有効なのが、低用量ピル。低用量ピルには女性ホルモンが配合されており、排卵を抑制することと、子宮内膜を薄くする効果があります。一方、黄体ホルモン製剤は子宮内膜組織に直接的に効果があります。
編集部
ほかに、予防としてできることはありますか?
内出先生
定期的に婦人科検診を受けること。特に、一度子宮内膜症を発症した人は、経過観察が大切です。かかりつけ医の指示のもと、しっかり経過をチェックしていれば、たとえ再発したとしても病気の進行を食い止めることができるでしょう。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
内出先生
子宮内膜症は明確な原因がわかっていないため、現在は、根治させることが困難。そのため、閉経までの期間うまく付き合っていく必要があります。また、妊娠を希望しないのであれば、低用量ピルを継続して服用し、月経を完全にストップさせるという選択肢もあります。いずれにしても、患者さんの考え方や症状によって、とるべき対策は大きく異なります。お一人で悩まずに、まずは医療機関に相談にいらしていただけたらと思います。
編集部まとめ
子宮内膜症の発症率は決して低くありませんし、若い頃から低用量ピルまたは黄体ホルモン製剤で月経コントロールすると、発症しにくいともいわれています。しかし痛みは薬でコントロールすることができますし、妊娠を希望する場合でも効果的な治療法はあります。まずは信頼できるかかりつけ医を見つけ、気軽に何でも相談できる関係性を築きたいですね。
医院情報
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