コロナ禍での糖尿病治療、どうやって向き合えばいい?
「アフターコロナ」という言葉が象徴するように、昨今、仕事や生活は著しく変化しています。我々は、外出自粛による運動不足が懸念されるなか、通院治療にどう向き合うべきでしょうか。その一例として、糖尿病外来の最前線の様子を、「仙川ひろクリニック」の鈴木先生に伺いました。
監修医師:
鈴木 博史(仙川ひろクリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医科大学系列病院の医局を経て、2014年には東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科医長に就任。その後の2021年、東京都調布市に「仙川ひろクリニック」開院。縁のある地で地域医療に務めている。日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医・評議員、難病指定医、日本医師会認定産業医。日本高血圧学会会員。
感染のしやすさは病気を問わない
編集部
外出自粛が続いていますが、それが原因で来院しなくなった患者さんはいますか?
鈴木先生
たしかに、少なからずいらっしゃいます。移動や院内での感染リスクから通院を避けているのでしょう。しかし、すでに治療をはじめている人が感染症対策によって「治療を中断している」としたら非常に残念です。とくに糖尿病には、脳血栓や心筋梗塞といった「命に関わるリスク」をはらみますから、「不要不急」に含めなくていいように思います。
編集部
それでも、「感染してしまうのでは?」という怖さがあります。
鈴木先生
糖尿病だからといって、「新型コロナウイルス感染症にかかりやすい」ということではないようです。中国で約2000人、アメリカで約7000人を対象とした、糖尿病有病率を調べた調査報告があります。それによると、糖尿病の有無にかかわらず、「新型コロナウイルス感染症への罹患(りかん)率はほぼ一緒」だったそうです。
編集部
しかし、マスコミなどで「基礎疾患」が問われていますよね。
鈴木先生
基礎疾患のある人は「かかりやすい」のではなく、「重篤化しやすい」ということですね。これについても、アメリカの約7000人を対象とした調査で統計学的に示されました。同じコロナ患者でも糖尿病を有していると、集中治療室での治療に至る割合が約“5倍”に高まったそうです。
編集部
つまり、コロナ禍でも積極的に糖尿病を治しにいくべきだと?
鈴木先生
最終的にはみなさんに決めていただくことですが、「感染しやすさに変わりはない」ことと「感染したときに重篤化しやすい」ことを合わせて考えると、何かしらの糖尿病対策が必要だと思います。やはり、「感染の可能性があるから外出を避ける」よりも、「自宅にいることによる糖尿病の悪化を避ける」方が得策といえるのではないでしょうか。
状況によっては、オンライン診療や専用アプリも活用
編集部
コロナ禍によって、糖尿病治療の現場は何か変わりましたか?
鈴木先生
風邪の諸症状、とくに発熱などの自覚がある人は、来院前に一報を入れていただくようにお願いしています。受付時には、手指のアルコール消毒と検温するようにもなってきました。また、当院では、より遠隔から探知できるサーモグラフィを導入しました。加えて、アクリル板の設置もおこなっています。
編集部
感染症対策を徹底している印象を受けました。治療内容そのものはどうでしょうか?
鈴木先生
一般に、オンライン診療が増えているようです。ただし、「かかりつけ医がいて、患者さんの病態をよく知っていること」がオンライン診療の条件となるでしょう。加えて、薬や注射によって「血糖値が正常の範囲で安定していること」も必須です。逆に、「血糖値を測ってみないと、病気の実情が見えない場合」は、通院が前提になります。
編集部
血糖値って、自分で測れるのでしょうか?
鈴木先生
保険適用の自己測定機器がありますので、有効活用してみてください。さらに、アプリと組み合わせて、各データが医院に届くような遠隔診療システムも登場しています。オンラインで体の状態が可視化できるようになりつつありますが、このような進め方は医師が「オンライン診療でもやっていける」と判断した場合に限られているのが現状です。
編集部
ところで、新型コロナワクチンの接種が本格化してきましたが、糖尿病治療に影響はありますか?
鈴木先生
基本的に、糖尿病の投薬や注射とワクチン間の相互作用はないとされています。ですが、アナフィラキシーショックの経験があるようなアレルギー持ちの人は、事前に申告しておきましょう。そのほかに、問診を簡略化するコツとして、「お薬手帳」を接種の場に持参するとスムーズです。時短はもちろんのこと、間違った内容を申告することも防げます。
今の生活が将来の運命を決定づける
編集部
糖尿病は生活習慣が関わってきますよね?
鈴木先生
そうですね。しかし、運動や食事内容の「指導方法」に変化があったかというと、そんなことはありません。あえて言えば、間食の有無や体重の変化を念入りに聞き取ることくらいでしょうか。体重に関して言えば、体を動かす機会の減少による「コロナ太り」が散見されています。心当たりのある人は、野菜を多めに摂り、甘いものや脂っこいものを控えることからはじめましょう。
編集部
とはいえ、いきなり生活習慣を変えるのは困難です……。
鈴木先生
たしかに、「不摂生は一切ダメ」と言ったところで限度があるでしょう。100点満点を目指すような厳しい方法だと長続きしません。そこで、頻度を減らすような投げかけをしています。例えば、平日の間食を我慢できたら、土日は“これくらいなら”という条件付きで自分にご褒美を与えるといった工夫です。糖尿病はマラソンのように、長期にわたる取り組みが求められる病気です。短期での結果は、あくまで途中経過にすぎません。
編集部
いわゆる「○○がイイ」の類いって、信頼できるものでしょうか?
鈴木先生
仮に単一の食材が短距離で効いたとしても、長距離からしてみると単なる「偏食」でしかありません。決して、体にイイことではないでしょう。その辺も含めて、担当医とは報告・連絡を取り続けていただきたいです。やはり求められるのは、食事の栄養バランスです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
例えば、「極端な」糖質制限は長続きしません。糖尿病は、今の生活が将来に跳ね返ってくる病気です。マラソンを続けるためには何が必要なのか、ぜひ、一緒に伴走させていただきながら考えていきましょう。また、コロナ禍ならではのアドバイスもできるかもしれません。
編集部まとめ
すでに糖尿病を有している場合でも、新型コロナウイルス感染症へのかかりやすさは、健常な人と変わらないということでした。「かかったときの重篤化を恐れるのか」、「リスクが同じなら糖尿病治療を優先するのか」は、各人の判断でしょう。加えて、ワクチン接種の功奏も視野に入れておきましょう。今まさに、糖尿病治療のターニングポイントが来ているのかもしれません。
医院情報
所在地 | 〒182-0002 東京都調布市仙川町1-14-22 花輪ビル1階 |
アクセス | 京王線「仙川駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |