お酒を飲まない人でも肝臓病になる! 自覚症状がないとしたら、どうやって見つけるの?
B型・C型などのウイルス感染による肝炎は、もちろん、過去の飲酒歴を問いません。しかし今回、注目したいのは、感染や飲酒歴によらない肝臓病です。健康意識の高い人でも、肝硬変や肝臓がんのリスクは避けられないのでしょうか。「東長崎駅前内科クリニック」の吉良先生が解説します。
監修医師:
吉良 文孝(東長崎駅前内科クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。医療機関の入局や医学系企業への参画を経た2018年、東京都豊島区に「東長崎駅前内科クリニック」開院。“生きがい”のサポートを目指した診療を続けている。日本消化管学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会認定医。
今、注目を集めている「NASH(ナッシュ)」という病気
編集部
同じ肝臓の病気でも、「肝炎」と言ったり「脂肪肝」と言ったりしますよね?
吉良先生
そうですね。胃炎と同じような“炎症”が肝臓に起きたものを「肝炎」といいます。日本では、肝炎の約8割がウイルス性です。「B型肝炎」や「C型肝炎」などというキーワードを耳にしたことがある人も多いでしょう。ほか、自己免疫の影響による肝炎もあります。
編集部
肝炎には、メタボやお酒の影響が少ないような印象を受けます。
吉良先生
生活習慣が関わってくるのは、どちらかというと「脂肪肝」かもしれません。肝臓に中性脂肪がたまっていって機能障害を起こす病気のことです。かつて、脂肪肝の原因は、主に“飲酒”とみなされていました。しかし、最近になり、お酒を飲まない人の脂肪肝が認められてきています。
編集部
肝炎と脂肪肝は、どう違うのでしょうか?
吉良先生
肝炎は炎症が認められた病気で、脂肪肝は脂肪がたまってきた病気なのですが、同時に起こることもあり得ます。そして、アルコールを原因としない脂肪肝(NAFLD/ナッフルディー)から「非アルコール性脂肪肝炎(NASH/ナッシュ)」という炎症へ進むこともあります。なお、アルコールを原因としない脂肪肝は、超音波検査やCTで見つけることができます。しかし、その次のステップにあたるNASHは、針などで肝臓の組織を取りだして調べてみないと、正確にわかりません。
編集部
NASHの自覚症状はありますか?
吉良先生
NASHを含め、肝臓の病気のほとんどには自覚症状がありません。肝臓が「沈黙の臓器」と呼ばれる所以ですね。自覚症状は肝硬変まで進んでから、ようやく表れます。したがって、早期発見へ結びつけるためには、健康診断の「肝機能検査」の数値に注目することが大切です。NASHのサインは健診結果に出ます。
健診結果をストレートに受け止めることが重要
編集部
NASHは、珍しい病気なのですか?
吉良先生
NASHの有病率は、3~5%と推定されています。「推定」というのは、針生検による確定診断をしないで、「患者さんに痛い思いをさせずとも、投薬療法などに進んだ方がいいのではないか」と判断していることもありえるからです。実際、患者さんに針生検をお願いしても、痛いから受けていただけないことがあります。でしたら、早めに安定させた方が好ましいですよね。
編集部
お酒を飲まないのに、いずれ肝硬変になるかもしれないと?
吉良先生
その可能性があるということです。もっとも、「アルコールを原因としない脂肪肝」と言いましたが、この医学的な定義には、「全く飲まない人」のほかに「少量だけ飲む人」も含まれます。アルコールにして、男性なら1日30g未満、女性では1日20g未満が相当します。また、肝硬変と同様に、肝臓がんへ至るリスクもあります。
編集部
数%の確率でも、なったときが怖いですね。
吉良先生
そうですね。それに若者ほど、肝硬変やがんになっているケースが稀にあります。しかも自覚に乏しいので、気付いたときには仕事や日常生活が犠牲になりかねません。
編集部
その可能性が、健康診断の結果に出ていると?
吉良先生
はい。しかし、患者さんに求めたいのは、「ご自分で数値を読み解くこと」ではなく、「一刻も早く、医師の元へ相談に来ていただくこと」です。病気の診断は医師の領域ですし、早期なら治療も容易です。医学の進歩により、受診・検査さえ受ければ、針生検などの痛い思いをしなくても病気が類推できるようになりました。早々に、必要な処置をおこないましょう。
痩せ型でも安心はできない
編集部
なにがきっかけで、脂肪肝からNASHへ移行するのでしょうか?
吉良先生
かつては、糖尿病対策をしているとNASHが安定してきたため、「血糖コントロールが関係している」と思われていました。ところが最近になり、脂肪肝を経ずに、そのままNASHへ至る症例も報告されてきたようです。つまり、トリガーがはっきりと解明されていないことになります。
編集部
NASHの治療は可能なのですか?
吉良先生
肥満傾向の人は、痩せていただくことが第一ですね。NASHは「保険病名」になっていないので、専用の薬も「ない」ことになっています。そこで、痩せられない患者さんや痩せても血液検査で引っかかり続ける患者さんには、ケース・バイ・ケースで、糖尿病用の薬や抗酸化剤としてのビタミンEの処方を試みます。
編集部
手術が必要な場合もあるのでしょうか?
吉良先生
肝臓の機能が3分の2以上失われてしまった場合は、肝移植を検討します。また、自己努力で痩せるのが困難な人には、減量を目的とした「胃腸の部分摘出」が選択肢に入ってきます。ほとんどの場合、どちらも保険適用が認められた治療方法です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
吉良先生
肝硬変はメタボ気味な人に限らず、痩せている人にもみられるようになってきています。代謝量や運動量の低めの人にも、いわゆる「隠れ脂肪」が付くことがあるからです。健康診断で肝機能の異常値が出たら、体形や生活習慣にかかわらず、ぜひ定期的な観察を医療期間で続けてください。肝硬変や肝臓がんを防ぎましょう。
編集部まとめ
現在のところ、NASHの原因は明らかになっていません。脂肪肝を経由しない脂肪肝炎が散見されはじめたからです。また、痩せ型の人に起こり得ることを考えると、「メタボな生活」が原因とも言いきれないのでしょう。ただし、医師にそのリスクを評価してもらうことはできます。「お酒なんて飲んでいないのに……」や「体形は普通なのに……」といった素人判断は、「健康診断なんて信用できない」という思い込みに至りがちです。
医院情報
所在地 | 〒171-0051 東京都豊島区長崎4丁目7-11 マスターズ東長崎1階 |
アクセス | 西武池袋線「東長崎駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 内科、消化器胃腸内科 |