生涯「裸眼」で生活できる? ホリエモンと眼科専門医が語る眼科医療の最先端とは(後編)
近視治療において、一般的に知られている治療法の一つである「レーシック」は、術後から数年すると、近視が戻るリスクを抱えており、術後永久的に近視が進まないことを保証するものでもありません。そこで近年、ICL(眼内コンタクトレンズ)という治療が注目されています。ICLは、元々の視力に関係なく、近視の戻りが少ないため、術後何年経っても治療直後と同じ見え方が維持されます。
今回、堀江貴文氏と医療法人社団豊栄会・サピアタワーアイクリニック東京執刀責任者である北澤世志博医師が、「ICLと今後の眼科医療」について対談を実施しました。人生100年時代と謳われるようになった昨今、私たちは一生を「裸眼」で生活することが可能になるかもしれません。
※この記事は対談後編となります。前編は下記よりご覧いただけます。
実業家
堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
医療法人社団豊栄会 サピアタワー アイクリニック東京 執刀責任者
北澤 世志博(きたざわ よしひろ)
目次 -INDEX-
最先端の白内障レーザー治療
堀江
最先端の医療では、白内障治療もレーザー治療をおこなうと聞きました。
北澤
そうですね。以前の白内障手術は、医者の技術によって施されていました。しかし、現在はレーザーを利用しておこなっています。
堀江
医療は進化していますね。
北澤
たとえば、白内障の手術では水晶体前嚢(ぜんのう)を切開し、水晶体を分割してから取り除くのですが、以前は超音波を当てて砕くことを、医者の手作業でおこなっていました。
堀江
従来の人による器具の操作では、熟練を要しますね。
北澤
その通りですね。現在の医療では、水晶体前嚢を切開したり、水晶体を分割したりする作業は、レーザーで綺麗に切開・分割することが可能です。
堀江
それは凄いですね。なぜ、水晶体が濁ってしまうのでしょうか。濁らなければ良いのにと思ってしまいます(笑)。
北澤
そうですね(笑)。水晶体については、点眼を利用した予防方法などの研究が何十年とおこなわれていますが、なかなかいい方法は見つかっていません。結局、現在は「手術」が一番の改善方法です。
堀江
なるほど。白内障のレーザー治療におけるメリットは何でしょう?
北澤
一番のメリットは、メスを使わないことです。今までは、切開するためにメスを利用していましたが、現在はレーザーのみで手術をすることが可能です。
堀江
水晶体の袋を切るときも、レーザーのみで手術ができるのですか?
北澤
はい。水晶体にピントを合わせて、丸い形でレーザーを当てることができるので、メスは一切使用せずに手術できます。
堀江
なるほど。
北澤
事前に目のCT画像をスキャンして、レーザーを当てる範囲の深さも調整することができます。その全ての作業がオートメーションされていますので、水晶体前嚢を切開して、水晶体を分割する作業の時間は、約3分という短い時間でおこなうことができます。
堀江
それは凄いですね。オートメーションとは、人手によらず機械が自動的に調整しながら作業をおこなうことを指していますよね?
北澤
その通りです。目の写真を事前に撮ることで、機械が手術する範囲の深さや広さを自動で調整してくれます。
堀江
その機械は、まだ普及していないのでしょうか?
北澤
国内に40〜50台といったところでしょうか。まだ普及しているとは言えない状況です。しかし、少しずつ白内障の手術はレーザー治療でおこなうように変わっていくでしょう。
堀江
最先端のレーザー治療の技術は凄いですね。
北澤
そうですね。近視を治すレーザー治療に用いられている「フェムトセカンドレーザー」という技術を、少し変えたものが白内障レーザー治療の機械です。
堀江
フェムトセカンドレーザーとは、フェムト秒(1000兆分の1秒)という想像もつかない短い秒数で、レーザー照射するものですね。この技術が実用化されたのは、近年の話ではないでしょうか。
北澤
その通りです。近視用のレーザー治療にて、フェムトセカンドレーザーの技術が初めて国内で利用されたのは、私が導入した2003年の話です。
堀江
白内障のレーザー治療はいくらになりますか?
北澤
レーザーを使用した白内障治療は、約120〜150万円が相場です。この手術も保険が効かないので、どうしても料金は割高になります。医院がレーザー治療の機械自体を購入するにも、約5000〜6000万円かかります。そのことも、費用面には少なからず影響を及ぼしています。
ホリエモンの目の治療
北澤
堀江さんの場合、おそらく数年のうちに老眼が進み、近くのものが見えにくくなると思います。
堀江
そのときに、ICLを受ければ完璧ですよね。そうすれば、白内障になるまでは目が見える計算ですね。
北澤
平均的に、白内障の手術を受ける年齢は70歳前後です。堀江さんの場合、遠近両用ICL手術を受ければ、そこまでの約15年はしっかりと裸眼で生活することができます。
堀江
素晴らしいですね。そして、白内障の手術をするとなった際には、ICLの手術と全く同じ負荷でおこなうことができると捉えてよろしいでしょうか?
北澤
はい。水晶体を取るところは違いますが、同様の負荷で手術可能です。
堀江
本当に凄いですね。
北澤
50代で白内障の症状が少しでも出ていた場合、以前であれば近視と一緒に老眼を治療するために、水晶体を取って治す方法を用いていました。
堀江
現在はどうでしょう?
北澤
白内障でなければ水晶体に手をつけずに、遠近両用のICLを選択するように変わっています。治療の方向性は近年変わりつつあります。
堀江
凄く良いですね、是非、ICLを受けたいと思います。ちなみに、2005年頃に私は一度レーシック手術を受けないかと誘いを受けたことがありました。しかし、その時は断ってしまいました。
北澤
それは怖かったからですか?
堀江
その当時、目の前の人と喋っていて困るようなことはなく、それほど視力が悪くなかったからです。夜の運転に少し見えづらさは感じていましたが……。そこまで生活に困っていなかったのが理由ですね。
北澤
生活に不便を感じていなければ、治療の必要性を感じにくいですよね。
堀江
ただ、女性から「目つき悪いよ。絶対にコンタクトにした方が良いよ」と言われたことがきっかけで、コンタクトをつけるようになりました。
北澤
そこから、さらにレーシック治療を受けるようになったのはなぜですか?
堀江
コンタクトを一度つけてみると、目の前が全てクリアに見えるので、コンタクトなしの生活には戻れなくなりました。ちょうどその頃、私は刑務所に行く可能性がかなり高かったことも、レーシック治療を受けることに大きく関係しています。
北澤
なるほど。詳しく聞かせてください。
堀江
刑務所にコンタクトレンズを持ち込むことは可能ですが、外部からの差し入れを必ず見せなければなりません。コンタクトが足りなくなる度に、毎回その手順を踏むのがとても手間になります。それであれば、レーシックを受けてみようと思い、治療に至りました。
北澤
そのような経緯があったのですね。
堀江
レーシック治療を受けた結果、周囲の景色が鮮明に見えるようになったことで、部屋に落ちている自分の毛が気になりだしました。そのため、今度は脱毛手術をレーザー治療で受けたというおまけ付きです。
北澤
なるほど(笑)。レーシック治療を受けて良かったですか?
堀江
はい、それはもちろん受けて良かったです。
今後の注目技術
堀江
今後、何か注目されている技術はありますか?
北澤
たとえば、以前の白内障の眼内レンズは「2焦点」のレンズでした。「遠・中」に対応したもの、また「遠・近」に対応したものです。しかし、現在は「3焦点」のレンズが開発されています。
堀江
それは、「遠・中・近」ということですか?
北澤
はい、その通りです。遠距離の風景、中距離のパソコン画面、近距離でおこなう爪切り、全て裸眼で見られるようになります。多焦点のレンズに関する技術が、大きく進化しています。
堀江
そうなんですね。
北澤
ICLに関しても、近視・乱視・老眼に対応したレンズが開発されていますが、まだ「近い」ものに関しては少し弱い印象ですね。しかし、老眼矯正のレンズは、今後さらに細かいものが見えるように開発が進むとされています。
堀江
その技術より、さらに先に期待されているものは存在するのでしょうか。
北澤
白内障の眼内レンズに関しては、ピント調節のできるものが開発されています。元々、水晶体はピントを調節する機能が備えられているのですが、同じように眼内レンズがピントを調節できるようにするものです。
堀江
それは、どのようにピントを調節するのでしょうか。
北澤
目の周りにある筋肉(毛様体筋)が動くことで水晶体は動いていますが、歳をとるとその筋肉の動きも弱くなります。そこで、レンズの素材を柔らかいものにして、僅かな力でレンズを動かせるようにすることで、レンズのピントを調整できるような技術開発の研究がおこなわれています。
堀江
すごいですね。
北澤
あとは、水晶体が濁らないようにしたり、濁りをなくしたりする目的で使用する「注射薬」も実験がおこなわれています。この技術は、まだ何十年も先になる気がしますが……。
堀江
なるほど。ちなみに水晶体そのものは、ただのレンズと捉えることができますよね?
北澤
そうですね。水晶体の機能としては簡単なものなので「レンズ」と捉えて大丈夫です。
堀江
それであれば、水晶体が人工物であっても特に大きな問題はないということですね。
北澤
はい。人工物であっても、基本的にはレンズの機能を果たせていれば、問題ありません。ただ、レンズの素材を柔らかいものにする技術は、まだまだ課題も多いのが現状です。先に説明した「3焦点」のレンズと「柔らかい素材」のレンズを比較した場合、「3焦点」の方が、明らかにピントを合わせやすいのです。
堀江
3焦点レンズの場合、たとえば「遠」と「中」、その中間の「あいまいな部分」に関しては、多少見えにくくなるのでしょうか。
北澤
そうですね。3焦点にあわせているので、多少見えにくい部分はありますが、全く見えないわけではありません。
堀江
日常生活を送る上で困らないレベルですか?
北澤
はい、特に大きく困るほどではありません。また、人間の脳はとても賢いので、あいまいなゾーンに関してもしっかりと処理してくれます。
堀江
スマートフォンのレンズのようですね。最新のiPhoneはカメラレンズが3つあり、「遠」「中」「近」の3焦点を全て処理してくれます。
北澤
はい、iPhoneのカメラ機能と似ていると言えますね。
堀江
では、私は目のことに関して何も心配しなくて良いですね(笑)。
北澤
そうですね(笑)。緑内障、網膜剥離、糖尿病による眼底出血などの「疾患」にならない限りは、大きな問題がない時代と言えるでしょう。
編集部まとめ
眼科医療の技術は、日々進化しています。今回紹介したICLなど、皆さんの生活を大きく変える可能性を秘めた治療を受けられる時代です。一生裸眼で過ごせる、生活の質が上がる、認知症の予防ができるなど、治療を受けることで多くのメリットが存在します。
ICL手術を受けることで、眼鏡やコンタクトレンズを手放し、ストレスから開放される日々が手に入るかもしれません。費用対効果などを兼ねて、皆さんも検討してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目7番12号 サピアタワー 7階 |
アクセス | JR線「東京駅」八重洲北口より日本橋口方面に徒歩3分 東京メトロ東西線「大手町駅」(B7出口直結)徒歩1分 |
診療科目 | 眼科・ICL手術・レーザー白内障手術 |