“元に戻せる”視力矯正手術、ICL手術に密着してみた
昨今、注目を集めているのが、「ICL(眼内コンタクトレンズ)」という視力回復手術だ。見た目は、小さなソフトタイプのコンタクトレンズに近い。ただし、目の中へ直接埋め込むところが、一般のコンタクトレンズとは異なる。その最大の特徴は、万が一の場合でも取り出して「元に戻せる」こと。はたして、どのような流れで検査や手術がおこなわれるのだろう。そこで、手術を予定している平瀬氏の同意の元、治療に密着させていただくこととなった。
監修医師:
北澤 世志博(医師)
被験者:
平瀬 智樹(株式会社GENOVA 代表取締役社長)
なぜ、視力回復手術を受けることにしたのか?
編集部
目でどのようなお悩みを持たれていたのですか?
平瀬氏
小学校高学年のころから近視が進み、メガネやコンタクトレンズの煩わしさに悩んでいました。また、趣味のサーフィンをするとき、コンタクトレンズだと、水中で目を開けられないんですよね。海水の浸透圧でレンズが変形したり、感染症のリスクが高くなってしまったりしますから。また、コンタクトレンズを着用しながら寝れないことにも煩わしさを感じていました。
編集部
「ICL」による手術を選んだ理由は何でしょう?
平瀬氏
安全性です。「いつでも元の状態に戻せる」という点に安全性を感じ、手術を受けてみようと思いました。日本の厚生労働省やアメリカ食品医薬品局も、その安全性と効果を認めているそうです。
編集部
手術に対して恐怖感はありますか?
平瀬氏
最初は点眼麻酔と聞いていたので、怖いと思っていたのですが、手術を受けられた方が、「手術はほんの一瞬だし、痛くないよ」と言っていましたので、受けてみようと決意しました。日常生活で見えづらさを抱え続けていることのほうが怖い。コンタクトレンズの長期使用で目を痛めてしまうことも気になりますしね。今日は覚悟を決めてきました。
検査前対談
平瀬氏
本日はよろしくお願いします。
北澤先生
よろしくお願いします。平瀬さんは視力回復手術を検討していると伺っていますが、目のことでどのようなお悩みを持たれていたのですか?
平瀬氏
一番は近視ですね。小学校高学年のころから近視が進み、メガネやコンタクトレンズの煩わしさに悩んでいました。また、サーフィンをするとき、コンタクトレンズだと、水中で目を開けられないので、不満を感じていました。
ICLだと、水中で目を開けることができるのですよね?
北澤先生
はい。普通のコンタクトレンズと違い、眼内コンタクトレンズですので、術後は裸眼の方と同じように水中で普通に目を開けることができます。また、眼内は無菌ですから、コンタクトレンズのように汚れたり、出し入れや定期的な交換をしたりする必要がありません。これが「眼内永久コンタクトレンズ」と言われる所以ですね。
平瀬氏
視力矯正手術はほかに、レーシック手術が有名だと思いますが、レーシックでは、水中で目を開けることはできるのですか?
北澤先生
レーシックを受けた方も水中で目を開けることは可能です。ただし、レーシックではフラップという角膜表層の蓋が残っていますので、術後数年も経っていたのに、スポーツでの外傷や、指が目に当たってフラップがずれて視力が低下してしまう、というケースがあります。レーシックはフラップという蓋があるので外傷に弱いという欠点があります。
平瀬氏
なるほど。 では、ICL手術とレーシック手術の違いについて教えてください。
北澤先生
レーシックは角膜を削る手術のため、近視が強いと術後早期は良くても経年的に視力が低下したり、夜間ではハローやグレアといった光の拡散で暗いところで見にくかったり、ドライアイが高確率で出現したりします。他方、ICLはコンタクトレンズと同じようにレンズの度数で近視を治すので、レーシックのようにレーザーの効果が落ちて視力が低下することはありません。また角膜を削らないため、夜間のハローやグレアも少なく、ドライアイが出ることもありません。むしろドライアイの方やコンタクトレンズの長時間装用で調子が悪かった方には適したレーシックの欠点を補完した手術なので、近年受ける方が増えているわけです。
平瀬氏
では、手術はノーリスクだと?
北澤先生
いえいえ、手術ですから充血や炎症はありますし、点眼をさぼると感染症などを起こすリスクはありますので、術後の注意事項はしっかりと守って頂く必要がありますよ。
平瀬氏
手術は医院によって治療に差が出たりするものなのですか?
北澤先生
はい、レーシックはレーザーに依存した手術ですから、執刀医によって結果にさほど違いは出ません。他方、ICLは内眼手術で、切開からレンズ挿入、レンズの固定、眼内洗浄といったすべての操作を執刀医がおこないますから、術者によって結果も大きく変わります。
平瀬氏
医院の見極め方のポイントなどありましたら教えてください。
北澤先生
ICLの手術は、白内障の手術に近いので、手術を受けられる場合は、レーシックを専門とする医院や安価な医院ではなく、白内障の手術経験が多い執刀医、医院を選ぶことをおすすめします。また執刀はライセンス制度になっており、国内で9名しかいないエキスパートインストラクター、インストラクター(指導医)、認定医の順になっています。手術を受ける際に、どのレベルの執刀医が担当してくれるか確認すると良いでしょう。
検査の流れ
14:00~14:30 受付・問診票の記入
免許証などでの本人確認や、現住所の確認などをおこなったのち、問診票を記入。問診票の内容は目の病気歴やコンタクトレンズの使用歴、一般的な健康状態、手術時の希望など約40項目。とくに目を引いたのは「ペットを飼われていますか」という質問だ。スタッフに聞くと、ペットの顔をなめるような行為や細かな毛の飛散などが、術後のケアに関係してくるそう。
14:30~14:50 目の各種検査
この日におこなわれたのは、個人に合わせた「眼内コンタクトレンズ」を作製するための各種検査。具体的には、角膜の形状をデータ化する「ペンタカム」、眼内コンタクトレンズを入れるスペースを見るカシア2、視力・屈折度数検査、眼圧検査、瞳孔の検査など。また、後の散瞳眼底検査に備え、目の緊張を取る目薬が点眼された。
このとき、「普段よりまぶしく感じてくること」「手元のピントが合いにくくなってくること」などの説明を受ける。薬の効果は4~5時間くらい続くそう。
14:50~15:00 概要DVDの視聴
待合室にて、手術に関するイメージDVDを視聴。手術時、「眼内コンタクトレンズ」は丸まった状態になっていて、注射器のような器械で虹彩と水晶体の間に挿入されるようだ。挿入後は、自然に広がって安定する。目の中に固定されるところが、一般的なコンタクトレンズと違うポイントだろう。
15:00~15:30 スタッフによるカウンセリング
各種検査結果のフィードバックがおこなわれた。「眼内コンタクトレンズ」の適応はとくに問題なく、手術により視力1.5程度まで回復する見込みがあるとのこと。ただし、「眼内コンタクトレンズ」を挿入したとしても、老眼は避けられないという。その場合、通常の老眼鏡が併用できる。
15:30~15:50 医師の診察
目の病気や「眼内コンタクトレンズ」の適応などを最終的にチェック。医師が眼球に光を当てながら、散瞳眼底検査をおこなう。その結果、すべて“正常”とのお済み付きを得たようだ。なお、手術後の感染防止対策については「くれぐれも厳守してほしい」と注意を受ける。
15:50~16:00 次回の予約
今後、「眼内コンタクトレンズ」の度数などを最終的に決める再検査が必要とのこと。日程を調整して、その日は終了となった。
手術当日まで
検査後、平瀬氏は2度来院し、眼内に挿入するコンタクトレンズの度数を決めるための検査をおこなった。また、手術3日前から抗生物質を点眼し、感染症を防ぐ。手術前日まではコンタクトレンズを装用できるが、当日は装用してはいけないとのこと。平瀬氏も手術当日は、メガネで来院した。
手術の流れ
14:00~14:10 受付
免許証などでの本人確認や、現住所の確認、同意書への捺印などをおこなう。
14:10~15:10 手術前の散瞳薬・消毒薬の点眼
5分間隔で6回ほど散瞳薬と消毒薬を点眼し、大きく瞳孔を開かせる。続けて、消毒薬を点眼し、感染症予防をおこなう。
15:10〜15:20 手術
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STEP1 右目の麻酔・手術
手術は両目同時におこなう。目薬タイプの麻酔を点眼して、眼内コンタクトレンズ挿入のために3mmほど切開する。
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STEP2 眼内コンタクトレンズの挿入
インジェクターという挿入器を使って、切開した部分から細長く筒状に折りたたんだ眼内コンタクトレンズを挿入する。切開創は3mmと小さいため、縫合の必要はない。創口はすぐに塞がり自然治癒するとのことだ。
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STEP3 眼内コンタクトレンズの固定
折りたたまれたコンタクトレンズは、眼内でゆっくりと自然に広がる。広がったコンタクトレンズの両端を虹彩の下に入れて、コンタクトレンズを固定する。
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STEP4 左目の麻酔・手術
同じ手順でもう片方の目にもレンズを挿入する。手術は両目10分ほど、あっという間に終了した。
手術を終えて
北澤先生
手術お疲れ様でした。手術が終わって30分経過しましたが、今の見え方はいかがでしょうか?
平瀬氏
まだかすんでいて、はっきり見えるという感じではないですが、手術前と比べて、見えるようになった気がします。
北澤先生
そうですね。まだ術後30分程度ですから、炎症もあるので当然かすんでいますが、点眼をしっかりして頂くと、明日の朝起きた時にはかなりはっきりと見えると思いますよ。
平瀬氏
視力は何日くらい経てば安定しますか?
北澤先生
明日の朝、起床時には見えるようになったことを実感して頂けると思います。ただ、術後1週間は点眼がとても大切です。1週間も経つと視力はほぼ安定します。
平瀬氏
1週間後が楽しみです。しかし、手術前に聞いてはいましたが、本当に手術はあっという間に終わってしまうのですね。
北澤先生
そうですね、私の執刀では所要時間は両眼で平均10分弱ですね。白内障の手術も慣れた術者であれば片眼数分ですし、ICLも手術時間は術者の技量を見る一つの目安になります。他院の平均は、20〜30分くらいです。あとは、やはり目の手術なので、皆様緊張されますので、私はできるだけ手術中も声をかけて緊張を和らげるようにしていますね。
平瀬氏
私も安心して手術を受けることができました。手術後はどのようなことに注意すればいいですか?
北澤先生
まずは、しっかりと点眼をしてください。ICLはレーシック以上に快適なので点眼もさぼりがちですが、そこはしっかりとお願いします。そのほか術後1週間は、汗やほこりが入らないように運動は控えてください。
平瀬氏
仕事や車の運転、スポーツはいつ頃からできるようになりますか?
北澤先生
お仕事がデスクワークの方は、翌日休んで頂ければ術後2日目から可能です。車の運転は見え方に慣れた術後2~3日後から、ジョギングやジムなどの軽いスポーツは術後1週間から可能です。海での水泳やスキーのほか、激しいスポーツは術後1か月ほど控えて頂いています。
平瀬氏
その他、手術後に日常生活で注意したい行動について教えてください。
北澤先生
洗顔や入浴ですが、手術当日はできないので注意してください。術後翌日の検査後から首から下のシャワーや入浴が可能ですし、術後2日後からは洗顔や洗髪も可能です。また、術後3日程度は充血や炎症もあるので飲酒は控えて頂いています。
平瀬氏
今後の術後検診の流れについて教えてください。
北澤先生
術後検診はとても大切です。特に術後翌日、1週間、1か月は視力の確認と点眼薬の変更に重要なポイントです。その後は、3か月、6か月、以降も年に1回は検診が無料なので定期検診をお勧めしています。
平瀬氏
わかりました。定期検診を受けていきます。本日はありがとうございました。
北澤先生
ありがとうございました。
手術1か月後の見え方
編集部
手術から1か月経ちましたが、現在の見え方はどうでしょう?
平瀬氏
もう手術直後のようなかすみもなくなり、はっきりと見えるようになりました。朝起きて、メガネやコンタクトレンズをつけずに全てが見えることに感動しました。この感動は、長年メガネやコンタクトレンズを着用して過ごしてきた人にはわかってもらえると思います。
編集部
見え方のほか、感じている利点はありますか?
平瀬氏
いろんなスポーツをするのですが、コンタクトレンズが外れてしまったらどうしようという心配をする必要がないことでしょうか。出張や旅行などにコンタクトレンズやメガネを持っていく必要もないですし、その煩わしさから開放されたことも嬉しいです。
編集部
なるほど。最後に手術を受けた感想をお願いします。
平瀬氏
裸眼でモノがはっきり見えることが、こんなに感動するとは思っていませんでした。手術の受けて本当に良かったです。これからも定期的に検診に行き、今の見え方を維持していけるようにします。
編集部まとめ
「ICL」とは、「Implantable Collamer Lens」の略。「Collamer:コラマー」はレンズ素材の種類を指しますが、近年は「Implantable Contact Lens:インプランタブル・コンタクトレンズ」と呼ばれることが多くなりました。いずれにしても、歯のインプラント同様、「体内に埋め込む」という特性が強く感じられる名称ですね。
今回の手術で印象的だったのは、やはり手術時間。北澤先生が国内に9人しかいないICLエキスパートインストラクターであることもあり、あっという間に終わってしまいました。もちろん、手術時間が短いからといって、安全性が低いということはない。レーシックと比べても安全性が高く、適応範囲も広いとのことだ。また、改良が過去4回もおこなわれ、日々、進化していることでした。
※記事中の経過時間は、症状や手術内容、各クリニックの予約状況などにより変動することがあります。