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「大腸がん」のスクリーニング検査は何歳から受けるべき? 海外論文で学ぶオススメの開始年齢

 公開日:2024/01/17

オーストリアのウィーン医科大学らの研究グループは、2008~2018年にオーストリアで大腸がん内視鏡スクリーニングを受けた人のデータを分析したところ、「50歳以上の人では進行した大腸腺腫の有病率が減少傾向を示した一方で、自覚症状がない50歳未満の人では増加傾向を示した」と発表しました。この内容について、甲斐沼医師に伺いました。


甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

発表した研究内容とは?

今回、オーストリアのウィーン医科大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回紹介する研究は、オーストリアのウィーン医科大学らの研究グループによるもので、成果は学術雑誌「JAMA Network Open」に掲載されています。

欧米諸国では、若い年代の大腸がんの発症率・死亡率の増加が懸念されていますが、スクリーニングの対象年齢を何歳まで下げるべきかについては明確なエビデンスがありませんでした。そこで研究グループは、2008~2018年にオーストリアの結腸内視鏡スクリーニングプログラムに登録されていた29万6170人を対象に、データの分析をおこないました。29万6170人のうち、3.7%の1万1103人が50歳未満でした。

分析の結果、対象の21.4%の6万3550人から腺腫が1つ以上検出されました。50歳未満の10.5%の1166人から1つ以上の腺腫が、3.9%の389人から進行腺腫が見つかっています。また、50歳以上では21.9%の6万2384人から腺腫が、6.9%の1万9680人から進行腺腫が見つかりました。腺腫の有病率は、男性では40~44歳が14.2%、45~49歳は17.1%、50~54歳は20.2%という結果を示し、女性では40~44歳が8.1%、45~49歳は10.2%、50~54歳は12.4%でした。腺腫の有病率は1988年以後どの年代でも増加する傾向を示しました。

これらの結果から研究グループは、「大腸がんスクリーニングの開始年齢は男性は40歳、女性では50歳以上または55歳前後にする」と提案しています。

大腸がんとは?

今回の研究対象となった大腸がんについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

大腸がんは、直腸と結腸からなる大腸に発生するがんで、良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものに分類されます。日本人はS状結腸と直腸にがんができやすいと言われています。大腸の粘膜に発生した大腸がんは大腸の壁に深く侵入し、やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔(ふくくう)内に散らばります。さらに、リンパ節転移をしたり、血液の流れに乗って肝臓、肺など別の臓器に遠隔転移したりします。

大腸がんの症状について、早期では自覚症状はほとんどありません。代表的な症状として、血便や下血がみられます。また、進行してくると腸閉塞となり、便は出なくなり、腹痛や嘔吐(おうと)などの症状が起こります。⼤腸がんは男性では11⼈に1⼈、⼥性では13⼈に1⼈が⼀⽣のうちに⼀度はかかると言われています。

研究内容への受け止めは?

オーストリアのウィーン医科大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

過去30年間をみると、欧米諸国では55歳以上の大腸がんの発症率と死亡率が低下しており、これは大腸がんスクリーニングの受診率が高いことが一因だと考えられていました。その一方で、より若い年代の大腸がんの発症率と死亡率の増加が懸念されていましたが、これまで大腸がんのスクリーニングの対象年齢を何歳まで下げるべきかについては明確なエビデンスがありませんでした。

若年成人の大腸がん発症率は上昇しているものの、無症状者、特に50歳未満の前駆病変に関するデータは不足している現状がありました。今回、オーストリアのウィーン医科大学らの研究グループは、無症状の20歳以上に施行された約30万件の大腸内視鏡検診データから前駆病変の有病率と腺腫1件を発見するのに必要な検診件数、および国の統計データから30年間の大腸がん発症率の推移を、それぞれ年齢層別および男女別に検討しました。その結果、50歳未満で大腸がんの発症率が上昇しているのは男性のみで、若年層では男性に絞った検診の前倒しが重要であることを発表しています。

今回の研究結果を通じて、腺腫の有病率は50歳未満、50歳以上とも上昇していましたが、進行腺腫の有病率は50歳未満では上昇、50歳以上では低下していることが判明したことから、検診の開始年齢を検討する際には、受検者の性別も考慮すべきであると考えられます。今回の知見に基づけば、男性では40歳から、女性では50歳または55歳からの開始が良いだろうと考察されます。

まとめ

オーストリアのウィーン医科大学らの研究グループは、2008~2018年で50歳以上の人では進行した大腸腺腫の有病率が減少傾向を示した一方で、自覚症状がない50歳未満の人では増加傾向を示したと発表しました。日本でも三大がんに数えられる大腸がんについての新たな知見は、今後も注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2812587

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