体重コントロールに重要な「炭水化物の上手な選び方」とは【海外論文解説】
アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループは「長期的な体重管理において、特に過体重や肥満の人では、摂取する炭水化物の品質と供給源が潜在的に重要である」という研究結果を報告しました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
今回、研究グループが明らかにした内容とは?
アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループが今回明らかにした内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループによる調査で、炭水化物の摂取量の経時的変化と体重の長期的変化との関連を調べたものです。研究成果は、医学雑誌「BMJ(British Medical Journal)」に掲載されています。
研究グループは、ベースラインで糖尿病、がん、心血管疾患、呼吸器疾患、神経変性疾患、消化器症状、慢性腎臓病、全身性エリテマトーデスの認められない、65歳以下の男女13万6432人を対象に、4年ごとの炭水化物摂取量の変化と体重変化との関連を総合的に検証しました。その結果、被験者の4年ごとの体重増加は平均1.5kgで、24年間では平均8.8kgでした。男女共に血糖値上昇指数と血糖負荷の増加は体重増加と関連しており、でんぷんや添加糖の摂取量100g/日の増加は4年間でそれぞれ1.5kg、0.9kgの体重増加と関連していました。その一方、食物繊維の摂取量10g/日の増加は、0.8kgの体重減少と関連していました。
摂取量の増加と体重増の関係が認められたのは2種類で、精製穀物は摂取量100g/日の増加につき体重が0.8kg増加、でんぷん質の野菜は摂取量100g/日の増加につき体重が2.6kg増加しました。逆に、摂取量を増やすことで体重が減る関係が認められたのは3種類で、全粒穀物からの炭水化物は摂取量100g/日の増加で体重が0.4kg減少、果物は摂取量100g/日の増加で体重が1.6kg減少、非でんぷん質の野菜は摂取量100g/日の増加で体重が3.0kg減る結果となりました。
今回の発表内容への受け止めは?
アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループによる発表内容への受け止めを教えてください。
中路先生
ハーバード大学らのアメリカ人を対象としたコホート研究は多人数の研究ではありますが、対象が65歳以下の比較的健康な看護師などを含む医療従事者に限られていました。また、高齢で基礎疾患がある一般の人などは含まれていないことや、特定の炭水化物の摂取により体重が増加するという関連も示されておらず、食生活や人口年齢分布が他国への結論の一般化は困難と考えられるなどの限界があります。しかし、全粒穀物や非でんぷん質の野菜を含む食事は、体重コントロールを希望する中年の人たちにとって最良な食事の選択枝であることを示唆するものとして大変興味深い研究であると考えられます。今後、同様の研究が日本でもおこなわれることを期待いたします。
実際の生活習慣に活かせる可能性は?
アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループによる発表内容で、炭水化物の摂取量の経時的変化と体重の長期的変化との関連を評価されましたが、今回の研究内容を実際に生活習慣改善に活かすことができる可能性はあるのでしょうか?
中路先生
今回の研究結果を参考にすると、体重のコントロールには炭水化物そのものを抜くよりも「炭水化物を上手に選択する」ことが重要と考えられます。つまり、炭水化物は食物繊維を多く含む低GI食であるライ麦パンや玄米、サツマイモなどを多く摂取するように心がけ、逆に高GI食であるアンパンやフランスパン、ジャガイモ、精白米などはなるべく避けるようにすることが肝要です。また、これらの食物繊維が多く含まれている食品は満腹感を得やすいため、食事量を調節しやすいことに加え、食物繊維は血糖のトランスポートを遅延させ、食後の血糖を正常にコントロールするのに有用です。ただし、バランスが重要であり、これらの食事を日常生活の中で上手に組み合わせていくことが重要であると考えます。
まとめ
アメリカのハーバード公衆衛生大学院らの研究グループは、長期的な体重管理において特に過体重や肥満の人では、摂取する炭水化物の品質と供給源が潜在的に重要であるという研究結果を報告しました。研究グループは「本研究の結果は長期的な体重管理、特に体重過多の人々にとって、炭水化物の質と供給源が重要である可能性を強調するものである。加糖、加糖飲料、精製された穀物、でんぷん質の野菜を制限し、全粒穀物、果物、非でんぷん質の野菜を摂取することは、体重をコントロールする努力を支援する可能性がある」と結論づけています。
原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=37758268&keiro=journal