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環境汚染ナノプラスチックが人体に与える危険性 脳に到達する可能性を示唆【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/06/05

ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループは、体内に取り込まれたマイクロプラスチックやナノプラスチックが脳に到達するためには、その表面に作られる生体分子コロナと呼ばれる複合体が重要な役割を果たしていることを突き止めたと発表しました。この研究結果は、2023年4月19日に「Nanomaterials」に掲載されました。こちらの研究報告について竹内先生に伺いました。


竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

研究グループが発表した内容とは?

ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。

竹内想医師竹内先生

今回紹介する研究は、ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループが実施したものです。この研究は学術誌のNanomaterialsに掲載されています。私たちの身の回りには繊維製品、自動車のタイヤ、パッケージなど、たくさんの高分子材料があり、その分解生成物が環境を汚染し、MNP = マイクロプラスチックやナノプラスチックの汚染が広がっています。こうした有害物質から脳を保護する重要な生物学的バリアが血液脳関門です。血液脳関門は、血液から脳組織への物質の輸送を制限する仕組みで、血液から病原体や有害物質が脳に到達するのを防ぐ役割を果たしています。MNPの人体への影響については、すでに、消化管内のMNPが局所的な炎症反応や免疫反応、さらにはがんの発生に関係していることなどが示唆されています。研究グループは、ポリスチレンのMNPを9.55μm、1.14μm、0.293μmの3種類のサイズを用意し、6匹のマウスに経口投与し、MNPが血液脳関門を通過するかどうか調べました。その結果、最も小さなMNPは投与してから2時間で、マウスの脳内で検出されました。研究グループはMNPが体内でどのようにして輸送されるのかを検討した結果、ナノプラスチックが脂質膜内に取り込まれるには、コレステロールやタンパク質などコロナを構成する分子が重要であることがわかり、コレステロール分子から成るコロナはナノプラスチックの膜への取り込みを促進するのに対して、タンパク質分子から成るコロナを有するナノプラスチックは膜を通過できないことが示されました。

発表内容への受け止めは?

ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループによる発表内容への受け止めについて教えてください。

竹内想医師竹内先生

今回の研究グループによる研究報告では、マウスにおいて、経口投与されたMNPが血液脳関門を越えて検出されることが示されました。MNPのヒトへの影響としては消化管に関する研究がこれまで中心であったため、本研究はこの点において意義深いものであると考えられます。
しかし、この研究で示されたのはMNPがマウスの血液脳関門を突破するという点のみです。つまりこの結果がマウスだけのものかヒトでも同じように血液脳関門を突破するのか、また経口投与以外の投与経路(経皮接触など)でも影響があるのか、そしてMNPが脳に到達することでどのような影響を与えるかなどの検討が今後必要と考えられます。

微小プラスチックについて注視すべきポイントは?

今回の研究テーマとなったMNPについては国際的な問題になっています。私たちの健康を維持するために、MNPについて注視すべきポイントを教えてください。

竹内想医師竹内先生

MNPは主に海洋汚染を引き起こす物質として注目されています。MNPを摂食した海洋生物を人間が食べることで、人間の体内へも蓄積され、何らかの影響があるのではないかと考えられています。このMNPの人体への影響については未知の部分も多くありますが、人体に悪影響であることが示されれば今後規制の検討が進められる可能性があります。
MNP全体としては曝露量とヒトに与える影響の関係、今回の研究と関連した内容であればマウスでなくヒトの血液脳関門を突破するのか否かやヒトの脳に影響を与えるかなど、より具体的な内容の研究結果が期待されます。
また、MNPに関する全貌が明らかになる前から、MNP排出量を減らすための取り組みを積極的に行っていくことがMNP対策としては有用であると考えられます。

まとめ

ハンガリーのデブレツェン大学らの研究グループが、体内に取り込まれたマイクロプラスチックやナノプラスチックが脳に到達するために、その表面に作られる生体分子コロナと呼ばれる複合体が重要な役割を果たしていることを突き止めたことが、今回の研究報告でわかりました。こうした微小プラスチックについては国際的な問題であり社会的な課題となっているだけに、今回の研究は注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=37110989

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