握力低下などのサルコペニア予防に日本食が有効か?【医師による海外医学論文解説】
長野県立大学らの研究グループは、日本人中高齢者の食生活と握力との関連を調査した結果、日本食らしい食事パターンの人ほど、握力低下が少ないことが明らかになったと学術誌に発表しました。この研究結果は、2022年10月3日に「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されました。この研究報告について中路医師に伺います。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
長野県立大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介する研究は、長野県立大学、神奈川県立保健福祉大学、三重大学らの研究者によるグループが、学術誌の「International Journal of Environmental Research and Public Health」に発表したものです。研究グループは健康的な食事パターンとして知られる日本食と地中海食がサルコペニアの主要な関連因子である握力低下とのどのような関連を持つのかを調べました。研究対象になったのは6031人で、日本食らしさの指標は日本食指数改訂版という、12種類の食品群の摂取量を基に0~12点の範囲でスコア化する指標で評価されました。より日本食らしい食事パターンだとスコアが高くなります。地中海食らしさは、代替地中海食スコアという、9種類の食品群の摂取量を基に0~8点の範囲でスコア化する指標で評価しました。こちらも高得点であるほどより地中海食らしいと判定されます。握力は、アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づき、男性は28kg未満、女性は18kg未満を握力低下と判定しました。分析の結果、全体として日本食指数スコアが高いグループほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められました。その一方で、代替地中海スコアと握力低下該当者率との関連は有意性が認められませんでした。次に、握力低下に影響を及ぼし得る交絡因子を調整するモデルで検討すると、日本食指数スコアが高いグループほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められました。代替地中海色スコアと握力低下該当者率との関連は、年齢・性別のみを調整したモデルと同様、有意性は認められませんでした。
発表内容への受け止めは?
長野県立大学らの研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
中路先生
今回の発表は、同じ健康食と言われている「日本食」と「地中海食」とを比較して、食習慣がいかにサルコペニア(高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象)に影響するかを検討したもので大変興味深い研究結果と考えられます。ただし、今回有意な結果が出たサルコペニアの評価項目が「握力」のみであり、インボディなどを用いたインピーダンス法やX線を用いたDXA法などによる正確な筋肉量の定量などでの比較ではないことや、実際に「日本食」「地中海食」の区別が難しいというバイアスなど考慮すべき点もありますが、多数例での検討であり、今後日本から「日本食のすばらしさ」を海外に発信できる有用なエビデンスと考えられます。
今回の発表内容をどう活かすことに期待する?
長野県立大学らの研究グループが今回発表した内容は、今後の医療現場でどのように活かしていくことが期待されますか?
中路先生
以前から、地中海食と同様に日本食も健康増進につながる良い食事と知られていましたが、それを証明する研究はほとんどなされていませんでした。加えて、日本食は地中海食にくらべて、脂質やタンパク質に乏しく、むしろサルコペニアの予防には地中海食より劣る印象がありました。しかし日常的な診療にはガイドラインに加えて、これら論文などの「エビデンス」に基づいた判断が重要とされています。今回の「日本食」と「地中海食」の研究において、「日本食」がサルコペニアの予防に有用であるというエビデンスは、「握力」というどこの施設でも測定可能な方法を用いており、すぐにでも日常的な診療にいかせる内容と考えられます。
まとめ
長野県立大学らの研究グループが、日本人中高齢者の食生活と握力との関連を調査した結果、日本食らしい食事パターンの人ほど、握力低下が少ないことが明らかになったと学術誌に発表しました。高齢化社会が進む中、こうしたサルコペニア予防に関連する研究は注目を集めそうです。
原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=36231936