妊婦の新型コロナワクチン接種、早産リスクなどと関連なしと報告【医師による海外医学論文解説】
ノルウェーの研究グループは、スウェーデンとノルウェーの16万人の妊婦を対象に新型コロナワクチン接種の有無と早産などのリスクについて調べたところ、ワクチン接種とリスク増大とは関連しない結果が出たと報告しました。この報告は、JAMA誌オンライン版2022年3月24日号に掲載されました。この研究報告について中路医師に伺います。
監修医師:
中路 幸之助(医師)
ノルウェーの研究グループが発表した内容とは?
ノルウェーの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回の研究内容は、ノルウェーの研究グループによってアメリカの医師会が発行する医学誌のJAMAに報告されたもので、妊婦の新型コロナワクチン接種が早産などのリスクに対してどのような影響を及ぼすのかを調べました。対象になった妊婦は、スウェーデンで去年1月1日から今年1月12日に、ノルウェーで去年1月1日から今年1月15日に、妊娠22週以降で単胎児を出産した妊婦15万7521人です。このうち、妊娠中に新型コロナワクチンを接種したのは対象になった妊婦の18%にあたる2万8506人でした。妊娠中に新型コロナワクチンを接種しているグループとそうでないグループでは、早産、死産、低出生体重児、新生児入院など、いずれに対してもリスク増加に優位な関連はみられませんでした。研究グループは、スウェーデンとノルウェーで実施したこの集団ベースの研究では、妊娠中に新型コロナワクチンを接種した場合と、接種しなかった場合を比較すると、妊娠中の有害事象のリスク増加との間に有意な関連はなかったと結論づけています。ただし、ワクチン接種の大部分は,妊娠第2期および第3期にmRNAワクチンを接種したものであり,この結果を解釈する上で考慮する必要があると言及しています。
今回の発表への受け止めは?
ノルウェーの研究グループの発表内容への受け止めを教えてください。
中路先生
この研究の限界として研究者らは、①ワクチンを接腫した妊婦の症例数が少ないとこ、②ワクチン接種の大部分は、妊娠第2期および第3期の間にmRNAワクチンを施行したものであること、③元々の慢性疾患や生活習慣などの研究結果に影響を与える因子があることなどをあげています。しかし、妊婦は同世代の妊娠していない女性と比べ、新型コロナウイルスに感染した場合に重症化しやすいとされ、これら研究の限界を考慮しても妊婦への新型コロナウイルスワクチン接種の安全性を示す有用な報告と考えられます。
妊婦が新型コロナウイルスワクチンを接種する際に留意すべき点は?
妊婦が新型コロナウイルスワクチンを接種する際に留意すべき点を教えてください。
中路先生
①可能ならば妊娠前に接種を受けておく(接種後の長期避妊は必要ありません)。②器官形成期(妊娠12週まで)はワクチンの接種を避ける。③重症化の可能性がある肥満や糖尿病などの基礎疾患がある場合や医療従事者などの感染リスクが高い職種の方は、ワクチン接種を積極的に考慮する。④妊婦が感染する場合の多くは夫やパートナーからの感染であり、夫やパートナーのワクチン接種をすすめる、などです。
まとめ
ノルウェーの研究グループがスウェーデンとノルウェーの16万人の妊婦を対象に新型コロナワクチン接種の有無と早産などのリスクについて調べたところ、ワクチン接種とリスク増大とは関連しないという結果が出たことがわかりました。新型コロナワクチンが妊婦に及ぼす影響についての研究は今後も研究・発表されるとみられ、引き続き注目が集まりそうです。
原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2790608