堀先生
肺への転移が見つかった経緯を教えてください。
小倉さん
膀胱を摘出した頃から肺に小さな影がありました。1年半ほど経過観察してほとんど変化はなかったのですが、2年目になって少し大きくなり調べたことがきっかけです。
堀先生
その後の経過についても教えてください。
小倉さん
検査で肺の腫瘍は膀胱がんが転移したものだと分かり化学療法を開始しています。その時、膀胱がんもステージ2から4になりました。
堀先生
転移した段階でステージ4になることを知らない人は多いと思います。
小倉さん
新聞には「小倉智昭、ステージ4の肺がん」というタイトルで、今にも死にそうな記事を書かれてショックを受けました。転移した肺の腫瘍は原則として手術で取らずに化学療法で治療することが多いと言われたのですが、そういうものなのでしょうか?
堀先生
そうですね。まず肺がんでないこと、がんの肺転移が起こるということは、血液の中にがん細胞が残っているという判断になったのかと思います。
小倉さん
血液の中にがん細胞が残っていれば、肺だけ治療してもほかの臓器に転移する可能性もあるということですね。
堀先生
その通りです。転移を認めた場合は、化学療法で小さながん細胞も含めて全身を治療します。
小倉さん
転移しやすい場所はありますか?
堀先生
がんの種類によっても違いますが、転移は血流を介して引き起こされるため、血流の豊富な肺や骨、肝臓、リンパ節は転移しやすい場所です。
小倉さん
膀胱がんも転移することで命取りになりかねないということですね。
堀先生
その通りです。化学療法の効果はいかがでしたか?
小倉さん
私は4週間に1回、2種類の抗がん剤を点滴しました。副作用はなかったものの、肺の腫瘍も小さくなりませんでしたね。
堀先生
なるほど。思ったほどの効果が得られなかったのですね。
小倉さん
はい。その次は免疫チェックポイント阻害薬で治療しました。
堀先生
その結果はいかがでしたか?
小倉さん
3回投与した頃から肺の影がなくなって、良くなりました。
堀先生
効果があったのですね。
小倉さん
ところが何回か投与するうちに腎機能が急激に悪化し、三途の川を見ることになりました。
堀先生
三途の川ですか。
小倉さん
いまだに夢なのか分かりませんが、父親に「智昭、父さんそろそろ行くぞ。お前も来るか?」と言われたので「いや、俺、まだもうちょっといたいから」と答えたら「そうか、じゃあ父さん行くから」と川を渡って向こう岸に消えていきました。
堀先生
すごい経験ですね。
小倉さん
私はその時に引き返したからか、次の日には意識が戻りました。副作用はがん治療につきものだと思うのですが、どうでしょうか?
堀先生
そうですね。免疫チェックポイント阻害薬は自分の免疫を活かし、がん細胞とたたかう治療法です。正常な細胞を攻撃する可能性もあり、間質性肺炎や皮膚の湿疹、腸炎などの副作用には注意が必要だと思います。
小倉さん
免疫チェックポイント阻害薬はまだ歴史も浅いので、副作用にも注意する必要がありますね。
堀先生
はい。また、免疫チェックポイント阻害薬は効く人がいれば効きにくい人もいます。再発する可能性があることも知っておいてください。
小倉さん
薬の良い面だけではなく、効果の個人差や副作用についても知っておくことが大切ですね。