歯周ポケットの深さってなに?
こんにちは、東急田園都市線たまプラーザの日本歯周病学会認定歯周病専門医が在籍する歯医者「美しの森デンタルクリニック」院長の村野嘉則と申します。
みなさん「歯周ポケット」という言葉をお聞きになったことはありますか? 歯周病の診断や治療に際し問題となる物ですが、最近では歯磨き粉や歯ブラシのテレビコマーシャルなどで良く聞くことがおありになるのではないかと思います。しかし、実際のところ歯周ポケットがどんな物で、どのような問題があるのかご存知の方は少ないのではないでしょうか。
今回は「歯周ポケットの深さって何ですか?」をテーマに詳しくご説明したいと思います。
執筆歯科医師:
村野 嘉則(美しの森デンタルクリニック 院長)
日本臨床歯周病学会認定医。日本歯周病学会認定歯周病専門医。厚生労働省認定歯科医師臨床研修指導歯科医等。
《自己紹介》
美しの森デンタルクリニック院長の村野です。歯を失う原因である歯周病の治療を専門としておりますが、歯周病は歯だけでなく、全身の健康にも被害を及ぼすのではと懸念されている疾患の一つです。各科の専門医と協力することで、「なるべく歯を残す治療」を心がけています。
歯周病って何?
歯周病はお口の中に棲んでいる歯周病原菌がもとで引き起こされる歯茎の炎症です。この歯周病原菌は、歯に付着するデンタルプラーク(歯垢)に棲んでいます。そして、そのプラークをブラッシングなどのお口のお手入れで、うまく落とせていないとご自身の免疫力とのバランスが崩れてしまい歯周病原菌が出す毒素や炎症性物質により、歯の周りの組織に炎症を生じて歯周病を発症してしまうのです。
歯周病はまず、歯の周りの歯肉から炎症を起こして、歯肉が赤くなったり腫れてしまったりする歯肉炎を引き起こします。ほとんど症状なく進んでしまうため、歯科医院で定期検診などを受けていないと発見が遅れ、さらに進行し歯の周りにある組織が破壊され結果的に歯を支える歯槽骨が溶けてしまいます。このような状態になったものを歯周炎と呼びます。
歯周ポケットとは?
歯と歯肉の間の溝がプラーク中の歯周病原菌により炎症を起こし腫れて深くなった溝のことです。
健康な歯茎の場合、歯と歯肉の間には1〜2mmの深さの歯肉溝と呼ばれる溝があります。この歯肉溝に細菌の集合体であるプラークが溜まってしまい、うまく清掃できないと歯肉が炎症を起こしてしまいます。その結果、歯肉が腫れて1〜2mm程度だった溝が徐々に深くなり、細菌をため込むポケットのような状態になり、これを歯周ポケットと呼びます。
歯周病原菌は空気(酸素)の少ない環境を好む細菌です。歯周ポケットのような空気の少ない環境は歯周病病原菌達にとって非常に住み心地が良く、ポケット内部でどんどん増殖します。その結果、歯肉や歯を支えている骨を破壊してしまい、さらに歯周ポケットが深くなっていくのです。ポケットが深くなると歯ブラシの毛先がポケットの底まで届かなくなり、ご自身のケアだけでは歯周病の進行を抑えることが難しくなってしまうのです。
検査方法
歯周病の診査診断のために歯周ポケットの深さの計測が大切になります。歯周病の検査の際にチクチク歯茎を触られた経験はないでしょうか? 歯周ポケットプローブという目盛りのついた細い器具を組織を傷つけないように25g程度の力で歯周ポケットに挿入し深さを計測します。ただし、炎症のある歯茎では痛みを伴うことがあります。
一般的に歯周病の検査では歯周ポケットの他に歯肉の炎症程度や歯の動揺度、プラークの付着状態、やレントゲン検査などを行い歯周病の状態の診断を行います。
平均的な深さ
歯周ポケットの深さは健康な歯茎で1〜2mmとされ、通常3mm以内であれば歯肉の健康に問題ないと言われています。4mm以上ある場合は歯肉の炎症が疑われます。具体的には4〜5mmだと初期から中等度の歯周病、6mm以上は重度の歯周病が疑われます。
国が行った2016年歯科疾患実態調査では歯周ポケットが4mm以上ある人の割合は年齢と共に増加しており、歯周病の有病者数も年齢と共に増える傾向にありました。特に40代以上の方は歯周病の管理をせずに時間が経過すれば歯周ポケットの深さも当然悪化すると考えられる為、定期的に歯や歯茎の健康状態をチェックすることが大切なのかもしれません。
歯周ポケットの深さを改善するにはどうすれば良い?
歯周病は歯周病原菌が一定量付着する事で免疫力のバランスが崩れ発症する病気です。
歯周ポケットの深さを改善するためには歯周病治療が必要になります。この効果を最大限にする為、また治療後の再発を防ぐ為には、まず第一に患者様ご自身で毎日適切に歯周病菌(プラーク)を除去できるようになる事が大切な治療となります。その為に歯周病治療では、必ず最初に歯科衛生士が患者様それぞれに合わせた歯ブラシ指導(TBI)を行い、一定のレベルまでプラークを除去(プラークコントロール)できるようにトレーニングを行います。
初期や中等度の歯周病の場合では、主に歯の表面や歯周ポケットに付着したプラークの除去と、これらプラークが石灰化し固まった歯石の除去を行なっていきます。歯石自体からは毒素などは出ませんが、付着したまま放置すると歯石表面は粗造でゴツゴツとしているため、歯周病原菌を含むプラークが付着しやすくなるので歯石の除去が必要になります。
軽度では通常、麻酔は必要なく、超音波スケーラーという細かい振動を付着した歯石に与えて取り除く特殊な機械や、手用スケーラーという先端にカンナのような刃が付いている器具を歯石にあて取り除く方法が一般的です。中等度で歯周ポケット内に歯石が認められる場合、必要であれば麻酔をして歯石除去を行います。
それでも改善しない場合や重度歯周病の場合は上記に加えて歯周外科処置と言われる歯茎の手術や、あまりにも重度の場合は残念ながら抜歯などの処置も必要になります。
これらの治療を行うことによって歯肉など歯の周囲の組織が正常な状態に戻り、歯周ポケットも健全な状態に改善されるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか?今回は「歯周ポケットの深さって何ですか?」をテーマにご説明してきました。歯周ポケットの深さは歯周病の診断や治療法の選択において重要なファクターとなります。また、歯周病の治療が終了し歯周ポケットが改善された後も定期的なメインテナンスを受けていただき、歯周ポケットの深さを管理していくことが歯周病の再発を防ぐ上で重要になってきます。
歯周病はほとんど症状なく進行してしまう怖い病気です。これまで歯周病の検査を受けたことのない方や歯茎からの出血などの症状でお悩みの方は是非一度、かかりつけの歯科医院か日本歯周病学会認定の歯周病専門医・認定医が在籍する歯科医院で歯の健康診断を受けてみてはいかがでしょうか。