力を入れなくても簡単にできる!? 楽な介助の方法は2パターンあった!
厚生労働省の調べによると、介護現場で働く人の約6割が、「腰痛」に悩まされているという。パワーアシスト機能を備えた介護ウェアの開発などは、そんな事情を反映しているのだろう。しかし、人力によるもっと楽な介助方法があるとしたら。その秘けつを、リンドウー治療院の代表、後藤多都椰先生に解説いただいた。
監修施術者:
後藤 多都椰(リンドウー治療院 総院長)
日本鍼灸理療専門学校卒業。国家資格取得後は、はりきゅう院や一般病院などで臨床経験を積む。1992年には神奈川県川崎市内にてリンドウー治療院を開設。現在、4店舗を擁するリンドウーグループの代表を務める。院外においても、はりメーカーと協働した技術の理論化や実践セミナーの開催などに尽力している。講演歴、メディア紹介歴多数。
人は大きく2タイプに分かれる
編集部
このたび、介護の分野で新しい発見をされたと伺いましたが、どのような内容でしょうか?
後藤先生
はい。それは、「力を入れなくても楽に介護ができる」方法です。理論を説明するよりも、まず、簡単な実験をしてみましょう。
編集部
よろしくお願いいたします。
後藤先生
まず、立った状態でバランスを確認しましょう。私が手を強く引っ張ったり身体を押したりしますので、抵抗してみてください。最初は、「肘」を引っ張ったり、「みぞおち裏」を押したりします。
編集部
しっかりと踏ん張れます、バランスがそんなに崩れません。
後藤先生
では、「肩」「腰」「手首」の付近を引っ張ったり押したらどうなるでしょう。私の力の入れ具合は一緒ですよ。はいっ。
編集部
うわっ、踏ん張れずにバランスが崩れてしまいました。
後藤先生
すごいでしょう!? あるタイプの人は、「肩」「腰」「手首」の位置に力を加えると、簡単に動きます。逆に「肘」「みぞおちの裏」「膝」の位置で動かそうとしても、抵抗できてしまうのです。もう一方のタイプは逆になります。
編集部
介護にどう反映していくのでしょう?
後藤先生
動かしにくいですね。では「肩」「腰」ならどうか。
ここまで簡単に動かせます。この記事をご覧になっている方は、ぜひ、ご家族や友人などに協力いただいて体験してみてください。動かしにくい力点と、そうでない力点があるはずです。
2つのタイプの見分け方
編集部
なぜ、人によってタイプが違うのでしょうか?
後藤先生
東洋医学では、すべての物事に“2つの属性”があると考えます。つまり「陰と陽」です。私が着目したのは、人にも「陰と陽」の2タイプがいるのではないかということ。そして注目する点は二点です。まずは首の前側(胸部)、後ろ側(背部)。もう一点は人は元々四つ足動物だったという事実です。その属性を介助に反映できないかと考えました。
編集部
自分がどちらのタイプなのか、どうすればわかりますか?
後藤先生
水などの飲み方に注目してみてください。上を向いてゴクゴク飲める方と、一度口に含んで首を下げてから飲む方の、2タイプに大別できるはずです。上を向いてゴクゴク飲める方が首を下げると、逆に飲みにくくなるのではないでしょうか。
編集部
たしかに、ポーズによって飲みにくさを感じますね。
後藤先生
このタイプ分類は、人の生活動作の研究をしていたときに着想しました。例えば普段考え事をしているときに上を向いている人、又は下を向いている人を見かけます。それぞれ、リラックスできる姿勢が違うということですね。それは前述の首の前側、後側の解放に関連しています。
編集部
続けて、詳しく教えてください。
後藤先生
立っている姿勢では「お尻が後ろに出るような重心タイプ」の方は、後ろに倒れてしまわないように胸を反らし顎を上げます。このタイプの方は、上を向いてゴクゴク飲めます。逆に「下腹が前に出るような重心のタイプ」の方は、前へ倒れないように顎を引きますよね。このタイプの方は、首を下げても飲めるはずです。
編集部
首の姿勢と「陰陽」が、どう関係してくるのですか?
後藤先生
体のツボを大きく分けると、おなか側が「陰」で、背中側が「陽」になります。一見すると逆に思えるかもしれませんが、四つ足の動物で考えてみてください。背中は太陽に接しているので「陽」、逆におなかは影で「陰」の性質ということです。背中側の「陽」が活性化している方は、「かがんだような前傾姿勢」になり、首を下げる。おなか側の「陰」が活性化している方は、「胸を反ったような姿勢」になり、首を上げる。このことから、「陰タイプ(首の胸部側を解放)」、「陽タイプ(首の背部側を解放)」と呼び分けています。そしてもう一点の四つ足動物の理論では肘、みぞおち、膝の三点で支える「陰タイプ」と手首、肩関節、股関節、足首の四か所で支える「陽タイプ」に分類されます。
体位変換以外にも、さまざまな応用が
編集部
介護に話を戻しましょう、どのような応用例が考えられますか?
後藤先生
例えば誤嚥性(ごえんせい)肺炎への対処です。さきほど、首の姿勢と飲み込みやすさが関係していることをご説明しましたよね。もしかしたら、ご本人にとって飲み込みにくい姿勢で食事をさせていないでしょうか。また、枕の高さも関係してくるでしょう。寝ているときにどちらのポーズが楽なのか、それぞれのタイプで異なるはずです。
編集部
首が関係してくるのですね。
後藤先生
そのとおりです。緊急時の気道確保の場面を考えてみてください。一般には、首の前側を大きく開くのがセオリーです。しかし、「陽タイプ」が首を反らされたら、かえって呼吸しづらいはず。飲み物と一緒ですよね。この違いが是正されないまま医療や介護をおこなっていると、かえって事故を起こす可能性があるのではないかと感じています。
編集部
ほかにも、いろいろと着目点がありそうです。
後藤先生
はい。椅子に座らせるときもそう。一般的にはその動作の方法はおじぎをさせながらお尻を後ろに突き出させて座らせます。お尻を後ろに出すと言う事は自然と胸は反らされ首の前側は自然と開きます。「陰タイプ」はその動作では身体が安定して座れます。しかし「陽タイプ」はそれが苦手です。もし「陽タイプ」の方が同じ動作を行った場合は座る途中でドシンと腰が落ちバランスを崩しかねません。介護者の負担も増えるでしょう。
編集部
両方のタイプをあわせ持っている人はいるのですか?
後藤先生
程度の違いこそあれ、「あわせ持っている人はいない」というのが私の結論です。また、生まれ持った性質で、後天的に変わるということもないでしょう。この違いを意識しないと、介護でもリハビリでも、効果に差のある状態が続いてしまいます。
編集部
今後、東洋医療の考え方は浸透していくのでしょうか?
後藤先生
その一つの潮目が、間もなくやってきます。東洋医学による伝統医療は今春、世界保健機関(WHO)の総会で認定される見込みです。そもそも東洋医学は、西洋医学が確立されるよりはるか以前の約3000年前からおこなわれてきた、れっきとした医療体系なのです。この機に、注目してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
いま一度、タイプを整理してみましょう。下向きだと水が飲みにくいのは、普段から首を開いている“陰タイプ”。「肘」「みぞおちライン」「膝」に力を加えると動かしやすいはずです。他方、上向きだと水が飲みにくいのは、“陽タイプ”。「肩」「腰」「手首」に力を加えると動かしやすいはず。ぜひ、読者の皆さんも試してみてください。今後、こうした「東洋医学が見せてくれる新しい景色」を、引き続き追っていきます。
施術所情報
所在地 | 〒107-0052 東京都港区赤坂3-15-9 萬屋ビル3階 |
アクセス | 千代田線赤坂駅1番出口 徒歩2分 |
診療科目 | 鍼灸マッサージ・美容鍼 |