「アルツハイマー病」が女性に多い理由が明らかに、男性ホルモンが“脳を守る”可能性 九州大

九州大学の研究員らによる研究では、男性ホルモンであるテストステロンが脳内の免疫細胞「ミクログリア」の機能を高め、アルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドβ」の除去に関与している可能性が示されました。ミクログリアは、アミロイドβなどの老廃物を取り除く働きを持つ細胞であり、リソソーム系のオートファジーによってその役割を果たしています。今回の研究では、テストステロンがGPRC6A受容体を介してこのオートファジーの活性を高め、アミロイドβの除去を促進する仕組みが確認されました。 アルツハイマー病モデルの雄マウスを用いた実験では、精巣を摘出してテストステロンの分泌を抑えると、アミロイドβの除去能力の低下が確認されました。一方で、外部からテストステロンを補充することで、この除去機能が回復することも示されました。また、ヒトのアルツハイマー病患者の脳組織を調べた結果、男性で女性よりもアミロイドβの蓄積が少なく、オートファジーの指標となるp62との共局在も限定的であることから、男性の脳ではオートファジー活性が高い可能性が示唆されました。ただし、本研究は主にマウスや培養細胞を用いた実験に基づくものであり、ヒトにおける直接的な証明は今後の検証が必要です。それでも、テストステロンがミクログリアのオートファジー機能を高めることで、男性におけるアルツハイマー病の発症リスクを抑える可能性が示された点は注目に値します。

アルツハイマー病が女性に多い理由はいくつかあります。まず、女性は平均寿命が長いため、加齢によって発症リスクが高まる傾向にあります。さらに、女性は閉経後にエストロゲンという女性ホルモンが急激に減少します。このエストロゲンには脳を保護する働きがあると考えられており、減少することで脳の機能が低下しやすくなる可能性があります。また、今回紹介した研究では、脳の免疫細胞「ミクログリア」の働きや細胞の中の不要物を処理する「オートファジー」という仕組みにも性別の違いがあることがわかってきました。女性はこのオートファジーの働きがもともと低い傾向があり、アルツハイマーの原因となる異常なたんぱく質をうまく処理できない可能性があるのです。 アルツハイマー病は、ゆっくりと進行していく病気で、進行の段階に応じて様々な症状が表れます。中期になると、自分が今どこにいるのかわからなくなるなどの場所に関する見当識障害が進行し、徘徊がみられるようになります。言葉がうまく出てこない・相手の話が理解できないことも増え、着替えや入浴が難しくなるなど、日常生活に介助が必要になってきます。さらに後期になると、家族の顔がわからなくなる、トイレの失敗が増える、便を不快に感じて手で触ってしまう弄便などがみられるようになります。また、歩いたり座ったりすることが難しくなり、最終的には寝たきりになることもあります。

私自身も長年、アルツハイマー病の治療に携わってきましたが、たしかに女性患者の方が多いと実感しています。女性の方が平均寿命が長いため、アルツハイマー病における女性の割合が高いという単純な理由だけでなく、女性ホルモンや男性ホルモンが直接的に影響していることがこの研究でも示されています。今後、さらにホルモンの脳機能への影響が解明されることで、アルツハイマー型認知症の新たな治療法にも活かせるのではないかと考えます。