コロナワクチン接種後に「血友病」を引き起こす事例…知られざる副反応が新たに判明

アメリカのジョージ・ワシントン大学の研究員らは、新型コロナウイルスワクチン接種後に「後天性血友病A(AHA)」が発症するという症例報告をおこないました。研究は、医学雑誌「BMJ症例報告」に掲載されています。この内容について五藤医師に伺いました。

監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカのジョージ・ワシントン大学の研究員らが発表した内容を教えてください。

アメリカのジョージ・ワシントン大学の研究員らによる研究では、新型コロナウイルスワクチン接種後に後天性血友病Aという病気を発症したケースが報告されました。後天性血友病Aは、体の中で血液を固める働きをする第VIII因子(FVIII)に対する抗体ができてしまい、出血を引き起こす病気です。今回の患者は、大腸の検査や歯の治療を受けた後に血便や血の塊ができる症状が表れ、医療処置が必要になりました。そして、これらの症状が出る前に、新型コロナウイルスのmRNAワクチン追加接種を受けていました。検査の結果、血液が固まりにくくなる異常が見つかり、後天性FVIIIインヒビターと呼ばれる抗体が原因であることが判明しました。そこで、ステロイドとシクロホスファミドという薬を使って抗体を減らす治療がおこなわれました。
研究では、新型コロナウイルスワクチンがこのような抗体の発生を引き起こす可能性があると指摘しています。ただし、今回の症例報告だけで「ワクチンが後天性血友病Aを引き起こしたとは断言できず、ワクチンの安全性や公衆衛生の判断には慎重な対応が必要」としています。論文は専門家の審査を受けており「研究に特定の資金援助はなく、著者たちも利益相反はない」と述べています。
この報告は、ワクチン接種後の自己免疫疾患についてさらに研究が必要であることを示していますが、ワクチンの安全性を疑う決定的な証拠にはなりません。ワクチンの利点とリスクを総合的に考え、冷静に判断することが重要です。
研究テーマに関連する血友病とは?
今回の研究テーマに関連する血友病について、症状や原因、なりやすい人の特徴などについて教えてください。

血友病とは、血液が固まりにくくなり、出血しやすくなる先天性の出血性疾患です。血液の凝固には、第I因子から第XIII因子までの「血液凝固因子」が関与しますが、血友病Aは第VIII因子、血友病Bは第IX因子の欠乏または機能不全により発症します。これらの因子が欠乏していると、止血機構が正常に働かず、外傷や自然出血に対して脆弱になります。血友病の重症度は、血液中の凝固因子の量によって決まり、特に1%未満の重症の人は出血しやすいため注意が必要です。
血友病は、X染色体にある遺伝子の変異が原因で発症します。男性はX染色体を1本しか持たないため、変異があると血友病になります。一方、女性はX染色体を2本持っているため、1本に変異があっても通常は発症せず、保因者となることが多い傾向にあります。しかし、保因者の女性でも稀に症状が表れることもあります。
血友病の人は、日常生活での怪我に注意し、定期的に医師の診察を受けることが大切です。もし出血があった場合は、すぐに適切な処置をおこないましょう。また、治療を続けることで、より安全に生活することができます。自分の体の状態をよく知り、安心して過ごせるようにしましょう。
研究内容への受け止めは?
アメリカのジョージ・ワシントン大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

今回の研究報告は、新型コロナウイルスワクチン接種後に発症した後天性血友病Aという非常に稀な自己免疫性疾患の症例を紹介したものであり、医療従事者にとっては注目すべき内容です。後天性血友病Aは高齢者を中心に発症することが多く、基礎疾患の有無にかかわらず出現することもあるため、日常診療でも出血症状の鑑別診断において念頭に置くべき疾患の1つです。
本症例のように、ワクチン接種後に免疫の過剰反応が引き金となって自己抗体が産生される可能性がある点については、過去にもほかの自己免疫疾患(ギラン・バレー症候群やITPなど)との関連が議論されてきました。ただし、あくまで「症例報告」であり、因果関係を示すエビデンスレベルとしては低く、ワクチンそのものの安全性に対する過度な懸念を煽るべきではありません。
現時点で得られているデータでは、ワクチン接種のベネフィット(重症化予防や感染制御)が、こうした稀な副反応のリスクを大きく上回ると考えられています。こうした稀な副反応の可能性に関しては、今後も大規模研究や疫学データの蓄積による慎重な評価が求められます。
編集部まとめ
血友病は血液凝固因子の不足により出血しやすくなる病気で、特に重症の場合は注意が必要です。日頃から出血しやすい人や血液疾患を持つ人は、異変を感じたらできるだけ早く医師に相談しましょう。健康を守るためには、自分の体の状態を理解し、適切な治療やケアを心がけることが大切です。