飲酒のがんリスクに警鐘、酒に警告ラベルを導入か 盲点となる“アルコールの健康被害”とは
アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)のマーシー医務総監は、アルコール摂取とがんリスク増加の関連について警告する新たな勧告を発表しました。この勧告は、アルコールとがんリスクの認識を高め、予防可能ながんを減少させるための重要な一歩とされています。この内容について五藤医師に伺いました。
監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)のマーシー医務総監が発表した内容について教えてください。
アメリカ合衆国保健福祉省のビベック・マーシー博士は、アルコール摂取ががんリスクを増加させる可能性について警告する新たな勧告を発表しました。この勧告は、アメリカ合衆国保健福祉省の公式ウェブサイトに掲載されており、アルコール飲料のラベルにがんリスクに関する警告の記載を提案しています。また、がんリスクを考慮したアルコール摂取量の基準を再評価することや、アルコールとがんリスクの関連性を強調し、一般市民の認識を向上させるための教育活動の強化も提唱しています。
マーシー博士によると、アルコールはタバコや肥満に次いで、少なくとも7種類のがん(乳がん、大腸がん、食道がん、肝臓がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん)のリスクを高めるとされています。特に乳がんでは、症例全体の16.4%が飲酒と関連しており、1日1杯以下の少量の飲酒でも、乳がん、口腔がん、咽頭がんなどの特定のがんのリスク増加が明らかになっています。
アメリカでは、年間約10万人のがん患者と約2万人のがん死亡者がアルコールに起因しており、この問題に対する認識向上が急務となっています。しかし、アルコールががんの危険因子であることを認識しているアメリカ人は半数以下であり、さらなる啓発が必要とされています。また、アルコール摂取によるがんのリスクを減少させるための一歩として、早期予防が鍵となるがんに対して健康ラベルの更新や啓発活動を強化することは、診断や死亡率の低下に寄与することが期待されます。
発表内容への受け止めは?
アメリカ合衆国保健福祉省が発表した内容に対する受け止めを教えてください。
マーシー医務総監の勧告は、アルコール摂取とがんリスクの因果関係に対する新たな科学的証拠を基にしています。エビデンスによると「アルコールはDNAの修復機能を損ない、発がん遺伝子の活性化を促進する」と明らかにされています。これはアルコールが肝臓だけでなく、食道、口腔、喉頭などのがんのリスクを高める主要な原因となっていることを示しています。公衆衛生の観点からは、アルコールに関連するがんリスクの認識を高め、国民がより健康的な飲酒行動を取れるようにするための政策立案と啓発活動が急務です。この勧告が具体的な政策変更へとつながり、がん予防の一助となることを期待しています。
日本での対応は?
アルコールとがんリスクにおける日本政府の対策はありますか?
日本ではアルコール飲料のラベルにがんリスク警告はありませんが、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」で、過度な飲酒ががんリスクを高めると指摘しています。例えば、大腸がんでは1日20g(週150g)以上の飲酒で発症リスクが上昇するとされる結果を示した研究があり、少ない飲酒を心がければ、疾患にかかる可能性を減らすことができると考えられるとしています。また、昨年から開始した「健康日本21(第三次)」では、男性40g以上、女性20g以上の飲酒量が生活習慣病リスクを高めるとされ、アルコール摂取量を全体で10%減らす目標が設定され、健康づくりの取組みを進めています。
編集部まとめ
アメリカ合衆国保健福祉省のマーシー医務総監は、アルコール飲料のラベルにがんリスクに関する警告を記載することを勧告しました。この勧告は、アメリカにとってアルコール摂取によるがんリスクを減少させるための重要な施策とされています。特に、アルコールが少量であってもがんリスクを高めるという事実を多くの人が知ることが重要です。警告ラベルの更新や啓発活動を通じて、飲酒のリスクについての認識が広がれば、がんの早期予防や死亡率の低下が期待される一方で、個人の自由と健康情報の提供とのバランスをどのように取るかという課題もあります。