“高校の通学時間”が将来の健康を左右する 1時間以上で抑うつ・不安症状のリスク増加
日本大学の研究グループは「通学時間が1時間以上かかる高校生は、30分未満の生徒と比べて抑うつ症状のリスクが1.6倍、不安症状のリスクが1.51倍高い傾向がある」と発表しました。この内容について伊藤医師に伺いました。
監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
研究グループが発表した内容とは?
日本大学の研究グループが発表した内容を教えてください。
伊藤先生
今回発表された研究は、日本大学の研究グループが発表したもので、研究結果は学術誌「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されています。
研究グループは、2022年10〜12月に、私立高校2校の生徒2067名を対象に、参加者情報や通学時間、メンタルヘルス状態、生活習慣要因、睡眠関連要因に関する調査をおこないました。調査で集まった1899名の高校生のデータを分析したところ、抑うつ症状の有病率は17.3%、不安症状の有病率は19.0%でした。そして、1時間以上の通学時間は30分未満の通学と比べて、抑うつ症状のリスクが1.6倍、不安症状が1.51倍に高くなる傾向が明らかになりました。さらに、性別、学年、1日8時間以上の電子機器の使用、年代、不眠も有意に関連していたとのことです。
研究グループは、今回得られた結果について「通学時間の長さは、高校生のメンタルヘルス不調と関連することが示唆された。保護者や学校は、生徒のメンタルヘルスを維持するために、学校の選択をアドバイスする際に通学時間も考慮すべきである」と結論づけています。
研究が実施された背景とは?
今回の研究では、なぜ高校生の通勤時間に着目したのでしょうか?
伊藤先生
研究グループが公表した論文では「思春期における精神的健康問題は、その後の人生における様々な疾病負担の原因となり、暴力、犯罪、自殺と関連している。そして睡眠、食事、運動、電子機器の使用時間などの活動は、メンタルヘルスの低下に関連している」と問題提起されています。こうした中で、通学時間とメンタルヘルスの関連を調べた研究はほとんどなかったことから、今回の研究テーマが設定されました。研究計画立案の段階で、「高校生の通学時間の長さがメンタルヘルスの低下と関連する」という仮説を立てて、実際の研究に臨みました。結果を見ると、抑うつ症状のリスクが1.6倍に、不安症状が1.51倍に高くなる傾向が示されたので、仮説の正しさが示されたと言えるでしょう。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
日本大学の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
伊藤先生
今回の研究結果で、通学時間が高校生のメンタルヘルスに悪影響を与えることが示唆されました。抑うつや不安症状の有病率が高いことから、長時間の通学がリスク要因であることが明らかになりました。精神科医としては、患者の生活習慣や通学方法を考慮し、メンタルヘルスへの影響を評価すべきです。また、保護者や教育機関に通学時間の重要性を伝え、生徒のメンタルヘルスを支援する施策の必要性を訴えていくべきだと考えます。
まとめ
日本大学の研究グループは、「通学時間が1時間以上かかる高校生は、30分未満の生徒と比べて抑うつ症状のリスクが1.6倍、不安症状のリスクが1.51倍高い傾向がある」と発表しました。高校受験の際には、通学時間も考慮に入れることも視野に入れるといいかもしれません。