キスや性行為で感染するヘルペスウイルスが「頭頸部がん」リスクに ベルリン医科大学
ドイツのベルリン医科大学らの研究グループは、「頭頸部がんとHSV(単純ヘルペスウイルス)の関連を調べた結果、HSV感染が頭頸部がんの発症リスクを高める」と発表しました。特に口唇がんとの関連が強かったということです。この内容について上医師に伺いました。
監修医師:
上 昌広(医師)
研究グループが発表した内容とは?
ドイツのベルリン医科大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
上先生
今回紹介する研究は、ドイツのベルリン医科大学らの研究グループが実施したもので、研究結果は学術誌「International Journal of Dermatology」に掲載されています。
2023年3月以前の20年間に入院した患者を研究対象に抽出したところ、「HSV感染あり群」と「HSV感染なし群」がそれぞれ24万9272人となりました。研究グループは、この2群に対して、頭頸部がんの発症リスク分析と発症後5年間の生存分析を実施しました。
その結果、HSV感染あり群の頭頸部がんの発症リスクは、HSV感染なし群と比べてオッズ比1.29と有意に高くなったことが判明しました。また、5年間の推定生存率は両群とも100%に近いことがわかりましたが、HSV感染群は頭頸部がんによる死亡リスクのハザード比が1.17と有意に高い結果となりました。
さらに、頭頸部がんの15項目の発症リスクをそれぞれ分析したところ、口唇がんと上咽頭がんにおいて発症リスクが高くなりました。特に、口唇がんはオッズ比3.69と、群を抜いて発症リスクが高いこともわかりました。口唇がんについても発症後5年間の生存分析をおこなったところ、統計学的な有意差は認められませんでした。ただし、死亡リスクとHSV感染との間にハザード比3.08という強い関連を確認することができました。
研究グループは、今回の結果について「口唇、口腔、咽頭との驚くほど強い相関はHSV感染に新たな光を当て、リスク層別化の新たな要因になり得ることを示唆している」と結論づけています。
HSV(単純ヘルペスウイルス)とは?
今回の研究の対象となったHSVについて教えてください。
上先生
HSVは痛みを伴う水疱や潰瘍を引き起こす一般的な感染症で、主に皮膚と皮膚の接触によって広がり、治療は可能ですが治癒はしません。HSVには口唇ヘルペスの主な原因であるタイプ1(HSV-1)と、性器ヘルペスの主な原因であるタイプ2(HSV-2)の2つのタイプがあります。タイプ1は主に口腔接触で広がり、HSV-2は主に性的接触で広がります。
2016年のデータによると、世界で50歳未満の人口の67%にあたる約37億人がタイプ1に感染しており、15~49歳の13%にあたる約4億9100万人がタイプ2に感染しています。男性よりも女性の方がタイプ2に感染しやすく、思春期の若者で新規感染が多くみられます。
HSVには、抗ウイルス薬(アシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビル)が用いられます。症状の期間を短縮して重症度を軽減しますが、感染を治癒することはできません。痛みの緩和には、パラセタモールやイブプロフェンなどの鎮痛薬が有効です。
感染予防について、症状がある間は口腔接触や性的接触を避けることが重要です。コンドームの使用も有効ですが、完全な防止にはなりません。日常的に予防するためには、「HSVについての話をパートナーにすること」や「共有物を避けること」が推奨されます。HSV感染のリスクがある妊娠中の女性は、医療提供者に相談することが重要です。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
ドイツのベルリン医科大学らの研究グループによる発表への受け止めを教えてください。
上先生
大規模な臨床研究で価値あるものです。HSV感染と頭頸部がん、特に口唇がんとの関係を示した点で高く評価できます。HSV感染は抗ウイルス剤で抑制可能です。今後、このような治療薬投与との関連が研究されるでしょう。将来的には、がん予防の観点からもワクチンの開発が必要であると考えます。
まとめ
ドイツのベルリン医科大学らの研究グループは、「頭頸部がんとHSVの関連を調べた結果、HSV感染が頭頸部がんの発症リスクを高める」と発表しました。特に口唇がんとの関連が強かったということです。HSVの感染者は世界的に多いことから、今回の研究は注目を集めそうです。