温泉「炭酸水素塩泉」に入浴すると腸内細菌のビフィズス菌を増やす可能性 九州大学らが発表
九州大学らの研究グループは、温泉入浴前後の腸内細菌叢の変化を調べた結果、炭酸水素塩泉に7日間連続で入浴するとビフィズス菌の一種が有意に増加し、温泉の泉質が腸内細菌叢に影響を与えることを明らかにしました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
発表した研究内容とは?
九州大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介する研究は、九州大学らの研究グループによるもので学術雑誌のScientific Reportsに掲載されています。
この研究によると、2021年6月~2022年7月に九州在住で慢性疾患がない健康な127人を対象に、大分県別府市に存在する5つの異なる泉質の温泉に7日間連続で20分以上入浴してもらいました。この間、対象者は通常の食生活で過ごしてもらい、対象期間の入浴前後の便検体から腸内細菌の変化を測定・解析しました。
その結果、温泉の泉質によって腸内細菌に特徴的な変化が見られました。具体的には、単純泉ではParabacteroides属が0.701%、Oscillibacter属は0.141%増加していました。炭酸水塩泉ではB. bifidumが2.796%増加、Oscillibacter属が0.305%増加、Ruminococcus属が1.286%増加していました。また、硫黄泉ではRuminococcus 2属が0.866%増加、さらにAlistipes属が1.486%増加していました。Oscillibacter属は単純泉と炭酸水素塩泉の共通株で、残りの5種類の菌はそれぞれ固有のものでした。
研究グループは「異なる泉質への入浴が腸内細菌叢に及ぼす影響を解析した結果、泉質ごとに異なる腸内細菌叢の有意な増加が見られた」と結論づけています。さらに、「温泉入浴が腸内細菌叢や健康に及ぼす影響はまだ十分に解明されていないため、今後さらなる研究が必要だ。現在、再現性の確認や対照群を用いた検討などを進めている」としています。
研究内容への受け止めは?
九州大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
温泉は長い歴史を通じて、健康の増進や病気の治療に利用されてきた経緯があり、わが国には10種類の療養泉(泉質)があり、それぞれ効能が異なるといわれてきました。異なるの温泉成分が健康な人にどのような影響を与えるかについてはこれまでほとんど解明されておらず、詳細な効果の検証が望まれていました。今回の研究結果から、炭酸水素塩泉への入浴行為が腸内細菌の変化およびビフィズス菌を増加させて健康効果を促進する可能性があり、それは泉質ごとに異なるということを示唆しました。こうした発見は、温泉の有する健康増進効果に新たな科学的根拠を提供するものであると考えられます。さらには、本研究を通じて、将来的には温泉療法を用いた公衆衛生の向上、温泉療法の発展、および地域活性化に貢献することが期待されます。
温泉に関する他の研究情報は?
今回の研究テーマになった温泉について教えてください。
甲斐沼先生
温泉に関する研究で論文が発表されているものはほかにもあります。例えば2016年に慶應義塾大学の研究グループは、炭酸水素塩泉の人体への影響を多角的に解析した結果を発表しています。この研究では、温泉水が血糖管理指標の1つである「血中グリコアルブミン値」を減少させることが明らかにされました。また、温泉水を飲用している間は解糖系が亢進している可能性や、肥満防止効果の期待できるChristensenellaceae科の腸内細菌が温泉水を飲むと増加することも報告されています。
まとめ
九州大学らの研究グループは、温泉入浴前後の腸内細菌叢の変化を調べたところ、炭酸水素塩泉に7日間連続で入浴するとビフィズス菌の一種が有意に増加し、泉質ごとに腸内細菌叢に影響を与えることを明らかにしました。温泉文化がある日本らしい研究には注目が集まりそうです。