「内臓脂肪の増加」は新型コロナの重症化リスクに 東京医科歯科大ら研究グループ
東京医科歯科大学らの研究グループは、内臓脂肪量が新型コロナウイルスの予後予測の強い因子であることを明らかにするとともに、内臓脂肪型肥満が新型コロナウイルスによる炎症を増強させるメカニズムを解明したと発表しました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
今回、東京医科歯科大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。
甲斐沼先生
東京医科歯科大学らの研究グループは、2020年4月1日~2021年8月31日の間で新型コロナウイルスに感染して、東京医科歯科大学病院に入院した患者250人を対象に解析をおこないました。重症度の内訳は軽症が81人、中等症が77人、重症は92人で、34人が入院中に死亡しました。
CT画像を用いて内臓脂肪組織と皮下脂肪組織を定量化し、BMIとともに解析をしたところ、いずれも新型コロナウイルスの重症度と関連しており、多変量解析では内臓脂肪組織が新型コロナウイルスによる死亡の独立した危険因子であることが分かったと発表しています。また、入院中の生存率について解析をおこなったところ、内臓脂肪組織が高い値の患者は生存率が低下しましたが、皮下脂肪組織やBMIが高い値の患者では変化はみられませんでした。
さらに、研究グループは肥満と新型コロナウイルスの関連を調べるため、マウスを用いて肥満との関連を解析しました。同じレベルの肥満で内臓脂肪優位のマウスと、皮下脂肪優位のマウスを用意して、新型コロナウイルスに感染させました。その結果、内臓脂肪優位のマウスは感染後早期に全て死亡したのに対して、皮下脂肪優位のマウスや肥満でない野生型マウスは全て生存していました。また、研究グループは、内臓脂肪優位マウスとレプチンを6週間持続投与して肥満を解消させた痩せマウス、感染直前にレプチンを投与した内臓脂肪優位マウスを新型コロナウイルスに感染させたところ、痩せ型のマウスでは生存率が向上しました。
研究グループは、感染直前にレプチンを投与した内臓脂肪優位マウスでは生存率の改善がみられなかったことから、「内臓脂肪型肥満の改善がサイトカインストームの抑制と生存率の改善につながった」と結論付けています。
肥満とは?
今回の研究で取り上げられた肥満について教えてください。
甲斐沼先生
肥満は「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」にわけることができます。内臓脂肪型肥満は、腹腔内の腸間膜などに脂肪が過剰に蓄積しているタイプの肥満です。リンゴ型肥満とも言われるのですが、その理由は下半身よりもウエスト周りが大きくなるその体型からです。BMIが25未満で肥満ではないものの、内臓脂肪が蓄積している場合は、隠れ肥満症と呼ばれています。メタボリックシンドロームの診断基準でも内臓脂肪の蓄積は必須項目とされていて、CTスキャンでへその位置から体を輪切りにしたときの内臓脂肪面積が100㎠を超えているものを指しています。簡便な肥満の目安としては、ウエスト周囲径が採用されていて、男性で85cm以上、女性で90cm以上に相当します。
発表内容への受け止めは?
東京医科歯科大学らの研究グループによる発表内容への受け止めについて教えてください。
甲斐沼先生
新型コロナウイルスのパンデミックは、世界規模で我々の社会に大きな混乱を巻き起こしました。新型コロナウイルスが高い感染伝播性を持つこと自体も問題でしたが、それ以上に新型コロナウイルス発症時の重症化リスクが患者の要因によって大きく異なることは、感染状態を制御するうえでより厄介な課題でした。
高齢、男性、高血圧などと同様に、肥満因子が新型コロナウイルスの大きな重症化リスクであることは当初から知られていましたが、そのメカニズムは不明でした。今回の研究では肥満関連指標のうち、内臓脂肪量が新型コロナウイルスの予後を最もよく予測できることが判明しました。
肥満を予防すると新型コロナウイルス感染後の生存率が改善したことから、規則正しく健康的なライフスタイルを実践して内臓脂肪を抑制することで新型コロナウイルス罹患時の重症化リスクを減少できる可能性が示されました。
まとめ
東京医科歯科大学らの研究グループは、「内臓脂肪量が新型コロナウイルスの予後予測の強い因子であることを明らかにするとともに、内臓脂肪型肥満が新型コロナウイルスによる炎症を増強させるメカニズムを解明した」と発表したことが今回のニュースでわかりました。研究グループは「健康的なライフスタイルを送るモチベーションの1つとして、新型コロナウイルスの重症化リスクの軽減につながる可能性を提示した点において、本成果の社会的な意義は大きいと思われます」とコメントしています。