新型コロナウイルス感染から2~6週間で子どもの心臓機能が悪化「後遺症を防ぐにはワクチンが有効」
自治医科大学附属病院などの調査で、新型コロナウイルスの感染から数週間後に心臓の働きなどが悪くなる「MIS-C(小児多系統炎症性症候群)」と診断されていた子どもが全国で少なくとも64人いたことが分かりました。こちらのニュースについて郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(医師)
自治医科大学附属病院などの調査内容とは?
自治医科大学附属病院などによる調査内容について教えてください。
郷先生
今回取り上げる自治医科大学附属病院などによる調査は、新型コロナウイルスに感染してから2~6週間後に子どもの心臓など複数の臓器の働きが悪くなる「MIS-C(小児多系統炎症性症候群)」についての内容です。今年の夏から自治医科大学附属病院の小児科医のグループなどが全国約2000の医療機関を対象に調査をおこなったところ、「日本でMIS-Cと診断された子どもは全国で少なくとも64人に上ること」がわかりました。なお、死亡例は現時点で報告されていません。MIS-Cの全国調査は、対象期間を2019年1月1日~2031年12月31日までとしていて、これまでにすでに診療された症例に関しては2カ月以内に、そして今後新たに診療する症例に関しては退院後1カ月以内を目処に報告するよう呼びかけています。
MIS-Cとは?
MIS-C(小児多系統炎症性症候群)について教えてください。
郷先生
2021年9月16日に改訂された「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)診療コンセンサスステートメント」によると、MIS-Cは新型コロナウイルス感染後に毒素性ショック症候群や川崎病を疑わせるような多臓器系に強い炎症を起こす病態で、2020年4月から報告が相次いでいるとのことです。MIS-Cは、新型コロナウイルスに感染してから2~6週後に発症して、発症時にはすでにPCR陰性であることが多い傾向にあります。アメリカのMIS-C患者1733例の報告によると、発症する年齢の中央値は9歳で男児が57.6%とのことです。ほとんどのケースで発熱があり、胃腸症状、発疹、眼球結膜充血も多くみられます。また、過半数が低血圧やショックを伴っており、58.2%の患者が集中治療室での治療を要し、31.0%に心機能障害が認められたとのことです。
調査内容への受け止めは?
自治医科大学附属病院などの調査結果の内容についての受け止めを教えてください。
郷先生
今回の調査で、小児の新型コロナウイルス感染後に治ったと思ったら後遺症とも言える症状がみられることが判明しました。よく「小児は重症化しない」と言われています。たしかに、新型コロナウイルス感染後の呼吸器感染症については、人工呼吸管理を必要とするような重症化の確率は高齢者と比べて圧倒的に少ない傾向にあります。しかし、今回のMIS-Cのような後遺症の存在が分かってきたため、やはりただの風邪とは違う非常に厄介な感染症ということを再認識できました。さらに恐ろしいのは、まだ新型コロナウイルスの流行から3年しか経っていないため、感染後3年以内に起こる後遺症しか分かっていないということです。例えば、麻疹は小児に感染してから5年以上経過した後、「亜急性硬化性全脳炎」という非常に恐ろしい病気を発症することがあります。新型コロナウイルスも忘れた頃に重篤な病気を発症する可能性が同様にあるということは忘れてはならないでしょう。
こうした後遺症を抑えるのは、やはりワクチンです。少なくともMIS-Cの発症は、ワクチン接種でかなり抑えられることが示唆されています。もちろん、ワクチンによる副反応や後遺症が起こる可能性も考えられますが、感染による後遺症の方が圧倒的に割合が高く、重症になりやすいとされています。まだお子さんに接種させていない親御さんは、ぜひともワクチン接種をご検討ください。
まとめ
自治医科大学附属病院などの調査で、新型コロナウイルスの感染から数週間後に心臓の働きなどが悪くなるMIS-C(小児多系統炎症性症候群)と診断されていた子どもが全国で少なくとも64人いたことが今回のニュースでわかりました。日本では死亡例はまだ確認されていませんが、今後の調査結果にも注目が集まります。