【新型コロナウイルス飲み薬】「投与実績」に大きな開き、メルク製と比べてファイザー製が少ないワケ
ワクチンとともに新型コロナウイルスの重症化予防の切り札になっている飲み薬ですが、日本で使用できるファイザー製とメルク製で投与実績が大きく差が出ています。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
ファイザー製・メルク製の新型コロナウイルス飲み薬、それぞれの投与実績は?
日本で使用が可能な2種類の新型コロナウイルス飲み薬について、これまでの投与実績を教えてください。
甲斐沼先生
新型コロナウイルスによる重症化を予防するために、日本では現在ファイザー製の「パキロビッドパック」とメルク製の「ラゲブリオ」の使用が承認されています。しかし、この2つの飲み薬の投与実績に大きな差が出ていることがわかりました。
厚生労働省によると、8月9日時点の2つの飲み薬の使用実績は、ラゲブリオが約38万4700人分、パキロビッドパックは約2万6200人分となっています。承認された時期がメルク製のラゲブリオの方が早かったこともあると思いますが、6月22日時点からの増加分で比べてみてもラゲブリオは約18万4100人分に対して、パキロビッドパックは約1万6300人分と大きく差がついていることがわかります。また、2つの飲み薬を取り扱う医療機関と薬局の数でも大きく差がついていて、ラゲブリオは約5万5800施設で取り扱いがあるのに対して、パキロビッドパックを取り扱う医療機関は約1万4700施設にとどまっています。なお、政府が確保している2つの飲み薬の量については、パキロビッドパックは約200万人分、ラゲブリオは約160万人分となっています。
ファイザー製の飲み薬とは?
ファイザー製の飲み薬「パキロビッドパック」について教えてください。
甲斐沼先生
ファイザー社が開発した新型コロナウイルスの飲み薬であるパキロビッドパックは、メルク社が開発したラゲブリオに続いて承認された国内で2種類目の飲み薬です。重症化リスクのある新型コロナウイルス患者を対象とした臨床試験では、入院または死亡のリスクが発症後3日以内に投与した場合は89%、5日以内では88%減少したという結果が出ています。
パキロビッドパックの服用対象は、新型コロナウイルスに感染した人のうち12歳以上で、かつ重症化リスクのある患者となっていいます。2種類の薬を1日2回、5日間服用します。服用開始のタイミングは発症後、5日以内にできるだけ早くとされています。添付文書では、「HIVに感染している人」「腎機能や肝機能に障害のある人」「妊婦」「授乳中の女性」などは服用に注意するか、服用しないよう求めています。また、厚生労働省は、高血圧や高脂血症、不眠症などの治療に使われる39種類の薬や食品を使用している人に対してはパキロビッドパックの服用を認めていません。
なぜ、投与実績に差が出てしまうのか?
ファイザー製のパキロビッドパックとメルク製のラゲブリオで投与実績に差が出ている理由について、考えられることを教えてください。
甲斐沼先生
ファイザー製のパキロビッドパックは、メルク製のラゲブリオに次ぐ2番目に国内で承認された新型コロナウイルスに対する経口薬として知られています。投与対象は、ラゲブリオが18歳以上であるのに対して、パキロビッドパックは体重40㎏以上、12歳以上の小児であることも両者における特徴の違いと言えます。
今回、ファイザー製とメルク製の飲み薬で投与実績に差が出ていますが、パキロビッドパックに比べてラゲブリオの方が薬剤の取り扱いが多い理由として、パキロビッドパックでは併用禁忌および併用注意の薬剤が多数あることから、処方時に当該患者が服薬しているすべての薬剤を確認する必要がある点が考えられます。また、パキロビッドパックは添付文書に記載されているように、中等度の腎機能障害患者において服用時の用法や用量が異なるためにラゲブリオに比べて処方の手間が現場レベルで煩雑になっている可能性が懸念されています。
まとめ
日本で使用できる2種類の新型コロナウイルスの飲み薬のうち、ファイザー製のパキロビッドパックの投与実績が大きく出遅れていることが今回のニュースでわかりました。パキロビッドパックをめぐってはWHOが2022年4月に高齢者、免疫不全患者らに対して「今までで最善の治療法」と強く推奨するとの見解を発表しており、今後適切な投与をどう進めていくのか注目が集まります。