不妊症・不育症の女性、脳卒中リスク上昇か
オーストラリアのクイーンズランド大学の研究グループは、世界7カ国の約62万人の女性のデータを用いて不妊症・不育症と致死的・非致死的脳卒中リスクの関係を検討し、不妊症や不育症が女性特有の脳卒中危険因子である可能性があるとの結果を発表しました。このニュースについて甲斐沼先生にお話を伺います。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
クイーンズランド大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回の研究は、クイーンズランド大学の研究グループが不妊症・不育症と致死的・非致死的脳卒中リスクの関係を検討したものです。研究グループは、日本を含む世界7カ国の8つの研究に参加する女性の不妊症や流産、死産に関するデータを用いて致死的および非致死的脳卒中リスクとの関係を解析しました。対象となったのは、32.0~73.0歳の女性、61万8851人です。
解析の結果、非致死的脳卒中については、不妊症歴のない女性に対して、不妊症歴がある女性はリスクが14%高くなりました。また、流産回数が1回、2回、3回以上に増加するのに伴い、リスクは7%、12%、35%上昇しました。致死的脳卒中については、流産回数が1回、2回、3回以上に増えるのに伴い、リスクは8%、26%、82%上昇しました。死産経験がない女性に対して、死産経験がある女性では非致死的脳卒中リスクが31%高く、死産が1回で32%、2回以上で29%リスクが高くなりました。致死的脳卒中に関しては、死産経験がある女性ではリスクが7%高くなりました。また、リスクは死産回数の増加に伴い上昇し、2回以上の反復死産を経験した女性では出血性致死的脳卒中リスクが44%高くなりました。
研究グループは「不妊症や不育症は女性特有の脳卒中危険因子で、リスクの強さは脳卒中のサブタイプによって異なることが示された」と結論づけています。
脳卒中とは?
研究の対象になった脳卒中について教えてください。
甲斐沼先生
脳卒中は、脳の血管が詰まることで脳に血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害される病気です。また、脳の血管が詰まる脳梗塞、脳の血管が破れる脳出血、動脈瘤が破れるくも膜下出血、一過性脳虚血発作の4つに分類されます。
厚生労働省の2017年患者調査によると、脳卒中患者の数は111.5万人で、高齢になるほど患者数が多い傾向にあります。脳梗塞や脳出血になると、意識がなくなったり、半身麻痺や言語障害、さらには認知機能低下などの症状が現れたりします。くも膜下出血では麻痺は少なく、激しい頭痛や意識障害が突然起こります。初期に適切な治療を開始することがとにかく重要で、脳梗塞の場合では症状が出てから4時間半以内であれば血栓を溶かす治療薬を使用することができ、完治する可能性が高くなります。入院日数は長期化することが多く、2017年患者調査によると平均入院日数は78.2日となっています。
研究内容についての受け止めは?
クイーンズランド大学の研究グループが発表した内容に対しての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
オーストラリアのクイーンズランド大学の研究グループが発表した内容では、世界7カ国の女性約62万例のデータを用いて不妊症・不育症と致死的・非致死的脳卒中リスクの関係性を検討して、不妊症や不育症の既往歴を有する女性は脳卒中リスクが通常よりも高くなることが示唆されました。一般的に、脳梗塞を始めとして、脳卒中は青天の霹靂のように突然に起こるのが最大の特徴であり、脳卒中の主な危険因子としては高血圧、高脂血症、糖尿病などが知られています。したがって、普段からこれら脳卒中を発症させる危険因子の有無をチェックして、1つでも危険因子を指摘された人は、食事療法や運動療法、薬物療法などを実践することで、健常な状態に改善する必要があります。そして今回の研究結果から、流産歴や死産歴を持つ女性に関しては、健康的な生活習慣を送ると同時に、脳卒中危険因子を早期的にモニタリングすることで脳卒中リスクを少しでも低減できるようになることが期待されると考えます。
まとめ
オーストラリアのクイーンズランド大学の研究グループが、不妊症や不育症が女性特有の脳卒中危険因子である可能性があるとの結果を発表したことが今回のニュースでわかりました。研究グループは「脳卒中リスクの上昇を防ぐには、不妊症や不育症歴を有する女性では健康的な生活習慣とともに、早期からの血圧や血糖値、コレステロール値のモニタリングが推奨される」とコメントしています。