黄色ブドウ球菌が薬剤耐性獲得して伝播する仕組み解明
筑波大学の研究グループは、黄色ブドウ球菌が抗生物質耐性を獲得・伝搬する仕組みを解明したと発表しました。このニュースについて中路先生にお話を伺います。
監修医師:
中路 幸之助(医師)
研究グループが報告した内容とは?
今回、筑波大学の研究グループが報告した内容について教えてください。
中路先生
今回の研究は筑波大学の森川一也教授らの研究グループによるものです。過去半世紀にわたって不明だった薬剤耐性菌の代表格のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が生まれる仕組みについて、バイオフィルムという微生物が増殖して膜のようになった状態で、SCCmecと呼ばれる薬剤耐性発揮に必要な遺伝子を持つDNAが伝播することを世界で初めて明らかにしました。研究グループは、まずこの現象が発生する環境条件を調べて、AgrCAとBraSRという二成分制御系遺伝子が自然形質転換に必要な遺伝子群を発現することに必要であることを明らかにしました。そして、実際に黄色ブドウ球菌にバイオフィルムを形成させてSCCmecを取り込んでゲノムDNAに定着したことを確認しました。さらにバイオフィルムを作った状態で別株のMRSAや別の種類でSCCmecを持つ菌体からSCCmecが伝播し、元々はメチシリンが効く黄色ブドウ球菌がSCCmecを手に入れて薬剤耐性菌に変化することを明らかにしました。また、抗生物質によって自然形質転換能力が変化するか検証したところ、バシトラシンという抗生物質では形質転換遺伝子の発現が抑制されたことが観察されました。研究グループは「使用する抗生物質の種類によって、薬剤耐性菌の発生を減速させたり加速させたりしてしまう可能性が示唆された」と述べています。
報告に対する受け止めは?
筑波大学の研究グループが報告した内容について、研究結果のインパクトの大きさや価値などの受け止めを教えてください。
中路先生
「Nature Communications」に黄色ブドウ球菌が抗生物質耐性を獲得・伝搬する仕組みに関する筑波大学の研究グループの研究結果が掲載されました。著者らにより、MRSAが生まれる仕組みがバイオフィルム中の自然形質転換である可能性があり、使用する抗生物質の種類によって薬剤耐性菌の発生を加速あるいは減速させてしまう可能性が示唆されました。また、この研究の限界として、MRSAは一部の宿主生物または特定の非生物的環境で発生し、これらの自然なMRSAの出現のコンディションを調べなかったことなどにも言及しています。いずれにしても、過去半世紀にわたり不明であった医学的に重要なメカニズムの1つが明らかにされたことは大変意味のあることと考えます。
今後の活用の可能性は?
今回の研究結果が今後、どのように活用される可能性があるのか教えてください。
中路先生
今後、多剤耐性菌の発生を抑えながら感染症の治療をおこなうといった日常診療において抗生物質をより適切に使用する上で応用できると考えます。MRSAを生み出さない治療方法の確立に寄与する有用な研究結果であると言えるのではないでしょうか。
まとめ
筑波大学の研究グループが、黄色ブドウ球菌が抗生物質耐性を獲得・伝搬する仕組みを解明したと発表したことが今回のニュースで明らかになりました。これまでおよそ半世紀にわたって謎だった仕組みを世界で初めて明らかにしたことに注目が集まっています。