統合失調症の発症 自身の抗体が関与している可能性
東京医科歯科大学の研究グループは、統合失調症を発症する原因の1つとして、自身の抗体が関わっている可能性があると発表しました。このニュースについて岡田先生にお話を伺います。
監修医師:
岡田 夕子(医師)
研究グループが発表した内容とは?
東京医科歯科大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください。
岡田先生
今回の研究は、東京医科歯科大学の塩飽裕紀助教などのグループが発表したもので、2022年4月19日に国際医学雑誌「Cell Reports Medicine」オンライン版で発表されました。研究グループは、統合失調症の患者約220人を対象に血液などを検査し、約5%の患者に脳の神経細胞のシナプスにあるNCAM1と呼ばれるタンパク質に対する抗体を見つけました。NCAM1はシナプス前終末とシナプス後膜の両方に存在して、NCAM1同士が向かい合って結合をすることによりシナプス結合を強固なものにしていますが、新たに見つかった抗体がこの結合を阻害していることを突き止めました。さらに、この自己抗体が本当に統合失調症の病態を形成するかを明らかにするために、マウスの髄液中に患者から精製した自己抗体を投与したところ、NCAM1の下流のリン酸化シグナルが阻害されること、シナプスが減少したり大きな音に過敏に反応したりするなど統合失調症のような症状が出ることを確認したということです。研究グループは「統合失調症で抗NCAM抗体が陽性であった場合、これを除去するような治療法が必要であることを示唆しており、新しい治療戦略の創出につながる」と研究意義を明らかにしています。
統合失調症とは?
今回の研究対象になった統合失調症について教えてください。
岡田先生
統合失調症とは、脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。ほかの慢性の病気と同じように長い経過をたどりやすいですが、新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、多くの患者が長期的な回復を期待できるようになっています。世界各国の報告をまとめると、生涯のうちに発症する人は全体の人口の0.7%と推計されており、日本での統合失調症の患者数は約80万人と言われています。統合失調症の症状でよく知られているのが、実際にはないものをあるように感じる知覚の異常である幻覚と言われる症状と、テレビやネットが自分に関する情報を流していると思い込んだりする被害妄想などの妄想という症状があります。
発表された研究結果に期待できる点は?
東京医科歯科大学の研究グループが発表した研究内容に期待できることを教えてください。
岡田先生
今まで、統合失調症というのは症候群と言われていて、たくさんの要因が複雑に絡み合って成り立っているとされていました。そのなかで、1つの抗体の関与で統合失調症が発症しているとすれば、今までわかっていなかった原因が少し解明できたこととなり、今後の治療薬の開発などにも期待されると考えます。
まとめ
東京医科歯科大学の研究グループが統合失調症を発症する原因の1つとして、自身の抗体が関わっている可能性があると発表したことが今回のニュースで明らかになりました。研究グループは「近い将来には統合失調症だけではなく、原因不明の脳炎の原因として本研究で発見した抗NCAM1抗体が確認される可能性がある」ともコメントしており、今後も注目を集めそうです。