尿路感染症による入院の実態調査で死亡率と危険因子など明らかに
国立国際医療研究センターや東京大学などは、尿路感染症入院患者約23万人を対象とする全国規模の調査の結果を発表し、発症率や罹患(りかん)者の特徴、死亡率などを明らかにしました。このニュースについて竹内医師に伺いました。
監修医師:
竹内 尚史(医師)
尿路感染症とは?
尿路感染症とは、どのような病気なのか教えてください。
竹内先生
尿路感染症とは、尿の通り道である尿路に細菌が住み着き、増殖して炎症をおこした状態のことです。
女性の場合は膀胱炎と腎盂腎炎(じんうじんえん)、男性の場合はそれらに加えて尿道炎や前立腺炎、精巣上体炎など、感染症の場所によって分類されます。また、尿路感染症には発熱する場合と発熱しない場合があります。尿をするときに尿道や膀胱に痛みを感じる「排尿痛」という症状や、尿をした後も尿が膀胱に残っている感じがする「残尿感」、尿が近くなる頻尿、尿が濁る「尿混濁」といった症状が出ますが、原則的に発熱はしません。また、炎症が非常に強く、膀胱がひどくただれているときには尿に血が混じる「血尿」の症状が出ることがあります。
その一方で、腎盂腎炎は腎臓の痛みと発熱を伴います。38℃以上の高熱がほとんどなことに加えて、炎症が強いと血尿がみられることもあります。治療については、細菌感染による病気なので抗菌剤を投与します。
今回の調査の結果は?
今回行われた調査ではどのようなことが分かりましたか?
竹内先生
今回の調査では、腎盂腎炎などの尿路感染症の診断によって入院した15歳以上の患者23万人のデータが対象になりました。なお、膀胱炎などの入院を必要としなかった尿路感染症は、今回の研究対象からは除外されています。
調査の結果、罹患者の平均年齢は73.5歳、そのうち女性が全体の64.9%で、年代や性別に関わらず夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという結果が見られました。尿路感染症による入院の発生率は、人口1万人当たり男性は6.8回、女性は12.4回です。高齢になるほど入院の発生率が高くなり、70代では1万人当たり約20回、80代では約60回、90歳以上では約100回でした。また、15歳から39歳の女性のうち、11%は妊娠していたとのことです。
入院中の死亡率は4.5%で、男性、高齢、小規模病院、市中病院、冬の入院、合併症の多さ・重さ、低BMI、入院時の意識障害、救急搬送、DIC(播種性血管内凝固症候群)、敗血症、腎不全、心不全、心血管疾患、肺炎、悪性腫瘍、糖尿病薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが危険因子であることもわかりました。
尿路感染症が夏に多くなると考えられる理由は?
今回の発表でも、夏に尿路感染症が多くなるとの結果が出ていましたが、どのような理由が考えられるでしょうか?
竹内先生
尿路感染症が夏に多い理由は、暑さで発汗量が多くなり、逆に尿量が少なくなるためです。
尿量が少なくなると尿の回数が少なくなり、尿と尿の間隔が長くなります。そうすると膀胱炎になりやすい傾向にあります。必然的に膀胱炎から細菌が逆行性に進むことで腎盂腎炎の頻度も高まります。また、夏は同様の理由で尿量が少なくなって尿が濃縮するため、尿路結石も多くなります。泌尿器科医が、夏には飲水を促すのはそのためです。
まとめ
最近では、アメリカのクリントン元大統領が発症して入院したニュースで話題になった尿路感染症ですが、今回の23万人を対象にした大規模な調査で尿路感染症の入院率は女性の方が多く、高齢になればなるほど入院しやすくなることが分かりました。また、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節によって差が出たこともわかりました。今後もさらなる調査が行われていくことが期待されます。