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「慢性リンパ性白血病」の生存率が延びる治療法とは? 5年間追跡の結果で明らかに

 公開日:2025/02/19

アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)は、未治療の慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫患者を対象に、「ザヌブルチニブ(商品名:ブルキンザ)」と「ベンダムスチン(商品名:トレアキシン)+リツキシマブ(商品名:リツキサン)療法」の5年間の有効性と安全性を比較した研究を、医学専門誌「Journal of Clinical Oncology」で発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

今回、アメリカ臨床腫瘍学会が発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

アメリカ臨床腫瘍学会は、未治療の慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫患者を対象に5年間にわたって実施されたSEQUOIA試験の追跡調査結果を発表しました。

SEQUOIA試験では、次世代BTK阻害剤であるザヌブルチニブと、従来の化学免疫療法であるベンダムスチン+リツキシマブの有効性および安全性が比較されました。試験には479名(ザヌブルチニブ群241名、ベンダムスチン+リツキシマブ群238名)が参加し、北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域の複数の国で実施されました。

追跡期間の中央値61.2カ月(約5年)の時点で、ザヌブルチニブ群の無増悪生存期間(PFS)は中央値に到達せず、ベンダムスチン+リツキシマブ群では44.1カ月でした。無増悪生存期間の60カ月時点での推定生存率はザヌブルチニブ群で75.8%、ベンダムスチン+リツキシマブ群で40.1%と大きな差がみられました。IGHV遺伝子変異の有無にかかわらず、ザヌブルチニブ群の無増悪生存期間はベンダムスチン+リツキシマブ群よりも延長していました。全生存率(OS)の中央値はどちらの群でも未到達で、60カ月全生存率はザヌブルチニブ群85.8%、ベンダムスチン+リツキシマブ群85.0%でした。

安全性については、ザヌブルチニブ群で出血(52.1%)、高血圧(22.9%)、心房細動(7.1%)が確認され、特に出血の頻度はベンダムスチン+リツキシマブ群(13.2%)よりも高くなりました。また、グレード3以上の感染症は、ザヌブルチニブ群で30.0%、ベンダムスチン+リツキシマブ群で22.5%に発生しました。

ザヌブルチニブの長期使用に伴う感染症リスク(特に高齢者)や、BTK阻害剤耐性変異(C481S/L528W変異)が一部の患者で確認された点が懸念点として挙げられます。本試験の結果は、ザヌブルチニブが未治療の慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫患者にとって有望な治療選択肢であることを示していますが、長期使用時の安全性についてはさらなる検討が必要です。

研究テーマになった疾患とは?

今回の研究テーマに関連する慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

慢性リンパ性白血病と小リンパ球性リンパ腫は、Bリンパ球ががん化することで発症する血液のがんです。慢性リンパ性白血病は血液や骨髄にがん化したリンパ球が蓄積し、小リンパ球性リンパ腫はリンパ節に病変がみられます。どちらも比較的ゆっくりと進行しますが、一部のケースでは急速に悪化することがあります。

初期段階では症状がほとんどなく、病気が進行すると貧血、リンパ節の腫れ、倦怠感、体重減少、発熱などが表れます。診断には血液検査や骨髄検査、生検などが用いられ、治療は進行度に応じて決定されます。症状がない場合は経過観察となることが多く、必要に応じて分子標的薬や化学療法、造血幹細胞移植などがおこなわれます。

慢性リンパ性白血病や小リンパ球性リンパ腫は、日本では比較的稀な病気ですが早期発見と適切な治療が重要です。体調に異変を感じたら、ためらわずに医療機関を受診し、専門医と相談しましょう。

研究内容への受け止めは?

今回、アメリカ臨床腫瘍学会が発表した内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回のアメリカでの研究結果は、ザヌブルチニブがB細胞性悪性腫瘍の長期治療において有効であることを示しています。特に注目されるのは、再発・難治性だけではなく未治療の慢性リンパ性白血病・小リンパ球性リンパ腫患者や変異を有する小リンパ球性リンパ腫患者に対する有効性が確認されたことです。

日本でも2024年12月に慢性リンパ性白血病、小リンパ球性リンパ腫、リンパ形質細胞リンパ腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)に対する適応が承認されました。特にザヌブルチニブはイブルチニブと比較して副作用、特にその中でも心毒性が少なく、安全で長期的な治療が継続できる可能性が示唆されます。

編集部まとめ

今回の研究は、未治療の慢性リンパ性白血病および小リンパ球性リンパ腫患者に対するザヌブルチニブの有効性と安全性を5年間にわたって検証しました。結果として、従来のベンダムスチン+リツキシマブ療法と比較して無増悪生存期間が大幅に延長し、特にIGHV遺伝子変異の有無にかかわらず有効性が示されました。

一方で、ザヌブルチニブによる出血や感染症リスクが課題として挙げられます。治療選択を考える際には、長期的な効果とリスクのバランスを理解し、医師と相談しながら最適な治療を選ぶことが大切です。今後も最新の医療情報を活用し、より安全で効果的な治療の選択肢を広げていきましょう。

※提供元「日本がん対策図鑑」【慢性リンパ性白血病:一次治療(5年PFS)】「ブルキンザ」vs「トレアキシン+リツキサン」
https://gantaisaku.net/sequoia_5pfs/

この記事の監修医師

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