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「転移性大腸がん」の効果的な治療法が明らかに 試験が示した“新たな治療指針”とは

 公開日:2025/01/29

神奈川県立がんセンター消化器外科(大腸)部長・塩澤学氏および聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学教室主任教授・砂川優氏らの研究グループは、RAS野生型転移性大腸がん(mCRC)に関する臨床試験「DEEPER試験」において、m-FOLFOXIRI+セツキシマブ(商品名:アービタックス)またはベバシズマブ(商品名:アバスチン)を併用した2つの治療法を比較した研究結果を発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

転移性大腸がんに関する研究について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究報告は、神奈川県立がんセンターの消化器外科(大腸)部長・塩澤学氏と聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学教室主任教授・砂川優氏らの研究グループによるもので、その成果は学術誌「Nature Communications」に掲載されています。

DEEPER試験は、切除不能なRAS野生型転移性大腸がん患者を対象に「m-FOLFOXIRI+セツキシマブ療法」と「m-FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法」を比較検討する、第II相無作為化臨床試験です。これは新しい治療法や診断法の有効性や安全性を調べる治験や臨床試験の一環です。第I相臨床試験で新しい薬の主な副作用が明らかになり、適切な投与量が決定した後に実施されるのが今回の第II相臨床試験です。

DEEPER試験は、2015年7月~2019年6月の間に患者登録がおこなわれ、解析のカットオフ日は2022年8月2日とされています。したがって、およそ3年後に最終的な解析結果が報告されたことになります。この試験の目的は、腫瘍縮小効果や生存期間などにおいて、セツキシマブ療法がベバシズマブ療法よりも優れているかを明らかにすることです。主要評価項目として「奏効の深さ(DpR)」を設定し、副次評価項目として「無増悪生存期間(PFS)」や「全生存期間(OS)」などを検討しました。

切除不能なRAS野生型転移性大腸がん患者359例のうち、m-FOLFOXIRI+セツキシマブ159例、m-FOLFOXIRI+ベバシズマブ162例が解析対象に組み入られました。その結果、主要評価項目である奏効の深さにおいて、セツキシマブ群は57.3%、ベバシズマブ群は46.0%となり、セツキシマブの方が有意に優れていました。その一方で副次評価項目の指標では、両群に大きな差はありませんでした。また、RAS/BRAF野生型で左側腫瘍の患者において、セツキシマブ群では無増悪生存期間(15.3カ月vs11.7カ月)および全生存期間(53.6カ月vs40.2カ月)が延長する結果が得られました。

この試験の成果は、治療法選択における新たな指針となる研究結果として注目されています。

研究テーマになった疾患とは?

今回、転移性大腸がんがテーマですが、転移性のがんについて教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

転移性がんは、「転移したがん」を指し、大腸に転移したときは転移性大腸がんと言います。一方、最初にできたがんを原発性がんと呼びます。例えば、大腸にがんができれば大腸がんで、原発性大腸がんとも言えます。大腸がんが肺に転移すると、転移性肺がんと呼び、元の大腸がんが原発です。

今回のテーマとなる転移性大腸がん(mCRC)は、原発巣から他臓器にがんが転移した状態を指し、治療が困難な疾患です。近年の研究では、腫瘍の遺伝子変異や発生部位(左側または右側)によって治療反応が異なることが明らかになり、個別化治療が進んでいます。

研究内容への受け止めは?

研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

本研究の限界として、主要評価項目が全生存期間(OS)ではないことなどが挙げられていますが、転移性大腸がんの新たな治療指針を示唆するものであり、抗EGFR抗体セツキシマブ併用療法における患者選択(左側結腸)の重要性に着眼した素晴らしい研究と考えられます。今後の課題として、ガイドラインへの適用や長期追跡調査による安全性と有効性の確認が必要と考えられ、さらなる症例の蓄積に期待します。

編集部まとめ

神奈川県立がんセンター消化器外科(大腸)部長・塩澤学氏および聖マリアンナ医科大学臨床腫瘍学教室主任教授・砂川優氏らの研究グループは、転移性大腸がんの無作為化第II相試験であるDEEPER試験で2つの治療法を比較し、特に左側腫瘍やRAS/BRAF野生型の患者に対する治療戦略の選択肢として、m-FOLFOXIRI+セツキシマブ療法の可能性を示唆しています。ただし、右側腫瘍やほかの患者群についてはさらなる研究が必要とされています。DEEPER試験の成果は、個別化医療の発展に寄与する重要な一歩となり、転移性大腸がん治療の今後の方向性に大きな影響を与えると期待されます。

※提供元「日本がん対策図鑑」【RAS野生型大腸がん:一次治療(DpR)】「アービタックス+FOLFOXIRI」vs「アバスチン+FOLFOXIRI」
https://gantaisaku.net/deeper/

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