「転移性大腸がん」の生存率改善が期待できる“新たな治療”とは 研究で明らかに
パリのソルボンヌ大学のティエリー・アンドレ医師らの研究グループは、転移性大腸がんを有するMSI-H/dMMR(※)と診断された患者に対して、新しい免疫療法「ニボルマブ+イピリムマブ」の薬剤治療を選択することで、「化学療法」を選択した場合を上回る2年の無増悪生存率(がんが進行せず安定した状態である期間)が期待できると発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
※MSI-H/dMMR:細胞がDNAの間違いを修正する力が弱くなり、その結果がんが起こりやすい状態
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
パリのソルボンヌ大学の腫瘍内科教授 ティエリー・アンドレ医師らの研究グループが発表した内容を教えてください。
中路先生
今回紹介する研究報告は、パリのソルボンヌ大学の腫瘍内科教授ティエリー・アンドレ医師らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「The New England Journal of Medicine」に掲載されています。
切除不能または転移性の大腸がんでMSI-H(マイクロサテライト不安定性高値)またはdMMR(ミスマッチ修復欠損)の患者は、通常の化学療法では効果が得られにくく、予後が悪いことが知られています。この試験では、MSI-HまたはdMMRの診断を受け、化学療法や免疫療法を受けたことがない患者303人を、「ニボルマブ+イピリムマブ(免疫療法)」「ニボルマブ単独」「化学療法」の3群(2:2:1)に分けて治療を実施しました。
その結果、追跡期間中央値31.5カ月において、化学療法よりも無増悪生存期間が有意に長く、24カ月時点での進行しなかった割合は免疫療法で72%、化学療法では14%でした。また、重篤な副作用は免疫療法で23%、化学療法で48%と大幅に低くなりました。
この結果は、免疫療法が効果と安全性の両面で優れていることを示しています。
研究テーマになった疾患とは?
今回の研究テーマになった大腸がんの初期症状について教えてください。
中路先生
大腸がんは、大腸(結腸・直腸)に発生するがんで、2020年には国内で14万7725例と、がん罹患数の中で最も多いがんです。初期段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行すると血便や下血、貧血、便秘、下痢、めまいなどが表れます。血便や血が付着するといった症状は痔などでも起こることがありますが、見た目では判断できないため、これらの症状があれば早めに病院を受診することが大切です。
大腸がんを予防するには?
今回の研究テーマになった大腸がんの予防法について教えてください。
中路先生
大腸がんは、喫煙、飲酒、運動不足、野菜や果物の摂取不足、肥満などの生活習慣が大きく関与しています。また、女性では加工肉や赤肉の摂取により大腸がんが発生する危険性が高くなる可能性があると言われています。大腸がんを予防するには以下が効果的です。
- 鶏肉や魚中心の食事
- 野菜、果物、豆類、海藻、きのこの積極的な摂取
- 禁煙
- 適度な運動
編集部まとめ
今回の研究は、MSI-H/dMMRという特定の遺伝子異常を持つ転移性大腸がん患者に対して、新しい免疫療法の可能性を示しています。従来の化学療法と比べて病気の進行を遅らせる効果が高く、副作用も少ないという結果は、患者の生活の質を大きく向上させる可能性があります。一方で、大腸がん自体は生活習慣で予防が可能な場合も多いため、日頃の健康管理が重要です。
※提供元:「日本がん対策図鑑」【MSI-H大腸がん:一次治療(PFS)】「オプジーボ+ヤーボイ」vs「化学療法」
https://gantaisaku.net/checkmate8hw/