「過去の風邪の記憶」が新型コロナウイルスを抑える可能性
新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防ぐには、ワクチンの接種が必要だと考えられています。最近になって、過去にかかった一般的な風邪の記憶が、新型コロナの発症や重症化を防ぐ可能性があることがわかってきたのです。今回は、普通の風邪の記憶と新型コロナとの関係について中島先生にお伺いしました。
監修医師:
中島 由美 医師
過去の風邪が新型コロナの防止に役立つ理由は?
過去の風邪が新型コロナの発症や重症化を防ぐことについて、詳しく教えください。
中島先生
病原体が体内に侵入すると、骨髄でつくられた前駆細胞が胸腺内で分化成熟するリンパ球の一種であるT細胞や、同じくリンパ球の1つで免疫機構を担う重要な細胞のB細胞が病原体を殺します。病原体がなくなると、記憶T細胞や記憶B細胞と呼ばれるごく一部の細胞が残り、同じ病原体に感染したときに対抗するのです。これを免疫記憶といいます。
過去に、一般的な風邪にかかった人の記憶T細胞が新型コロナウイルスを認識し、対抗する可能性があることがわかりました。
記憶免疫が働くと新型コロナの感染にどのような影響を与える?
記憶免疫が働くことで、どのようなメリットを得られるのか詳しく教えください。
中島先生
体内に侵入した新型コロナウイルスが記憶T細胞に攻撃されることで、結果的に新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防げる可能性があります。実際に、新型コロナウイルスに感染しても、無症状や軽症で済む方がいます。
これが、過去にかかった風邪による記憶免疫の働きによるものかどうかは、現時点では判明していません。今後、研究が続けられることで明らかになることが期待されています。
最近風邪をひいた人は新型コロナの対策は必要ない?
最近に風邪をひいた人は、記憶免疫によって新型コロナにかかりにくいため、対策は必要ないということでしょうか?
中島先生
風邪は、疲労や寒さ、栄養低下など、さまざまな要因によって感染しやすい状態になったところにウイルスや細菌が感染し、発症するものです。記憶免疫があるだけでは、風邪の発症を防げません。同じく、新型コロナウイルスに関しても、記憶免疫があるからといって、必ず無症状や軽症で済むとは限らないでしょう。
具体的に、何のウイルスや細菌による風邪をひいたときに、新型コロナウイルスに対抗する記憶免疫ができるのかも判明していません。さらに、記憶免疫がどれだけ継続するのかも不明です。
そのため、最近風邪をひいたかどうかに関係なく、引き続き手洗いうがいやマスクの着用などの感染対策が必要です。
まとめ
過去の風邪によって作られた記憶免疫が新型コロナの発症や重症化の防止に役立つことが期待されています。しかし、過去に風邪をひいたことがある方も重症化しているため、安心はできない状況です。新型コロナウイルスの予防と感染時の適切な行動によって、感染拡大防止に努めましょう。