介護の現場で使われるトランスとは?移乗介助のやり方や注意点を解説

介護現場で使われる”トランス”という言葉は、トランスファーの略であり、ベッドから車椅子などへ乗り移る”移乗動作”を指します。
「自宅でもトランス介助を行いたいが、やり方がわからない」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では介護におけるトランスについて、以下の点を中心にご紹介します。
- 介護におけるトランスとは
- トランス介助のやり方
- トランスを行う際の注意点
ぜひ最後までお読みください。

監修作業療法士:
稲木 康平(作業療法士)
経歴:回復期病棟で約9年ほど、患者様やご家族様のニーズに合わせたリハビリテーションを実施する。また、数多くの患者様に対して、退院後に快適な生活を過ごされるための自宅の環境調整や、介護サービスの提案、家族指導も行ってきた。
資格:作業療法士免許、医療経営士3級
目次 -INDEX-
介護の現場で使われるトランスとは

介護におけるトランスとはどのような意味ですか?
介護現場では、ベッドから車椅子、車椅子からトイレなど乗り移る移乗動作を指す用語として使われています。
高齢になると足腰が弱くなり、移乗時に転倒するリスクが高まるため、介助が必要となる場面が増えます。
この移乗動作を支援することをトランス介助といいます。
介助者が力で持ち上げるのではなく、本人ができる動作を活かしながら、安全に移動できるよう支えることが基本とされています。
トランスはどのような場面で行われますか?
代表的な例として、車椅子とベッド、車椅子とトイレ、車椅子と自動車、床や移動用リフトとの乗り移りなどが挙げられます。
食事や排泄、入浴、外出のたびにトランスが必要となるため、1日に何度も行われます。
移動介助とは何が違いますか?
トランスとは”移乗”介助のことで、ベッドから車椅子、車椅子から便座など、ある位置から別の位置へ乗り移る動作を指します。
一方、”移動”介助は、居室からトイレ、リビングから浴室、自宅から外出先など、歩行や車椅子で場所から場所へ移動する過程を支援する介助です。
“移乗”介助(トランス)は一瞬の動作ですが、身体への負担や転倒リスクに配慮した、正しい介助技術が求められます。
“移動”介助では、歩行や車椅子操作中の安全確保が重要です。
トランス介助の基本的なやり方とポイント

トランスのやり方を教えてください
いずれの場合も安全確認と声かけ、無理に持ち上げないことがポイントです。
【ベッドから車椅子へのトランス介助】
1.車椅子をベッドに横付けし、ブレーキをかける
2.跳ね上げタイプのひじ掛けがある場合は、ベッド側のひじ掛けを跳ね上げておく
3.ベッドの高さを車椅子に合わせる
4.被介護者の身体を起こす
5.被介護者の足を床に着け、手を介助者の肩に回してもらう
6.介助者は腰を落とし、被介護者の腰を支えながら立ち上がりを促す
7.身体は持ち上げず、声かけをしながら、回転させるイメージで車椅子へ移乗する
8.かかとが浮かない程度に被介護者の足を引き、前傾姿勢を促して深く座らせる
【車椅子からベッドへのトランス介助】
車いすからベッドへの移乗も基本は同様ですが、移乗後はベッド中央へ移動し、ずり落ちない姿勢を整えることが大切です。
1.ベッドと車椅子の高さを調整し、できるだけ近付ける
2.車椅子のブレーキを再確認する
3.被介護者に前傾姿勢をとってもらい、立ち上がりを支援する
4.回転動作でベッドへ移乗する
5.ベッドの端に座らせた後、中央へ移動するよう介助する
トランス介助は、正しい手順と声かけを意識することが重要です。
被介護者の力も活かし、介助者自身の身体への負担も抑えながら行いましょう。
トランスを行う際に意識すべき身体の使い方を教えてください
力任せに持ち上げるような介助は、転倒や痛み、介助者の腰痛を引き起こす原因となるため、ボディメカニクスの考え方を取り入れることが重要です。
ボディメカニクスの活用とは、身体の仕組みを理解して上手に使うということです。
以下のポイントを意識すると、腰痛を防ぎつつ、少ない力でトランスを行えます。
1.支持基底面(人体や物体が地面に接している部分)を大きくとる
前後左右に足を開くことで身体が安定し、バランスを崩しにくくなります。
2.腰を落として重心を低くする
重心が低い位置にあると安定感が上がり、介助する側の腰痛予防にもつながります。
3.接地面積(物体や身体が何かと触れている部分)の摩擦を小さくする
接地面積の面積が小さくなるほど、かかる摩擦も小さくなります。摩擦が減ると、介助に必要な力も少なくなります。
4.身体を密着させる
要介護者と身体を密着させることで、安定感が出て、介助する側の力が入りやすくなります。
5.てこの原理を使う
支える部分(支点)、力を加える部分(力点)、加えた力が働く部分(作用点)の関係を利用すると、小さな力でもしっかり支えられます。
6.重心を水平に動かす
持ち上げる動作は重力に逆らうため、大きな力が必要になります。
膝の屈伸を利用して、重心を水平に移動させることで、重力の影響を受けにくくなります。
7.身体をひねらない
身体をひねると不安定な姿勢になり、腰にも負担がかかります。膝の屈伸で重心を移動させましょう。介助者の足先は、移乗させたい方向に向けておきましょう。
8.大きな筋群を使う
“腕だけ”など一つの筋肉だけでなく、腰や脚、背中など全身の大きな筋肉を一緒に使うことで、負担を分散させましょう。
ボディメカニクスを意識した身体の使い方を身につけると、安全で負担の少ないトランス介助につながります。
福祉用具を使ったトランスにはどのような方法がありますか?
例えばトランスファーボード(スライディングシート)は、被介護者が座った姿勢のまま、お尻を横に滑らせてベッドと車椅子の間を移動させるものです。
立ち上がる必要がないため、腰への負担を軽減できます。
ほかにも、介護用ベッドの昇降機能や、入浴用リフト、段差解消機を活用して上下移動を補助する方法があります。
介護保険の給付やレンタルの対象となる福祉用具もあるため、関心のある方はケアマネジャーに相談してみましょう。
トランスを行う際の注意点と安全対策

トランス時に起こりやすい事故やリスクを教えてください
ベッドや車椅子への移乗中にふらついたり、体勢が崩れて滑り落ちたりすると、骨折につながる可能性があります。
また、衣服や腕を引っ張る介助は、皮膚トラブルや肩関節の脱臼につながる恐れがあります。
さらに、車椅子のフットサポートに足や膝を引っかけることで、皮膚損傷や打撲を負うケースもあります。
福祉用具の不具合や、車椅子のブレーキのかけ忘れも、事故の原因となりえます。
用具の点検や、相互の姿勢を意識した介助、状況に応じて複数人で介助するなどの対応が重要です。
体格の大きな方のトランス介助について教えてください
介護者自身の身体を守る工夫を重ねることが、結果的に安全な介護につながります。
無理なトランスを避けるためにはどうすればよいですか?
突然、身体を動かされると不安や緊張から身体がこわばり、転倒や介護拒否につながる恐れがあります。
「今から立ちます」「こちらへ移ります」などと説明し、同意を得ながら進めましょう。
次に、力任せに持ち上げず、被介護者ができる動作は自身で行ってもらうことが大切です。すべてを介助すると筋力低下を招き、かえって負担が増えてしまいます。
また、動作はゆっくり、ボディメカニクスを活用しながら、無理のないトランスを行いましょう。
しかし、ボディメカニクスを意識していても、体質や一瞬の無理な動作によって、腰や膝に負担がかかることもあります。そのため、日常的な予防策と環境づくりも重要です。
例えば、腰痛ベルト(コルセット)は腰部を安定させ、痛みの出やすい姿勢を防ぐのに役立ちます。
また、短時間でできる腰痛体操やストレッチを取り入れることで、筋肉の緊張を和らげ、腰痛予防につながります。
編集部まとめ

ここまで介護におけるトランスについてお伝えしてきました。
介護のトランスについて、要点をまとめると以下のとおりです。
- トランスとは、ベッドから車椅子、車椅子から便座などへ乗り移る”移乗動作”を指す。食事や排泄、入浴などのたびに必要となる
- トランス介助時は、声かけを行い、介護者と被介護者のタイミングを合わせる。力任せに持ち上げず、姿勢や重心移動を意識して介助する
- トランスは転倒や転落、皮膚損傷のリスクを避けるため、福祉用具の点検や体調確認が重要。ときには複数人での介助や福祉用具の活用を検討する
介助する側とされる側双方に、負担やストレスなく行われることが重要です。
本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献



