特別養護老人ホームに入居できる介護度は?入居までの流れなどをわかりやすく解説

特別養護老人ホームへの入居を検討する際、どの介護度なら入居できるのかと気になる方も少なくありません。
2015年4月から入居条件が変更され、原則として要介護3以上の方が対象となります。しかし、要介護1や2の方でも特例的な入居が可能です。
本記事では、特別養護老人ホームの入居条件となる介護度について、入居までの具体的な流れとともに詳しく解説していきます。
施設選びから申し込み、必要書類まで、入居を検討している方やそのご家族が知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。

監修医師:
小田村 悠希(医師)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
特別養護老人ホーム(特養)とは

特別養護老人ホームは、常時介護が必要で在宅での生活が困難な高齢の方を受け入れる公的な介護保険施設です。
入所者が可能な限り在宅復帰できることを念頭に、日常生活上の支援や機能訓練を提供します。入所者の意思や人格を尊重し、明るく家庭的な雰囲気を重視した運営が特徴です。
特別養護老人ホームの役割
特別養護老人ホームは、中重度である要介護の高齢の方を支える生活施設として重要な役割を担います。
老人福祉法第20条の5に基づき、65歳以上で身体上または精神上著しい障害があり、常時介護を必要とする方を受け入れる施設です。
施設では入所者の処遇に関する計画を立て、可能な限り居宅における生活への復帰を目指します。
入浴や排せつ、食事などの介護に加え、以下のサービスを提供するのが特徴です。
- 相談援助
- 社会生活上の便宜供与
- 機能訓練
- 健康管理
- 療養上の世話
入所者が有する能力に応じて自立した日常生活を営めるよう支援します。
地域や家庭との結び付きを重視した運営を行い、市町村やほかの保健医療、福祉サービス提供者との密接な連携にも努めます。
特別養護老人ホームで受けられるサービス

特別養護老人ホームでは、入所者の心身の状態に応じた包括的な生活支援サービスを受けられます。具体的には食事や入浴、排せつなどの日常生活における介護支援が中心となります。
医師による健康管理と療養上の指導も定期的に実施され、看護職員が入所者の健康状態を日々観察する体制です。
生活相談員が入所者やご家族からの相談に応じ、社会生活上の助言や援助を行います。
理学療法士などの機能訓練指導員による個別機能訓練計画に基づいた訓練も提供されています。
栄養士が作成した栄養ケア計画に従った食事管理も実施され、入所者一人ひとりの栄養状態を定期的に記録する体制です。
介護保険施設での特別養護老人ホームの位置づけ
特別養護老人ホームは、介護保険施設のなかで要介護の高齢の方のための生活施設として位置づけられています。
介護老人保健施設は在宅復帰を目指すリハビリ施設、介護医療院は医療の必要な要介護者の長期療養施設です。
特別養護老人ホームは日常生活における継続的な介護を必要とする方の生活の場です。
入所者に占める要介護3以上の割合は約92%に上り、入所者の平均要介護度も年々上昇している傾向にあります。
在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える施設として、その機能が重点化されてきた経緯があります。
地域包括ケアシステムの中核として、施設内のサービス提供だけでなく、在宅で暮らす重度の要介護者への支援拠点としての役割もあるのが特徴です。
入居費用の目安と自己負担額
特別養護老人ホームの費用は、介護サービス費の1~3割の自己負担に加え、居住費と食費が必要となる仕組みです。
介護サービス費は要介護度と居室タイプによって異なります。一例として、要介護5のユニット型個室では、1割負担で月額約28,000円です。
居住費と食費については、厚生労働省が定める基準費用額があり、2024年8月時点でユニット型個室の居住費は月額約63,000円、食費は月額約44,000円となります。
所得に応じて補足給付が支給される制度があり、低所得者への配慮がなされる仕組みです。第1~3段階の低所得者には、基準費用額と負担限度額の差額が介護保険から給付されます。
実際の月額費用は所得段階や居室タイプにより大きく異なります。第4段階の方がユニット型個室を利用する場合、要介護3で月額約140,000~150,000円、要介護5で月額約144,000~154,000円が目安です。
一方、補足給付を利用する場合、月額の自己負担が軽減されます。しかし実際の負担額は居室タイプや所得区分、自治体の基準によって異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
介護度の基本知識

介護度は、介護サービスを利用するために必要な心身の状態を7段階で示す指標です。市区町村が実施する要介護認定により、要支援1・2から要介護1~5までのいずれかに認定されます。
認定結果に応じて利用できるサービスの種類や量が決まるため、適切な認定を受けることが重要となる制度です。
介護認定の流れ
介護認定を受けるには、まずお住まいの市区町村の窓口で申請を行う必要があります。
申請後、市区町村の職員などの認定調査員が自宅を訪問し、心身の状況について本人や家族から聞き取り調査を実施する流れです。
調査内容は全国共通の項目で構成されます。並行して、市区町村から主治医に対して医学的見地からの意見書作成を依頼します。
なお、意見書作成料は申請者の自己負担が発生しません。
調査結果と主治医意見書の一部項目をコンピューターに入力し、全国一律の判定方法で一次判定が行われます。
その後、一次判定の結果と主治医意見書に基づき、保健や福祉、医療の学識経験者で構成される介護認定審査会が二次判定を実施します。
市区町村は審査会の判定結果に基づき要介護認定を行い、申請者には原則30日以内に結果が通知されるでしょう。
介護度の区分と心身の状態

介護度は心身の状態と必要な介護時間により7段階に区分される仕組みです。各区分の詳細は以下の通りとなります。
| 介護度 | 必要な介護時間 | 心身の状態 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 25分以上 32分未満 |
日常生活の能力は基本的にあるが、要介護状態とならないように一部支援が必要な状態 |
| 要支援2 | 32分以上 50分未満 |
立ち上がりや歩行が不安定で、排泄や入浴などで一部介助が必要だが、適切なサービス利用により状態の維持や改善の可能性がある状態 |
| 要介護1 | 32分以上 50分未満 |
立ち上がりや歩行が不安定で、排泄や入浴などで一部介助が必要な状態 |
| 要介護2 | 50分以上 70分未満 |
起き上がりが自力では困難で、排泄や入浴などで一部または全介助が必要な状態 |
| 要介護3 | 70分以上 90分未満 |
起き上がりや寝返りが自力ではできず、排泄や入浴、衣服の着脱などで全介助が必要な状態 |
| 要介護4 | 90分以上 110分未満 |
日常生活能力の低下がみられ、排泄や入浴、衣服の着脱など多くの行為で全介助が必要な状態 |
| 要介護5 | 110分以上 | 日常生活全般について全介助が必要で、意思の伝達も困難な状態 |
認定の有効期間は新規認定で6ヶ月、更新認定で12ヶ月が基本となりますが、市町村が必要と認める場合は期間が調整されます。
特別養護老人ホームに入居できる介護度

特別養護老人ホームへの新規入所は、2015年4月以降原則として要介護3以上の方に限定される制度です。
限られた資源のなかで、入所の必要性が高い方が入所しやすくなる仕組みになっています。
居宅での生活が困難な中重度である要介護の高齢の方を支える施設としての機能に重点化が図られる方向です。ただし、一定の要件を満たす場合は例外的な入所も認められます。
基本条件は要介護3以上
特別養護老人ホームに新たに入所する場合、原則として要介護3以上の認定を受けていることが必要です。
在宅で要介護4や5の方が入所を希望しながら、在宅での生活を余儀なくされているケースが少なくありません。
入所要件の変更は、重度の要介護者が入所できずにいる状況を改善するために実施されました。
重度の要介護状態にある方々のニーズに応え、中重度の要介護者を支える施設としての役割を明確化する方針です。
要介護3以上の方の入所判断については、従来の優先入所指針による判定手続きが継続され、市町村の特別な関与は認められません。
例外的なケース

要介護1または2の方でも、やむを得ない事情により特別養護老人ホーム以外での生活が著しく困難と認められる場合には、特例的に入所が可能です。
具体的な要件として、認知症による日常生活の支障や意思疎通の困難さが頻繁に見られる状態が挙げられます。
知的障害や精神障害などによる症状や行動面での困難さが頻繁に見られる状態も対象です。
家族等による深刻な虐待が疑われるなどにより心身の保護が困難な状態も含まれます。単身世帯や同居家族が高齢、病弱などにより家族支援が期待できない状態も該当する要件です。
特例入所の判断は各施設が行いますが、入所判定の公正性確保と地域の在宅サービスなどの状況を踏まえ、市町村の適切な関与も認められています。
入居中に介護度が下がった場合は退去になる?
制度見直し後に要介護3以上で新規入所した方が、入所後に要介護度が要介護1や2に改善した場合でも継続入所が認められることがあります。
ただし、やむを得ない事情により特別養護老人ホーム以外での生活が著しく困難であると判断される場合に限られます。
これは、施設での適切なケアにより心身の状態が改善したことを評価し、その方の生活の継続性を尊重するためです。
入所後の要介護度が改善したからといって、すぐに退所を求められるわけではありません。
継続入所を判断する際も、新規入所時と同様の特例要件に該当するかどうかが確認されます。
特別養護老人ホームに入居するまでの流れ

特別養護老人ホームへの入所は、施設と利用者の契約により行われます。入所を希望する場合は、施設へ直接申し込みが必要です。
入所の順番は申し込み順ではなく、心身の状態や介護者の状況などを総合的に勘案した優先度に基づいて決定されます。
入居申込みの手順
特別養護老人ホームへの入所申し込みは、入所を希望する施設に直接申し込むことから始まります。
申し込みにあたっては、本人または家族が施設を訪問し、施設の概要説明を受けることが一般的です。
申し込みの際には、介護保険被保険者証のコピーや主治医の診断書または意見書、本人の健康状態や生活状況に関する情報などが必要です。
複数の施設に同時に申し込むことも可能ですが、実際に入所できるのは1施設のみとなるため、優先順位は明確にしておきましょう。
市区町村の窓口や居宅介護支援事業所、地域包括支援センターや民生委員などに相談することで適切な施設選びのアドバイスを受けることが可能です。
申し込み後は定期的に施設から状況確認の連絡があり、本人の状態変化があった場合は速やかに施設に報告することが必要です。
入居の順番と優先度とは

特別養護老人ホームの入所順番は、申し込み順ではなく入所の必要性に基づく優先度により決定されます。
各施設は入所検討委員会を設置し、申し込み者の要介護度や認知症の程度、家族などの介護体制や住宅環境、サービス利用状況などを総合的に評価して優先度を判定します。
一般的に要介護度が高い方や認知症の症状が重い方、独居や老老介護など在宅での介護が困難な方、虐待や緊急性の高い事情がある方などが優先される傾向です。
入所の必要性が同程度の場合は、申し込み時期も考慮されます。入所順番は定期的に見直され、本人の状態変化や家族状況の変化により優先度が変動する可能性があります。
入所までの待機期間は地域や施設により大きく異なり、数ヶ月から数年に及ぶこともあるため、早めに複数の施設に申し込んでおくのがおすすめです。
ケアマネジャーへの相談と必要書類
特別養護老人ホームへの入所を検討する際は、担当のケアマネジャーへの相談が重要な第一歩となる手順です。
ケアマネジャーは本人の心身の状態や家族の介護負担や経済状況などを総合的に把握しており、適切な施設選びのアドバイスを提供します。
在宅サービスの利用状況や今後の見通しについても相談でき、入所申し込みのタイミングについても助言を受けられます。
必要書類としては介護保険被保険者証や健康保険証、主治医の診断書または意見書、印鑑、収入に関する書類などが一般的です。
施設によって必要書類が異なる場合があるため、事前に確認することが大切なポイントです。
ケアマネジャーが申し込み手続きを代行してくれる場合もあり、書類の準備や施設との連絡調整をサポートしてもらえます。
複数施設への申し込みについても、ケアマネジャーと相談しながら進めることで効率的な施設選びが可能です。
特別養護老人ホーム入居までの準備とポイント

特別養護老人ホームへの入所をスムーズに進めるためには、事前の準備と情報収集が欠かせない要素です。施設見学を通じて実際の雰囲気やサービス内容を確認しましょう。
医療ケアの必要性がある場合は、対応可能かどうかを事前に確認することが重要です。複数の施設を比較検討することで、より適切な選択ができるでしょう。
希望施設の見学と相談のコツ
施設見学は、実際の生活環境やサービスの質を確認できる貴重な機会です。見学の際は居室の広さや清潔さや共用スペースの雰囲気、職員と入所者の関わり方などを確認しましょう。
食事の時間帯に訪問できれば、食事の内容や介助の様子も確認しておくとよいでしょう。
職員に質問する際は介護体制や医療連携、リハビリテーションやレクリエーション活動、看取りへの対応などについて具体的に尋ねることが重要です。
複数の施設を見学して比較することで、それぞれの特徴や違いが明確になるでしょう。
見学時には家族も同行し、本人の希望や家族の意向を施設側に伝えることが大切です。
医療ケアが必要な場合の注意点
特別養護老人ホームでは日常的な健康管理が可能です。ただし、医療機関とは異なるため、必要な医療ケアの内容によっては対応が困難な場合があります。
インスリン注射や経管栄養、たん吸引や褥瘡の処置などが必要な場合は、施設の医療体制を詳しく確認することが重要です。
配置医師の診療日数や時間、看護職員の配置体制や夜間の医療対応、協力医療機関との連携体制も事前に確認しておきましょう。
特別養護老人ホームは看護職員の配置が限られているため、24時間の医療的ケアが必要な場合は特に注意が必要です。
介護医療院や介護療養型医療施設など医療に重点を置いた施設の方が適している可能性もあります。
入所申し込み時に主治医の診断書で必要な医療ケアの内容を明確に伝え、入所後に医療ニーズが増大した場合の対応方針も確認しておくことが重要です。
なお、特別養護老人ホームは終の棲家として看取りケアを実施する施設も増えています。看取りを希望される場合は、施設の看取り体制や方針について事前に確認しましょう。
医師や看護職員の配置状況、緊急時の対応体制、看取り後のグリーフケアの有無などが確認するポイントです。
本人やご家族の意向を施設側に伝え、人生の最期をどのように迎えたいか事前に話し合っておくことで、心配なく最期の時を迎えることができます。
編集部まとめ

特別養護老人ホームへの入居には、原則として要介護3以上の認定が必要です。
ただし、やむを得ない事情がある場合は要介護1や2でも特例的に入所できます。入所の順番は申し込み順ではなく、優先度により決定されます。
施設見学を通じて雰囲気やサービス内容を確認し、医療ケアが必要な場合は対応可能かを事前に確認することが重要です。
費用については自己負担に加え居住費と食費が必要ですが、低所得の方には補足給付の制度があります。
ケアマネジャーに相談しながら早めの情報収集と複数施設への申し込みを検討することで、心配なく入所を迎えることができます。
参考文献




