寝たきりは肺炎になりやすい?リスクが高い方の特徴や予後への影響、早期発見と予防のポイントを解説

寝たきりの方は、さまざまな要因が重なり肺炎になりやすいといわれています。肺炎は重症化するケースも少なくなく、予防や早期発見が欠かせません。本記事では、寝たきりの方がかかりやすい肺炎の種類や症状、肺炎になりやすい理由、早期発見と予防のポイントなどを解説します。

監修医師:
江口 瑠衣子(医師)
目次 -INDEX-
寝たきりの方がかかりやすい肺炎の種類と症状

ここでは、寝たきりの方に多くみられる肺炎の種類とその症状を解説します。
寝たきりの方がかかりやすい肺炎の種類
寝たきりの方がかかりやすい肺炎には、主に誤嚥性肺炎と細菌性・ウイルス性肺炎があります。それぞれの肺炎には異なる原因と特徴があり、その違いを理解することは適切な対応をするのに役立ちます。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は、寝たきりの方に多くみられる肺炎の一つです。本来、食べ物や飲み物は食道を通って胃へ送られますが、飲み込む機能(嚥下機能)が低下すると、これらが誤って気管や肺に入り込んでしまいます。この現象を誤嚥(ごえん)といいます。誤嚥により、口腔内や咽頭に存在する細菌が食べ物や唾液とともに肺に入り込むと、肺で炎症が起こり、誤嚥性肺炎を発症します。
細菌性・ウイルス性肺炎
寝たきりの方は、誤嚥性肺炎以外にも、一般的な細菌やウイルスによる肺炎にもかかりやすい状態にあります。細菌性肺炎は、さまざまな細菌によって引き起こされる肺炎です。原因となる細菌は、主に肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌などです。ただし、寝たきりの方は、体力の低下やさまざまな要因が重なることで、典型的な原因菌ではない場合もあります。ウイルス性肺炎は、インフルエンザウイルスやRSウイルス、新型コロナウイルスなどの、ウイルスによる肺炎を指します。ご高齢の寝たきりの方は免疫力が低下しているケースが多く、重症化する可能性があります。
肺炎の症状
肺炎の症状には典型的なものがありますが、寝たきりの方は症状がわかりにくい場合も少なくありません。早期発見のためには注意深い観察が必要です。肺炎の種類ごとの特徴を押さえましょう。
誤嚥性肺炎の症状
誤嚥性肺炎では、通常の肺炎と同様に発熱、咳、膿性の痰などが典型的症状として現れます。しかし、ご高齢の方、寝たきりの方では、これら典型的な症状がはっきりしないこともあります。なんとなく元気がない、ぼんやりしている(意識がはっきりしない)、食欲がないなどの変化がある場合は、誤嚥性肺炎の可能性があります。また、誤嚥性肺炎の症状はゴロゴロと喉が鳴る音として現れることもあります。普段から誤嚥を繰り返す方は特にリスクが高いため、誤嚥の症状にも気を付けましょう。
細菌性・ウイルス性肺炎の症状
一方、細菌性肺炎やウイルス性肺炎では、高熱(38度以上)が出たり、痰を伴う強い咳が出たり、誤嚥性肺炎と比べて典型的な症状が現れやすい傾向があります。また、息苦しさ(呼吸困難感)や胸の痛みがみられることもありますが、高齢の方や寝たきりの方でははっきりとしないケースもあります。誤嚥性肺炎と同様に、症状が典型的でなくとも普段と違う様子がみられる場合には肺炎の可能性を検討します。
寝たきりの方が肺炎になりやすい理由とリスクが高い方の特徴

寝たきりの状態は、さまざまな要因によって肺炎の発症リスクを高めます。ここでは、なぜ寝たきりの方が肺炎になりやすいのか、その具体的な理由と、特にリスクが高い方の特徴を解説します。
寝たきりの方が肺炎になりやすい理由
寝たきり方が肺炎になりやすい理由として、仰向けの姿勢が続くと、飲食物や唾液が重力によって気管へ流れやすく、誤嚥のリスクが高くなることが挙げられます。そのほかにも複数の要因が関係しており、主な理由を解説します。
- 嚥下機能・咳反射の低下
- 呼吸機能の低下
- 痰や気道分泌物の貯留
- 栄養状態の悪化や免疫力の低下
- 口腔内の不衛生
寝たきりの方は、加齢や長期臥床により、飲み込みに関わる筋肉が衰え、嚥下機能が低下したり、咳こんで異物を排出する力が弱くなったりします。また、長期間同じ姿勢で過ごすことにより、肺が十分に膨らまず、これにより呼吸が浅くなり、肺の一部が十分に換気されない状態が続きます。さらに、重力の影響で痰や気道分泌物が肺の下部に溜まりやすくなります。
寝たきりの状態が続くと、全身の筋肉量が減少し、栄養状態も悪化しやすくなります。これにより免疫機能が低下し、肺炎を発症しやすくなります。このほかにも、口腔内の不衛生も肺炎のリスクです。寝たきりの方は、自分で歯磨きをすることが難しく、口腔ケアが不十分になりがちです。
肺炎になるリスクが高い方の特徴
肺炎になるリスクが高い方の特徴は次のとおりです。
- ご高齢である
- 脳血管障害や神経・筋疾患がある
- 重度の認知症や意識障害がある
- 口腔ケアが不十分である
- 胃ろうや経鼻経管栄養を使用している
- 肺炎の既往がある
年齢は肺炎の重要なリスク因子で、高齢になるほど、嚥下機能や咳反射、免疫機能などが低下し、複数の基礎疾患を持っていることが多くなります。脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、神経・筋疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)は嚥下障害の原因となりえます。認知症は進行すると、食べ物を認識し、お口に入れ、飲み込むという一連の動作の協調性が失われ、誤嚥のリスクが高まります。意識障害がある方も同様に誤嚥のリスクが高くなり、これらの状態や疾患がある方は肺炎になる可能性が高くなります。
口腔ケアが不十分であることも、誤嚥性肺炎の大きなリスクです。歯磨きや入れ歯の手入れが不十分だと、舌や歯垢に細菌が大量に繁殖します。特に歯周病がある場合は、口腔内の細菌数がさらに増加します。また、義歯の手入れが不十分な場合も、義歯に細菌が付着・増殖しやすくなります。
なお、胃ろうや経鼻経管栄養を使用している方は、経口で食事を摂っていないため一見誤嚥のリスクが低いように思われますが、実際には肺炎を発症するリスクがあります。経口摂取をしなくなると口腔や咽頭の機能がさらに衰えます。胃の内容物の逆流や唾液を誤嚥するケースもあり、肺炎のリスクが高い方といえます。
過去に肺炎を経験したことがある方は、再び肺炎にかかりやすい傾向があります。誤嚥があった方は嚥下障害が続いている可能性が高く、また、肺炎で全身状態が悪化したり肺の機能が落ちたりすることで肺炎のリスクが高まります。
寝たきりの方の肺炎が予後に与える影響と注意すべき合併症

2023年の報告によると肺炎は日本人全体の主要な死因の一つであり、肺炎は生命を脅かす重大な疾患であるといえます。また、誤嚥性肺炎で入院した高齢の患者さんで、退院後の生存期間の中央値は約1年であるとの報告もあり、予後の厳しさが明らかになりました。誤嚥性肺炎は、治療が必要な急性期の病態にとどまらず、その後の生命予後に大きな影響を与えることを示しています。
肺炎を契機にADL(日常生活動作)のレベルがさらに低下し、寝たきりの程度が重くなるなど、肺炎から回復しても全身状態が悪化するケースも少なくありません。さらに、肺炎そのものが引き起こす合併症にも注意が必要です。肺炎にかかると呼吸状態が悪化し、低酸素血症により意識障害を引き起こすことがあります。重症化すると、人工呼吸器による管理が検討されます。また、敗血症も重大な合併症です。敗血症は、肺炎の原因となる細菌が血液中に入り込み、全身に広がることで引き起こされます。敗血症は多臓器不全につながるリスクがあり、急速に容体が悪化するケースもあります。
参照:
『令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』(厚生労働省)
『報道発表』(国立大学法人 浜松医科大学)
寝たきりの方の肺炎を早期発見するためのチェックポイント

肺炎は早期に発見し適切な治療を開始できれば、重症化を防げる可能性が高まります。しかし寝たきりの方の肺炎は症状がわかりにくいことがあります。寝たきりの方の肺炎を早期に発見するためには、日頃から注意深い観察が必要です。以下のチェックポイントを確認しましょう。
咳込みやむせ込みの頻度・タイミング
食事や水分摂取の際にむせる(咳込む)頻度が増えるのは、誤嚥の重要なサインです。特に食事中や食後、あるいは横になっているときに咳き込んでいるかどうか、夜間や早朝に咳が増えているかどうかも併せて確認します。また、咳の質にも注目します。痰がからんだ湿性の咳が続く場合や、咳込みの後に呼吸が苦しそうな様子がみられる場合は、気道内に分泌物が貯留している可能性があります。
痰の量・色の変化
痰の量と色の変化も重要なチェックポイントです。肺炎になると痰の量が増加したり、色が黄色や緑色など濁った色になったりします。口腔ケア中にお口の中にネバネバした痰が増えている場合も、感染を起こしている可能性があります。
発熱の有無
発熱は肺炎の代表的な症状ですが、高齢の方では微熱程度にとどまることや、逆に体温が低下することもあります。また、解熱鎮痛薬の服用により発熱が目立たない場合もあります。発熱がないからといって肺炎を否定せず、ほかの症状とも併せて判断します。
息切れ・呼吸状態の悪化
肺炎になると、息切れや呼吸状態の悪化を認めます。息苦しさを訴えない場合でも、呼吸が浅く速くなっている場合や、息を吸うたびに肩が上がるような努力様呼吸がみられる場合は、呼吸状態の悪化が疑われます。また、呼吸の際にゴロゴロと喉が鳴ったり、ヒューヒュー、ゼーゼーという音がしたりするケースも肺炎の可能性があります。
食欲の低下
食欲低下も肺炎の早期発見の鍵です。高齢の方の肺炎では、倦怠感や食欲の低下が主な症状となることも少なくありません。食事や水分摂取量が減った、食事に時間がかかるようになった、などの変化がみられないかを確認します。
体重の減少
体重の減少も肺炎の兆候の可能性があります。短期間で体重が急に減った場合は、肺炎など何らかの疾患が隠れている可能性があります。
寝たきりの方の肺炎予防のポイント

肺炎を予防するために、日常の介護においてさまざまな対策があります。具体的に次の5つのポイントを解説します。
体位管理・環境整備の徹底
肺炎の予防で大切なのは体位管理です。食事や水分摂取の際には、できる限り上体を起こして顎を軽く引いた状態を保ちます。また、食後すぐに横になるのは避け、食後30分から1時間程度は上半身を起こしたまま安静にします。
環境整備のポイントは、適切な温度・湿度の管理と定期的な換気です。適切な温度管理を行い、湿度は40~60%程度を目指しましょう。
参照:
『健康・快適居住環境の指針』(東京都福祉保健局)
『冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法』(厚生労働省)
口腔ケアの徹底
お口の清潔を保つことは、肺炎予防に大変効果的です。食事の後や寝る前は歯磨きを欠かさず、可能であれば舌の汚れもきれいにします。義歯を使用している場合は毎食後に外して洗浄します。さらに、歯科受診が可能であれば歯科検診や専門的な口腔ケアを定期的に受けるとよいでしょう。
なお、口腔ケアを実施する際は、いくつか注意すべき点があります。ベッド上で、誤嚥するリスクが高い方の口腔ケアを実施するときは、可能な限り上半身を起こします。また、水でゆすぐことが困難な場合は、口腔内の保湿剤やジェルを活用します。そのほかに、スポンジブラシや湿らせたガーゼで、歯やお口のなかの粘膜ををやさしく拭き取る方法を検討しましょう。口腔ケアを実施するときは、歯ブラシやスポンジブラシ、ガーゼなどを奥まで入れ過ぎないように気を付けます。
感染症対策の徹底
肺炎を予防するには、肺炎の原因となる感染症にかからないことが大切です。寝たきりの方は感染に対する抵抗力が弱いため、感染対策を徹底しましょう。具体的には、手洗い・うがい、マスクの着用、人混みへの外出をできるだけ避けるなどです。
食事の摂り方の工夫
食事の摂り方の工夫も肺炎予防に不可欠です。誤嚥のリスクを減らすため、嚥下機能に応じた食事形態・方法を取りましょう。具体的には、食べ物を細かく刻む・とろみをつけるなどの食事の形態を調整し、パンやクッキーなどパサパサしてまとまりにくいものや、餅などの粘りが強いものは控えます。また、食事を摂る際には、一口量と食事のペースに注意します。介助する際は一口の量を少なめにし、飲み込こんだことを確認してから次の一口を運びます。食事が進むにつれ疲労で誤嚥しやすくなるケースもあります。無理のないペースで食事をするように心がけましょう。
予防接種
予防接種は、肺炎の予防において有効な手段です。厚生労働省は、65歳の方と、60〜64歳で対象となる方(心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があるなど)に肺炎球菌ワクチンの定期接種を実施しています。また、インフルエンザワクチンの接種も重要です。予防接種を受ける際は、かかりつけ医に相談し、接種のタイミングや注意事項について確認してください。
まとめ

寝たきりの方は、嚥下機能の低下、免疫力の低下、口腔内の衛生状態の悪化などさまざまな要因により、肺炎になりやすい状態にあります。肺炎の症状は、典型的な発熱や咳だけでなく、食欲低下、活動性の低下、意識レベルの変化など、さまざまな形で現れます。症状がわかりにくいことがあるため、日頃から注意深い観察が必要です。寝たきりの方の肺炎は、予後に大きな影響を及ぼす可能性があります。異変を感じたら、医療機関への相談を検討しましょう。
参考文献
- 『『嚥下障害 嚥下障害の症状と原因、そして対応と治療について-意外と知らない』(一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 『嚥下障害の予防とケアで健康長寿を! | 「人生100年時代」を生き抜くために』(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
- 『嚥下障害』(日本臨床耳鼻咽喉科医会)
- 『嚥下(飲み込み)のしくみと 誤嚥(ごえん)への対応法』(日本臨床耳鼻咽喉科医会)
- 『成人肺炎診療ガイドライン2024』(日本呼吸器学会)
- 『令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況』(厚生労働省)
- 『報道発表』(国立大学法人 浜松医科大学)
- 『健康・快適居住環境の指針』(東京都福祉保健局)
- 『冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法』(厚生労働省)
- 『高齢者の肺炎球菌ワクチン』(厚生労働省)



