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誤嚥(ごえん)とは?原因と対処法、予防法をわかりやすく解説

 公開日:2025/11/29
誤嚥(ごえん)とは?原因と対処法、予防法をわかりやすく解説

食べ物や飲み物が誤って気管に入ることを誤嚥といいます。高齢の方や病気で嚥下機能が低下している方は誤嚥のリスクが高まります。誤嚥は肺炎や窒息など重い合併症につながることがあります。この記事では、誤嚥の原因や症状や生じやすい状況、対処法と予防のポイントを解説します。

江口 瑠衣子

監修医師
江口 瑠衣子(医師)

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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。

誤嚥の概要

誤嚥の概要

お口の中に入った食べ物や飲み物は、のど(咽頭)から食道を通り、胃へと送られます。この流れを嚥下(えんげ)といいます。誤嚥(ごえん)とは、何らかの原因によって嚥下がうまくいかず、食べ物や飲み物が誤って気管の方に入ってしまう状態を指します。

誤嚥の原因と生じやすい状況

誤嚥の原因と生じやすい状況

誤嚥を引き起こす原因は加齢以外にもさまざまなものがあります。また、日常生活のさまざまな場面で誤嚥のリスクがあります。ここでは、誤嚥の主な原因と生じやすい状況を解説します。

誤嚥の原因

誤嚥を引き起こす原因には、主に次のようなものがあります。

  • 加齢に伴う嚥下機能の低下
  • 基礎疾患に伴う嚥下障害
  • 口腔内の問題

まず、嚥下機能が低下する大きな原因の一つが加齢です。加齢に伴って、咀嚼する機能が低下したり、嚥下に関わる筋肉(舌、喉、首周囲の筋肉など)の力が落ちたりします。そうすると、飲み込む動作がスムーズに行えません。

また、喉の感覚が鈍くなり、咳嗽(がいそう)反射も落ちてしまいます。咳嗽反射とは、気管に異物が入ったときに、咳をして外に出そうとする反射のことです。そのほかにも、加齢によって唾液の分泌量が減少すると、食べ物を塊にまとめにくくなります。

嚥下障害をひきおこす基礎疾患にはさまざまなものがあります。脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、神経・筋疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)のほかに、頭頚部がんや重度の認知症でも嚥下機能が低下することがあります。咽頭・食道のがんによる狭窄、頭頸部の外傷や手術後の構造変化といった要因も挙げられます。

さらに、口腔内の問題も誤嚥につながる場合があります。歯の欠損義歯の不具合、お口の乾燥も誤嚥のリスクを高めます。なお、心理的な要因などが嚥下障害につながるケースもあるとされています。

参照:『嚥下障害 嚥下障害の症状と原因、そして対応と治療について-意外と知らない』(一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

誤嚥が生じやすい状況

嚥下機能が低下している場合、日常生活のさまざまな場面で誤嚥のリスクがあります。ここでは誤嚥が生じやすい状況を解説します。まず、注意すべきなのは食事中の姿勢です。背中が丸まっていたり、顎が上がっていたりする姿勢は危険です。このような姿勢で食事をすると、気道が開きやすくなり、食べ物や飲み物が気管の方へ流れ込みやすくなります。また、早食い一口量が多いこと、食事中の会話なども誤嚥のリスクがあります。このほかにも、よく噛まずに飲み込んだり、食べることに集中できなかったりする場合も、誤嚥の危険性が高まります。

食事以外では、薬を飲むときにも誤嚥が起こることがあります。特に、カプセルや大きな錠剤を服用する場合は誤嚥が生じやすくなるので、いつも以上に注意する必要があります。また、疲労や体調不良、特定の薬の影響意識の状態や嚥下機能が低下した場合、誤嚥するリスクが高まります。

誤嚥が生じたときにみられる症状

誤嚥が生じたときにみられる症状

誤嚥が起こると、身体は異物を排除しようとする反応を示します。ただし、咳嗽反射が低下している場合には、こうした典型的な反応がみられず、誤嚥に気付かないケースもあります。ここでは、誤嚥の代表的な症状と、見過ごされやすい誤嚥のサインについて解説します。
 

誤嚥の代表的な症状

誤嚥の代表的な症状を以下に示します。

  • 食事中にむせる、液体でむせる
  • 食事中に咳き込む
  • 食事の後に、声がガラガラと湿ったように聞こえる

食事中のむせやせき込みは、気管に入りかけた異物を排除しようとする身体の反応です。加齢や病状の進行でこの防御反応が弱まり、むせやせき込みがみられなくなるケースもあります。また、食べ物や飲み物が食道ではなく気管の方へ入り込み、喉頭(気管の入り口付近の構造)に食べ物などが残留すると、声がガラガラと湿ったように聞こえることがあります。これは、食べ物や飲み物を摂取していないときにも起こる場合があり、唾液やお口の中の分泌物を誤嚥している可能性があります。

見過ごされやすい誤嚥のサイン

誤嚥のサインは常に激しい咳やむせといったわかりやすい形で現れるわけではありません(不顕性誤嚥)。以下のような見過ごされやすいサインに注意を払う必要があります。

  • 食事の時間の延長
  • 痰の増加(食事中や食後)
  • 食べる量の減少体重減少
  • 食後の微熱

嚥下障害があると、飲み込みに時間がかかるようになり、食事全体にかかる時間が以前よりも大幅に長くなることがあります。そして、飲食物が咽頭、喉頭、気道に残留すると、食事中や食後に痰が増えます。また、誤嚥によって食事の後に微熱が出ることがあります。

誤嚥による影響

誤嚥による影響

誤嚥は単に、食べ物が気管に入るだけではなく、身体に重大な影響を及ぼします。なかでも代表的なのが、誤嚥性肺炎と窒息です。これらはいずれも命に関わる可能性があります。ここでは、誤嚥による影響を解説します。

誤嚥性肺炎の発症

誤嚥の重大な影響の一つが、誤嚥性肺炎の発症です。誤嚥によって、口腔内に存在する細菌が飲食物とともに肺に侵入します。これによって誤嚥性肺炎が引き起こされます。誤嚥をすると必ず肺炎を発症するわけではありませんが、免疫力が低下した高齢の方は、リスクが高いといえます。肺炎は高齢の方の死因の上位を占めており、誤嚥性肺炎は大変重要な合併症です。

誤嚥性肺炎の典型的な症状は、発熱、咳、痰です。しかし、なんとなく活気がない、食欲が落ちている、など、明らかな症状がみられないケースもあるため、普段と様子が違う場合は注意が必要です。

参照:『嚥下障害の予防とケアで健康長寿を! | 「人生100年時代」を生き抜くために』(一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

窒息のリスク

もう一つの重大な影響は、窒息です。窒息とは、気道が飲食物などの異物によって完全に閉塞する状態をいいます。窒息すると、呼吸ができなくなり、酸素不足に陥ります。緊急性が極めて高い状態です。

病院で行う誤嚥の検査・治療

病院で行う誤嚥の検査・治療

病院で行う可能性がある誤嚥の検査には、嚥下内視鏡検査嚥下造影検査があります。嚥下内視鏡検査は、鼻腔から細い内視鏡を喉まで挿入し、食べ物や飲み物などを飲み込む様子を観察する検査です。嚥下造影検査は、造影剤を混ぜた食べ物や飲み物を摂取し、X線透視下で嚥下の様子を確認する検査です。食べ物が口腔から食道へ送られるまでの動きを詳しく観察できます。また、嚥下機能低下に関わる基礎疾患が疑われる場合は、その精査も行われます。

検査結果をもとに、患者さん一人ひとりに合わせた治療やリハビリテーション計画が立てられます。リハビリテーションでは、飲み込みに関わる筋肉を鍛える訓練や、姿勢の工夫、食べ物の形態の調整などが行われます。言語聴覚士などの専門職が中心となって、段階的に訓練を進めていきます。また、脳卒中やパーキンソン病など、嚥下障害の原因となる基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行われます。

誤嚥性肺炎を発症している場合は、抗菌薬による治療が必要です。症状に応じて、点滴や内服薬が使用されます。重症の場合は入院での治療が必要になることもあります。

誤嚥したときの自宅での対処法

誤嚥したときの自宅での対処法

誤嚥は日常の食事中や服薬時など、誰にでも起こりえます。食べ物などの異物が気道を完全に塞いでしまうと、命に関わる窒息につながることもあります。いざというときに慌てず対応できるよう、窒息時の初期対応と、受診を検討すべき症状について理解しておきましょう。

窒息時の初期対応と注意点

食べ物が喉に詰まって窒息した場合は、迅速な対応が必要です。声が出る場合は、気道が完全には塞がれていない状態です。自分の力で異物を出せるよう、強く咳をするように促します。完全に気道が塞がれた場合は、数分で生命に関わる状態となる危険性があります。次のような状態であるかを確認してください。

  • 声が出せない
  • 顔色が真っ青である
  • チョークサインを出している

チョークサインとは、両手でのどをつかむ(親指と人差し指でつかむ)仕草のことで、窒息のサインと呼ばれます。これらが一つでも見られる場合は、食べ物などで気道がふさがれている状態が疑われます。大声で助けを呼び、119番通報(救急車を呼ぶ)とAEDを運んでくるよう依頼し、ただちに気道異物の除去に取りかかります。

呼びかけて反応があれば咳ができるかを確認します。咳ができるようなら、可能な限り咳をするよう促します。咳ができない場合は、背部叩打法を行います。窒息した方が立っている場合や座っている場合は、前かがみにさせて、背中側から、肩甲骨の間を片方の手のひらの付け根で強く叩きます。数回以上強く叩き、異物が出るか確認します。窒息した方が倒れているときは、手前に引き起こして横向きにします。自分の足で窒息した方の胸を支える体勢をとり、背中を叩きます

背部叩打法を試みて効果がない場合、腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行います。窒息した方の背後から両腕を回し、片方の手で握りこぶしを作り、もう片方の手で包みます。握りこぶしをみぞおちの下に当て、すばやく上方に向かって圧迫します。異物が除去できるか、意識がなくなるまで続けます。ただし、腹部突き上げ方は、妊婦さんや乳児には使用できません

意識がなくなった(ぐったりして反応がなくなった)場合は、ただちに心肺蘇生を開始します。窒息は命に関わる緊急事態です。日頃から対処法を確認しておきましょう。

早期受診すべき症状

誤嚥した際に、次のような症状がみられた場合は、早期受診を検討します。

  • 息苦しさが続く
  • 呼吸が浅く早くなった、ゼーゼーなど音がする
  • が出る

窒息ではなくとも、誤嚥によって息苦しさなど呼吸が悪化する場合は、早めに受診しましょう。声がかすれたり、呼吸をするときにゼーゼー、ヒューヒュー、ゴロゴロなど音がする場合も、異物が残っている可能性があります。また、誤嚥後に熱が出たり痰が増えたりした場合は誤嚥性肺炎かもしれません。このようなケースでも、医療機関を受診してください

誤嚥予防のためにできること

誤嚥予防のためにできること

誤嚥は、日常生活のなかでの工夫や訓練によって予防が期待できます。ここでは、日常で取り入れやすい誤嚥予防のためにできる具体的なポイントを紹介します。

誤嚥しやすい調理法や食材を避ける

誤嚥を防ぐには、誤嚥しやすい調理法や食材を避けるようにします。避けた方がよい食材の特徴を以下に示します。

  • パサパサしてまとまりにくいもの(パンなど)
  • 粘りが強いもの(餅、団子など)
  • 水分が少なくて飲み込みにくいもの(焼き芋、ふかし芋など)
  • 噛み切りにくい食材(こんにゃく、いか、たこ、繊維の多い野菜など)

このほかにも、お口の中でバラバラになりやすいもの(ひき肉など)も注意が必要です。また、嚥下機能が低下していると、サラサラした液体は、誤嚥のリスクが高くなります。

誤嚥しやすい調理法や食材を避け、飲み込みやすい形態にしましょう。具体的には、十分に煮る、蒸すなどして、食材をやわらかくし、硬い食材は細かく刻んでとろみをつけるなどすると飲み込みやすくなります。それぞれの方で適切な形態は異なります。

口腔環境を清潔に保つ

お口の中や喉の粘膜の状態をよくすることは、嚥下反射を改善させることにつながります。また、口腔内を清潔に保つことで細菌を減らすことができ、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。毎食後の歯磨きや義歯の清掃などを心がけましょう。また、食事の前にうがいをすることもよいとされています。

参照:『嚥下障害 嚥下障害の症状と原因、そして対応と治療について』(一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)

嚥下訓練を行う

誤嚥の予防のためには、嚥下訓練が効果的です。嚥下機能が低下する原因はさまざまであるため、飲み込みに不安がある場合は、医療機関に相談しましょう。それぞれの患者さんの状態に応じて、適切な訓練が選択されます。食べ物を使わない間接訓練では、発声・呼吸の訓練や、口腔・咽頭の運動の訓練、嚥下体操などが行われます。食べ物を使う直接訓練では、言語聴覚士など専門職の立ち合いのもと、適切な姿勢、食事形態、一口量などを調整しながら、安全に食べる訓練を行います。

また、自宅で行える嚥下訓練もあります。嚥下体操、嚥下おでこ体操、ペットボトルブローイング、発声訓練などです。嚥下体操は、次の動きを1セットとして行います。

  • 口すぼめ深呼吸
  • 首の旋回運動(首を回す)
  • 肩の上下運動
  • 両手を頭の上で組んで背伸びをする
  • 頬を膨らませたり引っ込めたりする
  • 舌を前後に出し入れする、左右の口角を触る
  • 強く息を吸い込む
  • パ・タ・カ・ラの発音練習

これは首の緊張をとり、嚥下をスムーズにするための運動です。食べる前の準備体操として食前に行いましょう。嚥下おでこ体操(頭部挙上訓練)は、嚥下の筋力を強化する体操です。頬に手を当て、おへそをのぞきこむように下を向きます。ペットボトルブローイングは嚥下や呼吸を改善する訓練です。水を入れたペットボトルにストローを入れ、ストローを吹きます。発声訓練は声門防御機構の強化(声門が素早く、強く閉じる力を鍛える)につながります。カラオケや朗読などでなるべく大きな声を出すようにするとよいでしょう。

まとめ

まとめ

誤嚥は、加齢や病気により誰にでも起こりえます。誤嚥を防ぐためには、お口の中を清潔に保ち、嚥下機能を維持することが重要です。嚥下体操や発声訓練などを日常的に行い、食材の選び方や調理法を工夫することも効果的です。一方で、むせや咳が続く、食後に微熱が出る、食べるのに時間がかかるなどの変化が見られる場合は、早めに医療期間に相談してください。むせずに食事を楽しめるよう、誤嚥の予防と早めの対応を心がけましょう。

この記事の監修医師