【チェックシート付き】これって介護疲れ?兆候とリスク、負担を軽減する支援制度を解説

介護を続けていると、知らないうちに疲れが積み重なり、心や身体の調子を崩してしまうことがあります。これが介護疲れです。介護は家族を思う気持ちや責任感から始まることが多い一方で、長く続くと生活が介護中心になり、睡眠不足や孤立感、将来への不安が重なりやすくなります。一人で抱え込むと、心の余裕がなくなり、介護うつや体調不良につながるおそれがあります。無理をせず、早い段階で疲れに気付き、支援を受けることが大切です。
この記事では、介護疲れの原因やサイン、セルフチェックの方法、そして介護を支える制度の活用法を解説します。介護を続けながらも、自分の心と身体を守るためのヒントを一緒に見直していきましょう。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
介護疲れとは

介護疲れとは、介護を続けるうちに心や身体の限界が近づき、生活全体に影響を及ぼしている状態を指します。介護は家族への思いや責任感から始まりますが、長期間続くと、知らないうちに疲労やストレスが積み重なっていきます。ここでは、介護疲れが生じる背景と、そのサインを段階的に解説します。
介護疲れの原因
介護疲れの背景には、身体的・精神的・社会的な負担が重なることがあります。夜間の介助や排泄介助による睡眠不足、食事や入浴介助による体力消耗は、身体的な疲れを生みます。認知症の症状による対応の難しさや、介護方針をめぐる家族間の摩擦、経済的な不安も大きな要因です。
さらに、「自分が頑張らなければ」という責任感や、相談相手の不在、周囲の理解不足が重なると、介護者が孤立しやすくなります。介護サービスを十分に利用できない環境では、負担が一人に集中し、慢性的な疲労やストレスへとつながります。
介護疲れの前兆・兆候
介護疲れの初期には、気持ちの落ち込みや集中力の低下、食欲不振、睡眠の質の悪化などがみられます。「以前より笑えない」「被介護者の言葉に過敏に反応してしまう」といった変化が現れたら、心の余裕が減っているサインです。また、趣味や外出への関心が薄れ、社会的なつながりが減ることもあります。これらの変化は一見すると小さなことに思えるかもしれませんが、心身の疲労が積み重なっている証拠です。
介護疲れの症状
疲労が進行すると、頭痛や肩こり、胃の不快感など身体の不調が目立つようになります。精神面では、イライラや焦り、罪悪感、無気力感が強まり、介護への意欲を失うこともあります。なかには涙が止まらなくなる、眠れない、物事を悲観的に考えるなど、うつ状態に近い症状を示す方もいます。こうした状態が続くと、生活のリズムが乱れ、日常の小さな判断にも影響が出てきます。
介護疲れを見過ごすリスク
介護疲れを放置すると、介護者自身が心身の不調で倒れてしまったり、介護の質が下がって被介護者の安全が損なわれたりするおそれがあります。感情を抑えきれず、思わぬ言動につながるケースも少なくありません。特に、慢性的な睡眠不足やストレスが続くと、冷静な判断が難しくなります。
介護疲れのセルフチェックシート

介護を続けていると、気付かないうちに心や身体の疲れがたまっていきます。介護疲れは努力不足ではなく、長く介護を続けている方なら誰にでも起こりうるものです。
以下の項目は、全国老人保健施設協会の介護ストレスチェックシートを参考にしています。紙に印をつけながら確認すると、自分の今の状態を客観的に振り返ることができます。
| No | 質問項目 | はい | いいえ |
|---|---|---|---|
| 1 | 介護のために、身体の調子が悪くなることがありますか。 | □ | □ |
| 2 | 介護やお世話は、つらいと感じますか。 | □ | □ |
| 3 | 介護のため、自由に外出できないことがありますか。 | □ | □ |
| 4 | 介護やお世話のため、睡眠不足になっていますか。 | □ | □ |
| 5 | 介護のため、家事や仕事に影響が出ていますか。 | □ | □ |
| 6 | 介護のための出費が、経済的な負担となっていますか。 | □ | □ |
| 7 | もう少し自分の時間がほしいと思いますか。 | □ | □ |
| 8 | 介護に対して、家族が理解をしてくれればいいと思いますか。 | □ | □ |
| 9 | 介護をはじめてから、家族関係が気まずくなったと思いますか。 | □ | □ |
| 10 | 介護やお世話のことで、相談できる専門家がいないと感じますか。 | □ | □ |
| 11 | 介護を代わってくれる人がいないと感じますか。 | □ | □ |
| 12 | 介護に関することで、グチを話せる人がいないと感じますか。 | □ | □ |
| 13 | 介護に対して、ご本人から感謝されていないと感じますか。 | □ | □ |
| 14 | これからも今までのような介護を続けていく自信がないと感じますか。 | □ | □ |
No1か2に「はい」とした方、3つ以上に「はい」があてはまる場合は、要注意判定です。
このようなときは、疲れや悩みを一人で抱え込まず、誰かと一緒に解決策を考えることが大切です。話すことで気持ちが整理され、支援の選択肢が広がることもあります。1つでも該当があれば、初期の疲労サインとして意識しましょう。
参照:『ストレス減らしてらくらく介護』(全国老人保健施設協会)
セルフチェックで【要注意判定】になった方へのアドバイス

No1か2に「はい」とした方、3つ以上の項目に「はい」があった場合は、心身の疲労が進んでいるサインです。介護の負担が重なり、「もう少し頑張れば」と自分を追い込みやすくなっている可能性があります。まずは、介護を一時的に休むことを前向きな選択と考えてください。
デイサービスやショートステイを利用し、数日でも介護から離れる時間をつくると、身体と心が落ち着きを取り戻しやすくなります。また、ケアマネジャーに相談して、訪問介護や福祉用具の導入など、負担を減らす方法を一緒に検討しましょう。
疲れを感じたときに相談することは、弱さではなく、介護を続けるために大切なことです。介護の方法を共有し、家族や地域の支援を受けながら進めることで、介護の質も保ちやすくなります。
セルフチェックで1項目でも当てはまった方へのアドバイス

1つでも「はい」があった場合は、心や身体が少し疲れているサインです。今のうちに立ち止まり、介護以外の時間を少しでも確保してみましょう。
短い時間でも、散歩をしたり、好きな音楽を聴いたり、温かい飲み物をゆっくり味わったりすることで、気分が落ち着きます。また、家族や友人に「少し疲れている」と伝えることも大切です。話すことで気持ちが整理され、支援のきっかけが生まれます。
介護は長く続くからこそ、早い段階で自分のケアを意識することが重要です。疲れを感じたら、地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談してみましょう。
介護者のセルフケアと負担分担のコツ

介護を続けるうえで何より大切なのは、介護を担う方自身の健康を守ることです。介護者が疲れきってしまうと、体調不良や気分の落ち込み、集中力の低下が起こりやすくなり、結果として介護そのものがうまく進まなくなることがあります。介護を頑張り続けることよりも、無理をしない工夫を続けることが、長く続けるための基本です。
睡眠・食事・休息の最低ラインを守る
介護が長時間に及ぶと、睡眠不足や不規則な食事が当たり前になってしまうことがあります。1日のうち、まとまった睡眠時間を取ることが難しくても、短い仮眠を挟むだけで身体の回復が促されます。食事も、品数よりも温かく・たんぱく質を含むものを食べることを意識しましょう。疲れているときは、調理済み食品や宅配弁当を利用するのも立派な工夫です。
家族・親族・地域での役割分担
介護を一人で抱え込むことは、疲労を招く要因のひとつです。「自分でやらなければ」と思い込まず、家族や親族、近所の方にできることをお願いしてみましょう。週に1回の買い物やゴミ出しなど、ほんの小さな協力でも負担は軽くなります。また、自治体や民間の家事支援サービスや有償ボランティアを活用することで、実質的な支えをえることも可能です。
外部サービスの使い分け
介護保険のサービスは、介護者の休息を目的とした仕組みも多くあります。デイサービスやショートステイを利用して一時的に介護を代わってもらうレスパイトケアは、介護者の心身のリフレッシュに効果的です。訪問介護では入浴・排泄・掃除などを一部任せることができ、訪問看護では医療的ケアが必要な場面も支援を受けられます。必要に応じて介護保険外の民間サービスと組み合わせると、より柔軟な対応が可能です。
限界サインと緊急時の連絡先
介護者が「最近よく眠れない」「涙が出やすい」「何もやる気が起きない」と感じたら、それは限界のサインです。こうした状態を放置すると、心身のバランスが崩れ、うつ状態に移行することもあります。少しでも異変を感じたら、かかりつけ医や地域包括支援センターやケアマネジャーに連絡してください。緊急時は救急外来や119番をためらわずに利用しましょう。
介護を長く続けるには、自分が元気であることも介護の一部だと考えることが大切です。セルフケアを意識し、周囲と支え合う体制を整えることが、結果的に家族全体の安定につながります。介護をひとりの仕事にしないことが、疲れを防ぐために必要です。
介護の負担を軽減できる支援制度と相談窓口

介護を続けるなかで、疲労や不安を感じながらも「まだ自分で何とかしよう」と頑張り続ける方は少なくありません。しかし、介護を長く続けるためには、周囲の支援を受けることが欠かせません。介護者が元気でいることが、結果的に介護を受ける方の安心感にもつながります。
国や自治体では、こうした介護者の負担をやわらげるために、さまざまな制度や相談窓口を設けています。これらを利用することで、介護を一時的に代わってもらう仕組みや、生活の調整を助ける仕組みを整えることができます。支援を上手に活用することは、介護を続けるうえでの選択肢を広げ、心身の余裕を取り戻す手助けにもなります。
介護保険サービス
要介護認定を受けると、訪問介護や訪問看護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具の貸与・購入、住宅改修など、多様な支援が利用できます。介護保険の目的は、介護者の負担を減らし、要介護者の自立を支えることです。申請は市区町村の窓口や地域包括支援センターで行います。費用は所得に応じた自己負担割合で、必要に応じて高額介護サービス費の助成も受けられます。
地域包括支援センター・自治体の相談窓口
地域包括支援センターは、介護や健康、福祉などの幅広い相談を受け付ける総合窓口です。介護保険の申請代行、サービス調整、家族への助言なども行っており、介護に関する悩みをワンストップで相談できます。「どの制度を使えばいいかわからない」ときや、「今の介護の方法に不安がある」ときには、まずここに相談してみましょう。自治体によっては、24時間対応の電話相談窓口を設けているところもあります。
社会福祉協議会
各市町村の社会福祉協議会(社協)では、生活支援や心のケアを目的とした地域福祉活動が行われています。介護用品の貸し出し、送迎ボランティア、配食サービス、見守り活動など、地域のネットワークを活かした支援が特徴です。介護による経済的負担が重い場合には、生活福祉資金貸付制度などの利用も検討できます。
まとめ

介護は、家族を思う気持ちが強いほど自分を後回しにしてしまいがちですが、介護を続けるうえで最も大切なのは介護を担う方の健康と心の安定です。疲れを感じながらも「まだ大丈夫」と無理を重ねると、気付かないうちに心身の限界を超えてしまうことがあります。介護の質を保つためには、まず自分の状態を知り、十分な休息を取ることが欠かせません。
セルフチェックで複数の項目が当てはまった方は、一人で抱え込まずに相談してみましょう。ケアマネジャーや地域包括支援センターでは、介護方法やサービス利用の見直しを一緒に考えてくれます。デイサービスやショートステイを使って介護を一時的に代わってもらうことも有効です。支援を受けることは、介護を続けるための前向きな選択です。無理をせず、助け合いながら穏やかな介護生活を築いていきましょう。
参考文献




