訪問看護における終末期の緩和ケアとは?特徴やケア内容、費用目安などを解説
公開日:2025/10/26


監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
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目次 -INDEX-
訪問看護で行う“終末期の緩和ケア”とは
終末期を自宅で過ごすためには、医療と介護の両面から支える体制が欠かせません。訪問看護は、その中心となって本人と家族を支えます。ここでは、訪問看護が担う終末期の緩和ケアの目的や、自宅での特徴、病院との違い、利用する際の利点と課題を解説します。
終末期における訪問看護の目的
終末期の訪問看護は、病気や障害を抱える方が自宅で自分らしい生活を続けながら、穏やかに最期を迎えられるよう支援することを目的としています。延命治療ではなく、痛みや不安をやわらげ、尊厳を保ちながら生活できるよう看護師や保健師が自宅を訪問し、医師の指示書に基づいて医療処置や療養上の世話を行います。身体のつらさだけでなく、心理的・社会的な面も含めて支えることが重視されています。自宅で過ごす終末期の緩和ケアの特徴
自宅での緩和ケアは、病院とは異なり、本人の生活リズムを保ちながら過ごせる点が特徴です。訪問看護師は、血圧や脈拍、体温の測定、症状観察、薬の管理、清拭、排泄や入浴の介助などを行います。床ずれの予防や、在宅酸素、カテーテル、胃ろう、人工呼吸器などの医療機器の管理も行います。必要に応じて理学療法士や作業療法士が関わり、関節拘縮や嚥下障害の予防などを支援します。こうしたケアによって、身体の苦痛を抑えながらも普段どおりの生活を維持することが可能です。病院での看取りとの違い
病院での看取りは、医療設備や人員が整っており、急変時の対応が速やかに行える利点があります。しかし、病室という限られた空間や面会制限のなかで過ごすことが多く、家庭的なぬくもりを感じにくい場合もあります。一方、自宅での看取りは、本人が望む環境で家族とともに過ごせる自由があります。訪問看護では、24時間連絡・緊急訪問体制を整え、医師や薬剤師と連携しながら症状変化に対応します。こうした体制により、家庭でも医療的な支援を受けながら穏やかに過ごすことができます。終末期に訪問看護を利用するメリットとデメリット
訪問看護を利用するメリットは、住み慣れた環境で本人の意思を尊重したケアを受けられることです。痛みの緩和、服薬管理、緊急時対応、家族への助言など、医療と生活支援が一体的に行われます。また、介護保険や医療保険を利用することで経済的負担を抑えながら継続できます。一方で、医療機器や人員面での制限、介護負担の増大などの課題もあります。訪問看護師やケアマネジャーと協力し、家族が無理なく介護を続けられる体制を整えることが、在宅での終末期ケアを支える鍵です。訪問看護で受けられる緩和ケアの内容
訪問看護は、病気や障害があっても住み慣れた自宅で生活を続けられるよう支援するサービスです。主治医の指示に基づき、看護師などが自宅を訪問し、療養上の世話や診療の補助を行います。終末期の緩和ケアでは、心身の苦痛をやわらげ、安心して自宅で過ごせるようにすることを目的としています。
痛みや苦痛を和らげる身体的ケア
訪問看護では、血圧・脈拍・体温などを確認しながら、痛みの部位や強さ、時間帯の変化を細かく観察します。主治医の指示に基づいて鎮痛薬を管理し、効果や副作用を確認しながら苦痛のない状態を保てるよう支援します。 痛みが強い場合は、体位を整えて圧迫や緊張を減らし、身体のこわばりをやわらげます。床ずれがある場合には、皮膚の状態を確認して必要な処置を行い、痛みの悪化を防ぎます。また、表情やしぐさなどからも痛みのサインを見逃さないよう注意し、早めに対応することで苦痛を最小限に抑えます。呼吸困難や倦怠感、吐き気などへの対応
訪問看護では、在宅酸素療法やカテーテル・ドレーンの管理など、医療機器の適切な取り扱いを行い、呼吸状態の安定を保ちます。これにより、息苦しさや倦怠感といった身体の苦痛をやわらげ、自宅でも落ち着いた状態で過ごせるよう支援します。症状の程度や病状の進行に合わせて、体位の工夫や加湿管理などの助言も行い、少しでも呼吸が楽になる環境を整えます。 また、リハビリテーションを取り入れ、軽い身体の動きや関節のストレッチを行うことで、筋力の低下を防ぎ、日常生活動作の維持につなげます。体調や呼吸の変化をこまめに観察し、必要に応じて医師へ報告して治療方針を調整します。心のケア
訪問看護では、身体の痛みだけでなく、終末期に生じやすい不安や寂しさ、死へのおそれといった心の苦痛にも寄り添います。看護師は、本人や家族の思いを受け止めながら、安心して気持ちを話せる時間と空間をつくります。病状の変化や先の見通しに不安を抱える方には、穏やかに過ごせるよう日常の工夫を一緒に考えます。 主治医やケアマネジャーなどと情報を共有し、心理的な支援が継続できるよう環境を整えます。必要に応じて、家族を交えた話し合いを行い、本人の希望を尊重しながら在宅療養を支える体制を築きます。家族への心理的サポート
終末期の在宅療養では、介護を担う家族の身体的・心理的負担が大きいです。訪問看護では、介護方法や薬の使い方、体位の整え方を具体的に助言し、家族が安心して介護できるよう支えます。介護を続けるうえでの疲労や不安を軽くするために、看護師が定期的に話を聞き、必要に応じて医師やケアマネジャーへ共有します。また、家族が一人で抱え込まないよう、訪問介護・訪問薬剤・地域包括支援センターなどと連携し、支援の手が途切れないよう調整します。訪問看護とほかのサービスとの連携
終末期の在宅療養では、訪問看護が医療と介護の橋渡し役として中心的な役割を担います。主治医の指示のもとで看護師が体調の観察や症状の緩和、服薬の確認を行い、変化があれば速やかに医師へ報告します。こうした連携により、薬の調整や点滴、在宅酸素の管理なども自宅で円滑に実施できる体制が整います。
訪問看護は医療処置だけでなく、関係職種の調整役も果たします。訪問介護スタッフとは、清潔保持や体位調整など生活支援の内容を共有し、快適に過ごせる環境を整えます。ケアマネジャーとは、病状や生活状況に応じたケアプランを定期的に見直し、支援が重複せず無理なく継続できるよう調整します。薬剤師とは、薬の効果や副作用を確認しながら、安全な服薬管理を進めます。
また、地域包括支援センターや福祉サービスとも連携し、公的制度の利用や経済面の支援を家族に案内します。こうした多職種の協働を通じて、日常生活と医療ケアを途切れなく結びつけることが可能です。訪問看護は、医師・介護職・薬剤師などをつなぐ中心として、本人と家族が安心して在宅で過ごせる環境を築く重要な存在です。
訪問看護による終末期の緩和ケアを円滑に進めるための準備
自宅で終末期を迎えるには、本人・家族・医療職が同じ方向を向いて取り組むことが欠かせません。まずは、主治医・看護師・ケアマネジャーと話し合い、本人がどのように過ごしたいか、どのような医療を希望するかなど、生活と治療の両面で方針を共有します。延命治療や痛みの緩和方法についても、本人の意思を尊重しながら早い段階で整理しておくことが大切です。
こうした話し合いのうえで、必要な医療機器(在宅酸素・吸引器・点滴など)や介護用品(電動ベッド・エアマット・ポータブルトイレなど)を準備します。これらはケアマネジャーを通じて介護保険でレンタルできる場合が多く、設置や操作方法については看護師が実際の環境を確認しながら説明します。転倒や圧迫などのリスクを避けるため、ベッド周囲の動線や室温管理など、生活空間の整備も重要です。
また、夜間や休日に容体が変化することもあるため、訪問看護ステーションの24時間連絡体制を確認しておきます。緊急時にどの番号へ連絡すればよいか、対応に要する時間、訪問が必要な場合の流れなどを事前に把握しておきましょう。訪問看護では、急変時の初期対応の方法や救急搬送を希望しない場合の過ごし方なども含めて、家族と一緒に準備を進めます。
さらに、家族が自信をもって介護できるように、看護師が体位変換や口腔ケア、服薬介助の方法をわかりやすく説明します。食事や排泄の介助が難しい場合も、無理のない方法を一緒に考え、介護の負担をできる限り減らします。家族が孤立しないよう、地域包括支援センターや訪問介護などの支援サービスを早めに利用し、気持ちの面でも支えを得られるよう調整します。
このように訪問看護を中心に準備を整えることで、急な変化にも落ち着いて対応でき、本人の望む形で最期まで自宅で過ごすことができます。
訪問看護による終末期の緩和ケアの費用目安
訪問看護の費用は、介護保険または医療保険のどちらを利用するかによって異なります。介護保険を利用する場合、要介護度と訪問時間に応じて料金が決まり、1割負担の方では1回あたりおおむね330円(20分未満)から1,170円(90分未満)が目安です。夜間・早朝は25%、深夜は50%の加算が適用されます。病状が安定せず医療的管理が必要な場合には、特別管理加算(約520円)や緊急時訪問看護加算(約560円)が追加されることもあります。
医療保険を利用する場合は、1回あたり555〜850円前後(1割負担の場合)が基本料金です。週4日以上の訪問や夜間・深夜の対応では、210〜420円程度の加算が加わります。また、24時間対応体制加算(約540円)や特別管理加算(250〜500円程度)が設定されており、必要に応じて適用されます。
生活保護や特定疾患治療研究事業、公費負担医療の対象となる方は、自己負担が軽減または免除される場合があります。さらに、高額療養費制度を利用すれば、1ヶ月あたりの上限を超えた費用は払い戻されます。訪問回数や時間帯、加算の有無によって実際の負担額は変わるため、あらかじめ訪問看護ステーションに相談し、月ごとの見積もりを確認しておきましょう。
参照:『料金について』(市川市医師会)
まとめ
訪問看護による終末期の緩和ケアは、病気の進行に伴う痛みや息苦しさなどの苦痛をやわらげ、本人と家族が住み慣れた自宅で穏やかに過ごせるよう支える医療です。看護師は主治医の指示のもとで症状を観察し、痛みや呼吸の変化に応じて薬の管理や体位の工夫を行います。こうした支援により、入院せずとも自宅で必要な医療を受けながら生活を続けることができます。身体だけでなく心の安定も大切にし、本人の希望を尊重したケアを行うことが訪問看護の中心にあります。
また、訪問看護は本人だけでなく、介護を担う家族にとっても大切な支えとなります。介護の方法や緊急時の対応を助言し、不安を軽くすることで、家族が落ち着いて寄り添える環境を整えます。自宅での看取りを希望する場合は、早い段階で主治医や訪問看護師へ相談し、必要な体制を確認しておくことが安心感につながります。訪問看護は、治療を超えてその方らしい生き方を支える医療として、最期の時間を穏やかに過ごすための大切な役割を担っています。




