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おしりに床ずれができやすい理由や治療法、注意点を解説!

 公開日:2025/10/28
おしりに床ずれができやすい理由や治療法、注意点を解説!
床ずれは、長時間同じ姿勢を続けることで皮膚や皮下組織に血流障害が起こり、傷ができてしまう状態を指します。特におしりは座位や臥位の姿勢で圧力が集中しやすく、さらに尿や便による湿潤が加わることで床ずれが発生しやすい部位の一つです。介護を必要とする方や長期の入院生活を送る方にとって、おしりの床ずれは日常生活の質を低下させ、感染症などの合併症を引き起こす原因です。早期に気付き、適切にケアすることが症状の悪化を防ぐうえで重要です。

この記事では、おしりに床ずれができやすい理由や特徴、診断や治療の流れ、自宅で取り組めるケア方法や注意点を解説します。
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

床ずれとは

床ずれとは 床ずれは医学的に褥瘡(じょくそう)と呼ばれ、同じ姿勢を長時間とることで皮膚やその下の組織に血流が届かなくなり、傷ができる状態を指します。血流が途絶えると細胞が酸素不足となり、やがて壊死を起こすことが原因です。

発生しやすい部位は、背中仙骨部かかとくるぶしなど骨が皮膚の直下にある部分です。高齢の方や栄養状態が低下している方では皮膚が薄く弱いため、リスクがさらに高まります。

初期の床ずれは赤み軽い腫れ熱感として現れます。この段階で体位を変える、皮膚を清潔に保つなどの対応を行えば回復することもあります。しかし、進行すると皮膚がただれたり破れたりして、深部の筋肉や骨にまで影響が及ぶ場合があります。重症化すると細菌感染から敗血症に進む危険性もあります。

床ずれの原因は圧迫だけでなく、摩擦やずれ、湿潤、低栄養など複数の要因が関わります。特に汗や尿、便で皮膚が湿った状態が続くと、皮膚のバリア機能が弱まり傷ができやすいです。

参照: 『褥瘡について』(日本褥瘡学会) 『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)』(日本皮膚科学会)

おしりに床ずれができやすい理由

おしりに床ずれができやすい理由 おしりは床ずれの好発部位の一つであり、姿勢や排泄の影響などが複雑に関わっています。ここでは主な二つの要因を解説します。

長時間の座位や臥位(がい)で圧力が集中しやすい

おしりは体重が集中しやすい部位です。仰向けで横になると仙骨や尾骨周囲に強い圧力がかかり、座位では坐骨結節に負担が加わります。これらの骨は皮膚のすぐ下に位置し、特に高齢の方では脂肪や筋肉のクッションが薄く、組織への圧迫が強まります。

本来であれば健常な方は自然に体位を変え血流を保ちますが、寝たきりや介助を要する方では同じ姿勢が続き、血流が途絶しやすいです。さらに、硬すぎる寝具やクッションでは圧力が分散されにくく、やわらかすぎる場合には沈み込みによるずれが生じ、いずれも床ずれのリスクを高めます。

加えて、ベッドを起こした際に身体が下へ滑ると皮膚と骨の間にずれ応力が発生し、血管が圧迫されます。このような力は単純な圧迫よりも強く組織を損傷させるため、おしりは床ずれが起こりやすい部位です。

尿や便による皮膚トラブルの影響が出やすい

おしりは排泄の影響を強く受ける部位です。尿や便が長く皮膚に触れると角質層がふやけて弱くなり、わずかな摩擦や圧迫でも損傷しやすいです。これを浸軟と呼び、床ずれの進行に直結します。

便には消化酵素や細菌が含まれ、皮膚を刺激して炎症や感染を起こすことがあります。尿もアンモニアなどの成分が皮膚を刺激し、びらんや炎症を引き起こします。下痢や失禁が続く場合、こうした影響はさらに強まり、床ずれが深くなりやすいです。

排泄物が皮膚に残った状態で体圧が加わると、皮膚障害は急速に悪化します。清潔保持とスキンケアを徹底すること、尿取りパッドやおむつをこまめに交換すること、皮膚保護用のクリームやフィルムでバリア機能を補うことが予防に有効です。

おしりに床ずれができやすい人の特徴

おしりに床ずれができやすい人の特徴 おしりに床ずれが発生しやすい方には、いくつかの共通点があります。 まず、寝たきり長時間の座位を余儀なくされている方です。体位を自力で変えることが難しいため、同じ部位に圧力が集中し続けます。脳梗塞後遺症やパーキンソン病などで動きが制限されている場合はリスクが高まります。

次に、皮膚や筋肉の弱さが挙げられます。高齢の方では皮膚が薄く、皮下脂肪や筋肉も減少し、わずかな圧力や摩擦でも傷つきやすい状態です。糖尿病や血流障害を抱えている場合には傷の治癒力が低下し、床ずれが進みやすいです。

さらに、低栄養や脱水も大きな要因です。栄養不足は皮膚の再生力や抵抗力を弱め、水分不足は皮膚を乾燥させ、ひび割れから床ずれに進展する可能性があります。

また、排泄コントロールが難しい方もリスクが高まります。尿や便による湿潤状態が続くと皮膚のバリア機能が損なわれ、床ずれが発生しやすくなるためです。

このように活動性の低下、皮膚や筋肉の脆弱化、栄養・水分不足、排泄の影響といった条件が重なることで、おしりに床ずれができやすい環境が整ってしまいます。これらの特徴を踏まえ、体位変換や栄養管理、排泄ケアを組み合わせた対応が求められます。

おしりにできた床ずれの診断と治療

おしりにできた床ずれの診断と治療 おしりに床ずれができた場合、適切な診断と治療を受けることが回復への第一歩です。床ずれは軽度の皮膚の赤みから、筋肉や骨にまで達する重度の状態まで幅広く存在します。そのため、医師や看護師による評価を受け、重症度に応じた治療方針を立てることが重要です。ここでは診断基準、検査方法、治療法に分けて解説します。

床ずれの診断基準

床ずれの診断は、皮膚や組織の状態を観察し、進行度を客観的に評価することから始まります。赤みの持続や硬さ、熱感などが重要な所見です。 代表的なものがNPUAPのステージ分類で、6つのカテゴリが示されています。

  • 深部損傷褥瘡疑い(Suspected deep tissue injury) 皮膚が損傷していなくても、紫色や暗赤色の変化、または血の混じった水疱がみられる段階。内部で深部組織が障害を受けている可能性がある
  • ステージⅠ 皮膚が赤く、押しても色が戻らない。皮膚はまだ破れていない
  • ステージⅡ 皮膚が一部破れ、水ぶくれや浅い潰瘍がみられる。真皮までの損傷にとどまる
  • ステージⅢ 皮下脂肪にまで損傷がおよび、深い潰瘍を形成する
  • ステージⅣ 筋肉や骨に達する深い潰瘍があり、壊死や感染を伴うこともある
  • 判定不能(Unstageable) 壊死組織や痂皮に覆われており、損傷がⅢかⅣか判別できない状態

この分類は床ずれの状態を明確に把握するための基本的な診断基準であり、治療方針を検討する際に使用します。

さらにDESIGN-R(デザインアール)も診断や評価に用います。これは深さ(Depth)、滲出液(Exudate)、大きさ(Size)、炎症・感染(Inflammation/Infection)、肉芽組織(Granulation tissue)、壊死組織(Necrotic tissue)、ポケット形成(Pocket)の7項目を点数化し、合計点で重症度を判定する方法です。

DESIGN-Rはステージ分類と異なり、床ずれの治癒過程を数値として経時的に追うことができる点が特徴です。診断の場面では、床ずれの現状を客観的に把握するとともに、改善や悪化の変化を継続的に評価する手段として用います。

このように床ずれの診断では、ステージ分類で進行度を示し、DESIGN-Rで重症度や変化を数値化することで、状態を多角的に把握します。

参照: 『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)』(日本皮膚科学会) 『改定DESIGN-R® 2020 コンセンサス・ドキュメント』(日本褥瘡学会)

床ずれの検査方法

床ずれの評価は視診と触診が基本ですが、深部まで炎症や損傷が及んでいる疑いがある場合には追加の検査を行います。MRIや超音波検査では、皮膚表面からはわかりにくい炎症や膿の範囲を確認でき、特に骨に近い部位では骨髄炎の有無を把握するのに役立ちます。

また、感染が疑われる場合には培養検査を行い、原因となる細菌や薬剤への感受性を調べます。さらに採血で炎症反応(CRPや白血球数など)や栄養状態(アルブミン値など)を確認することもあります。

床ずれの治療法

床ずれの治療は、局所の処置と全身管理を組み合わせて行います。基本となるのは圧力の軽減です。定期的に体位変換を行い、エアマットレスや体圧分散クッションを使用して血流を保ちます。

創部のケアでは、洗浄を徹底し、創の状態に合った被覆材を使用して湿潤環境を整えます。滲出液が多い場合や感染が疑われる場合は吸収性や抗菌作用のある材を選び、壊死組織がある場合にはデブリードマン(壊死組織の除去)を実施します。感染が進行しているときには、抗菌薬の全身投与を行います。

全身的な管理では、たんぱく質・亜鉛・ビタミンなどを十分に摂取し、皮膚の修復を助けます。糖尿病や動脈硬化などの基礎疾患がある場合には、その管理も並行して行います。

進行した床ずれでは、必要に応じて局所陰圧閉鎖療法(NPWT)皮膚移植・筋皮弁を用いた外科的治療を検討します。手術は身体への負担が大きいため、全身状態や合併症を考慮して判断します。

参照: 『褥瘡の治療について』(日本褥瘡学会) 『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)』(日本皮膚科学会)

自宅でできる!おしりの床ずれのケア方法と注意点

自宅でできる!おしりの床ずれのケア方法と注意点 おしりにできた床ずれは、早期に適切な対応を続けることで重症化を防ぐことができます。自宅でのケアでは、日々の生活のなかで無理なく継続できる工夫が重要です。ここではケアの方法、実践時の注意点、再発を防ぐためのポイントを解説します。

おしりの床ずれのケア方法

基本は体位変換皮膚の清潔保持です。目安として2時間ごとに姿勢を変え、同じ部位に圧力が集中しないようにします。仰向けだけでなく横向きや30度程度の傾きを加えると、より効果的に圧力を分散できます。ベッドを使う場合はエアマットレス、車椅子では体圧分散クッションを導入して血流を守ります。

皮膚の洗浄は石けんやぬるま湯を用い、こすらず泡で包み込むように行います。洗った後はタオルで軽く押さえるように水分を拭き取り、よく乾かしたうえで保湿剤を塗ります。皮膚の乾燥を防ぐことでバリア機能を保ち、摩擦や圧力への抵抗力を高めることができます。

参照:『褥瘡の予防について』(日本褥瘡学会)

床ずれ防止のケアを行う際の注意点

ケアのたびに皮膚を観察することが欠かせません。赤みや腫れ、熱感がある場合は初期の床ずれを疑い、体位変換の頻度を増やしたり、シーツやクッションを見直したりします。

排泄後は速やかに洗浄して乾燥させ、皮膚保護クリームやフィルム剤でバリアを補います。おむつやパッドはこまめに交換し、湿った状態を長時間避けることが必要です。身体を動かす際は摩擦を減らす工夫も重要で、シーツの上で引きずらずシーツごと持ち上げる方法が望ましいです。

ベッドや椅子の環境も整えましょう。シーツはしわをなくし、衣服は通気性がよくやわらかい素材を選ぶと皮膚への刺激を減らせます。

再発させないポイント

床ずれは一度治っても再発しやすいため、継続的な予防が欠かせません。まず意識したいのが栄養と水分補給です。たんぱく質や亜鉛、ビタミンなどは皮膚の修復や免疫機能に関わり、十分な摂取が治癒と再発防止に直結します。また水分不足は皮膚を乾燥させて傷ができやすくなるため、こまめな水分補給も重要です。

次に、筋力維持と活動性の確保です。高齢の方では活動性の低下が床ずれの大きな要因となるため、軽い運動やリハビリを取り入れることで筋力を保ち、体位変換を自分でしやすくなります。

さらに、介護者のサポート体制も考えておく必要があります。体位変換や排泄ケアを家族だけで続けるのは負担が大きいため、訪問看護や訪問介護などの支援を積極的に取り入れると無理なく継続できます。加えて、医師や看護師による定期的な評価を受け、皮膚の状態やケア方法を見直すことも再発防止に役立ちます。

最後に、生活環境の整備も欠かせません。ベッドのシーツはしわをなくし、衣服は通気性がよくやわらかい素材を選ぶことで皮膚への刺激を減らすことができます。排泄環境を清潔に保つこともポイントです。

参照: 『褥瘡の予防について』(日本褥瘡学会) 『創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)』(日本皮膚科学会)

まとめ

まとめ おしりの床ずれは、長時間の圧迫や排泄による湿潤などが重なって発生しやすい部位です。放置すると重症化し、感染や合併症につながる危険があるため、早期に気付き適切に対応することが求められます。診断では皮膚の状態や進行度を評価し、治療は圧力の軽減、創部の清潔保持、感染対策、栄養補給を組み合わせて進めることが基本です。

自宅でのケアでは、体位変換や清潔保持、排泄後の皮膚ケア、体圧分散の工夫を取り入れることで重症化や再発を防ぐことができます。また、家族だけで抱え込まず、医師や看護師、介護スタッフの協力を得ながら継続的に取り組むことが重要です。

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