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寝たきりの在宅介護はどう進める?家族の負担を減らす制度やサービスを解説

 公開日:2025/10/20
寝たきりの在宅介護はどう進める?家族の負担を減らす制度やサービスを解説
病気やけがをきっかけに寝たきりの状態になると、「このまま自宅で介護を続けていけるのだろうか」「何から始めればいいのかわからない」と不安を感じる方は少なくありません。在宅介護は心身の負担が大きくなりやすく、家族だけで支え続けることには限界があるのが現実です。

ただし、介護保険制度の整備が進んだ現在では、在宅介護を支えるための公的なサービスや支援策が数多く用意されています。

本記事では、寝たきりとはどのような状態なのかを確認しながら、在宅での介護に必要なケアの方法、家族の負担を軽減するための制度やサービス、そして困ったときに相談できる窓口を解説します。
小田村 悠希

監修医師
小田村 悠希(医師)

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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。

寝たきりとは?

寝たきりとは? 寝たきりとは、おおむね 6ヶ月以上ベッドでの生活が続き、自力での移動や日常動作が困難になった状態を指します。

一般的には、立つ、歩く、座るなどの基本的な動作が著しく制限され、介助なしでは生活が成り立たない状況を指すことがありますが、医学的に明確な定義はありません。それでも医療や介護の現場では広く用いられ、実務上重要な概念として扱われています。

原因は加齢による筋力低下だけでなく、骨折、脳卒中、認知症など多岐にわたります。例えば脳卒中で半身麻痺が残った場合や、転倒による骨折で長期入院した場合、身体機能が低下し、そのまま寝たきりになることがあります。

参照: 『日本老年医学会雑誌47巻5号(2010:9)』

寝たきりの方を在宅介護する際に必要なケア

寝たきりの方を在宅介護する際に必要なケア 寝たきりの方を自宅で介護する場合、床ずれ(褥瘡)や誤嚥性肺炎などの健康リスクを防ぐため、日常的なケアを適切に行う必要があります。ここでは、寝たきりの方を在宅で介護する際の基本ケアを解説します。

体位変換と床ずれの予防

寝たきり状態では自力で寝返りができず、同じ部位に体重がかかり続けると皮膚や筋肉の血流が悪化し、床ずれ(褥瘡)が生じやすくなります。特に仙骨部(お尻の中央)や踵、肩甲骨など、骨が突出している部分に発生しやすい傾向があります。

褥瘡予防の基本は2時間に1回程度の体位交換です。褥瘡予防マットレスや体圧分散マットを使う場合でも、4時間を超えない範囲で行うことが推奨されます。体位変換は介護者にとって負担の大きい動作ですが、身体の一部だけでなく全身をしっかり体位変換することを意識しましょう。 参照: 『褥瘡の予防について』(一般社団法人 日本褥瘡学会)

排泄介助

寝たきりの方はトイレへの移動が難しいため、ポータブルトイレやオムツなどによる排泄介助が必要になります。排泄ケアは個人の尊厳や羞恥心にも関わるため、介護者にとって精神的負担が大きい領域です。

オムツ交換を怠ると皮膚のかぶれや感染症の原因となるため、排泄後はお尻まわりを清拭し、必要に応じて保湿クリームを使い皮膚トラブルを予防します。排尿や排便のリズムを把握し、可能な限り本人の意志を尊重して対応しましょう。

食事介助

寝たきりの方は、嚥下機能(飲み込みの力)が低下しやすいため、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。誤嚥性肺炎とは、本来食道へ向かうはずの唾液や食べ物が誤って気管に入り、そこに含まれる口腔内の細菌が肺へ到達することで発症する肺炎です。

こうした誤嚥を防ぐためには、食事の際の姿勢や食べやすさへの配慮が欠かせません。介助時は、ベッドの背を約30度起こし、首を少し前に傾ける姿勢で食事を行いましょう。食事形態も見直し、とろみ付き飲料ややわらかい食品など、嚥下しやすい形に調整します。急がせず、ひと口ごとに声をかけながら本人のペースで食べてもらうことで、むせや誤嚥の予防につながります。

参照: 『栄養と嚥下シリーズ』P3

清拭ケア

入浴が難しい場合は、身体を拭いて清潔を保つ清拭が行われます。汗や皮脂がたまりやすい首回り、脇の下、陰部などは皮膚トラブルが起きやすい部位です。

ぬるま湯に浸したタオルで全身をやさしく拭き、必要に応じて保湿剤を使いましょう。週に数回でも清拭を行うことで皮膚を清潔に保つとともに、本人の気分転換やリラックスにもつながります。

寝たきりの方の在宅介護で受けられる支援やサポート

寝たきりの方の在宅介護で受けられる支援やサポート 家族だけで介護が長期化すると負担が蓄積されます。こうした負担を少しでも軽減するためには、公的な制度やサービスの活用が不可欠です。介護保険制度をはじめとする各種支援を組み合わせることで、在宅介護を継続しやすくなり、介護者の孤立を防ぐことにもつながります。

訪問介護や訪問看護

訪問介護は、介護福祉士やホームヘルパーが自宅を訪れて、食事や排泄、清拭などの身体介護を行います。また、掃除や買い物などの生活援助も含まれます。要介護認定を受けていれば、自己負担は原則1割(一定所得以上は2〜3割)でサービスを受けられます。

訪問看護は看護師が医師の指示のもと訪問し、医療的な管理を行うサービスで、褥瘡の処置、点滴、吸引、服薬管理などに対応します。在宅での看取りにも利用でき、終末期ケアを希望する場合にも有効です。訪問看護は介護保険だけでなく医療保険から給付される場合もあるため、主治医と連携して適切な制度を選びましょう。

医師による訪問診療

寝たきりなどで通院が困難な場合は、訪問診療を利用すれば継続的な健康管理が可能になります。

訪問診療は、かかりつけ医が1〜2週間に1回程度の頻度で定期的に訪問し、診療や治療、薬の処方、療養上の相談、指導などを行います。医療保険が適用されるため、自己負担は原則1〜3割です。

なお、訪問診療は介護保険とは別の制度で運用されているため、導入にあたっては主治医と事前に相談して導入を検討しましょう。

訪問入浴

訪問入浴は、看護職員と介護職員が利用者の自宅を訪問し、持参した専用浴槽で入浴介護を行うサービスです。訪問入浴を利用すればベッドからの移動が難しい方でも、寝たままの姿勢で入浴できます。看護師が同行して健康状態の確認も行われるため、医療的な危険性がある方でも利用できるのが特徴です。

入浴は皮膚の清潔保持に加え、気分転換やリラックス効果もあるため、入浴介護が難しい場合はサービスの導入を検討しましょう。

補助金や手当

在宅介護では、国や自治体の制度を活用することで経済的な負担を軽減できます。特に介護保険制度には、福祉用具のレンタルや購入に対する補助があり、必要な機器を低価格で利用することが可能です。

レンタルの対象には、車いすや特殊寝台、床ずれ防止用具、体位変換器、自動排泄処理装置などがあり、数百円〜数千円程度で利用できます。

購入が認められている福祉用具には、腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部、排泄予測支援機器、入浴補助用具などがあり、介護保険の適用により原則自己負担は1割(所得に応じて2〜3割)となります。

また、住宅の段差解消や手すりの設置、引き戸への変更などの改修には住宅改修費として最大20万円まで(自己負担1〜3割)の支給が受けられます。これにより、家のなかでの移動や介助がしやすくなります。

これらの制度を利用するには、介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)によるケアプランの作成が必要です。福祉用具の選定や申請手続きも、担当のケアマネジャーがサポートしてくれます。まずは地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に相談することが推奨されます。

また、在宅介護を行う家族や、重度の障害を持つ要介護者に対しては、各種手当の支給もあります。例えば、特別障害者手当は重度の障害がある方に対して支給されるもので、日常生活で常時介護が必要であれば該当する場合があります。さらに、介護のために仕事を休まざるをえない場合には、介護休業給付金が雇用保険から支給される制度もあります。

自治体によっては独自の介護手当を設けている場合もあります。お住まいの自治体の介護担当窓口や福祉担当窓口で、該当する制度があるかどうかを確認しておきましょう 参照: 『介護保険における住宅改修』

寝たきりの方の在宅介護で家族の負担を軽減する方法

寝たきりの方の在宅介護で家族の負担を軽減する方法 介護者がひとりですべてのケアを担っている場合、慢性的な疲労やストレスが蓄積し、介護うつや共倒れのリスクが高まることがあります。 そのため、介護者自身が無理をしすぎないことが在宅介護を続けるうえで重要です。

ショートステイを活用する

介護保険サービスのショートステイは、特別養護老人ホームなどの施設に1日単位から、連続して最長30日まで施設に入所できるサービスです。主に、介護者の休養や外出など、心身のリフレッシュを図るために活用されています。

ショートステイでは、入所中に食事や入浴、排泄などの介護を受けられるほか、看護師や介護職員も常駐しているため、医療的な対応が必要な場合も問題ありません。

参照: 『介護事業所・生活関連情報検索「短期入所生活介護(ショートステイ)」』(厚生労働省)

複数の介護者でローテーションをする

介護は一人で抱え込まず、兄弟や配偶者、親戚など複数人で分担しましょう。例えば、食事介助は長女、通院の付き添いは弟、夜間の見守りは交代制などのように役割を分けることで負担を減らせます。

家族の協力が得られない場合は、地域ボランティアや民間介護サービスの活用も有効です。介護は自分しかできないと思い込まず、できる部分を明確にして任せることが、長く介護を続けるうえでは不可欠です。ケアマネジャーに家庭状況を相談することで、家族間の介護分担に関する助言を受けることも大切です。

必要に応じて介護医療院などへの入院を検討する

どうしても在宅での介護が難しくなった場合は、無理をして在宅にこだわりすぎないことも大切です。本人の身体状況が悪化したり、家族の体力や精神力が限界に近づいたりしたときには、介護医療院などへの入院も選択肢に入れることが望ましいです。

介護医療院は、医療と介護の両方を受けられる施設で、主に長期療養が必要な方を対象としています。特に寝たきりの方で医療的ケアが主要な場合では、在宅よりも充実したケアを提供できる環境が整っています。

また、基本的には要介護3以上の方が対象ですが、身体機能の低下により常時介護が必要な方に対して、特別養護老人ホーム(特養)への入所も検討できます。特養では、入浴や食事などの日常生活上の支援に加え、療養上の世話も提供されます。

入院や入所を検討する際には、本人の意思を尊重しつつ、介護者側の限界を冷静に判断して検討しましょう。

寝たきりの方の在宅介護で困ったときの相談先

寝たきりの方の在宅介護で困ったときの相談先 在宅介護では、介護技術に限らず、制度の使い方、経済的な支援、医療との連携など、さまざまな悩みや疑問に直面します。こうしたときには、ひとりで抱え込まず、すぐに相談できる窓口や専門家がいることを知っておくと対応の幅が広がります。

主治医

寝たきりの方は、感染症や褥瘡、栄養状態の変化など、身体的な問題が生じやすく、医学的な視点からの対応が不可欠です。そのため、健康面や病状の変化に不安を感じた場合には、まず主治医に相談しましょう。訪問診療を受けている場合は、医師が定期的に状態を確認し、必要な医療処置や在宅看護の指示を出してくれるため、早期対応につながります。

また、主治医に相談することで、介護保険の申請に必要な主治医意見書の作成も依頼でき、要介護認定の申請や更新時に必要な書類の準備がスムーズに進みます。介護のことは医師に相談しにくいと感じる方もいますが、実際には医師が在宅介護全体の重要な調整役を担っており、医療と介護の連携を進めるうえで欠かせない存在です。

地域包括支援センター

在宅介護に関する総合的な相談窓口として、身近で頼れるのが地域包括支援センターです。ここでは、保健師、社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門職がチームを組み、介護や福祉、医療など幅広い内容の相談に対応しています。

例えば、どの制度を利用すればよいかわからない場合や、介護保険の申請手続きに不安がある場合など、制度面での疑問を抱えている方にとっては、最初に相談しやすい窓口です。地域包括支援センターは各市区町村のホームページに設置場所や電話番号が掲載されているため、事前に確認しておきましょう。

ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー

すでに在宅介護を始めている場合は、担当のケアマネジャーが身近な相談相手になります。ケアマネジャーは、要介護者の状態や家庭環境を把握したうえで、適切な介護サービスを選定し、ケアプランを作成する専門家です。日常的な悩み相談はもちろん、ショートステイや訪問サービスの調整、住宅改修や福祉用具の導入なども中心となって支援してくれます。

また、入院中や通院中の方であれば、医療ソーシャルワーカー(MSW)への相談も有効です。医療ソーシャルワーカーは、本人とその家族が抱える心理的、社会的な問題に対して、医療機関と外部支援機関との橋渡しを担っています。退院後の生活設計や施設入所の相談、経済的な支援制度の案内など、医療と介護をつなぐ立場から助言を行ってくれます。

まとめ

まとめ 寝たきりの方を在宅で介護することは、家族にとって大きな決断であり、日々のケアには心身の負担が伴うことも少なくありません。ただし、現在では介護保険サービスや医療との連携体制が整備されてきており、介護を一人で抱え込まずに取り組める仕組みが確立されつつあります。

介護にあたっては、各種の支援やサービスを活用することで、介護者の負担を軽減しながら、本人の生活を安定して支えることが可能です。

また、困ったときには、地域包括支援センターやケアマネジャー、主治医など、相談できる専門職が複数存在しています。在宅介護は孤立しやすい側面もあるため、早めの相談と支援の導入が、介護の継続や心身の負担軽減につながります。

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