在宅介護とは?受けられるサービスの種類や特徴、困ったときの対処法を解説
公開日:2025/10/20


監修医師:
小田村 悠希(医師)
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
在宅介護とは?自宅で行う介護の基本
在宅介護とは、要介護の高齢の方などが自宅で生活しながら介護や支援を受けることを指します。具体的には、介護を必要とする方の自宅に家族や介護職員や看護師などが訪問し、日常生活の世話や身体介護、医療的ケアなどを提供します。
日本では1980年代後半から『できる限り住み慣れた地域で暮らす』という方針が掲げられ、2000年には介護保険制度が開始されました。それ以来、在宅介護は外部の介護サービスと家族のケアを組み合わせて生活を支える重要な仕組みとして定着しています。介護保険によって公的サービスを利用する場合、自己負担は1~3割で済むため、自宅介護でも適切な支援を受けやすくなっています。
在宅介護で受けられるサービスの種類と特徴
在宅介護では、介護保険で利用できるさまざまな居宅サービスを組み合わせて、自宅にいながら必要な介護を受けられます。サービスは提供形態ごとに大きく4つの種類に分けられます。
訪問系サービス
訪問系サービスは、ホームヘルパーや看護師などの専門職が定期的または必要時に自宅を訪問してくれるサービスです。代表的なものに訪問介護(ホームヘルプサービス)があります。ホームヘルパーが自宅を訪問し、食事介助・入浴介助・排泄介助などの身体介護や、掃除、洗濯、調理といった生活援助を行います。 利用者の体調や希望に応じて、入浴専用の特殊浴槽を持ち込んでの入浴支援や、理学療法士などが家庭で機能訓練を行う指導(訪問リハビリテーション)も利用できます。 さらに、訪問看護では看護師が医師の指示のもと自宅を訪問し、健康状態の観察や医療処置、療養上のアドバイスを提供します。これにより、退院後の医療的ケアや病状管理が必要な方も在宅で安心して暮らし続けることができます。このように、訪問系サービスは利用者の状態に合わせて頻度や内容を調整できる柔軟さが特徴です。通所系サービス
通所系サービスは、利用者が日中に施設へ通って介護やリハビリ、レクリエーションなどのサービスを受けるものです。代表例が通所介護(デイサービス)で、日帰りでデイサービスセンターなどに通い、食事や入浴、機能訓練、レクリエーションなどの支援を受けます。専門スタッフが日中の活動やほかの利用者との交流をサポートするため、ご本人の心身機能の維持だけでなく、介護者(家族)の負担軽減にも役立ちます。短期入所系サービス
短期入所系サービスは、いわゆるショートステイと呼ばれるものです。特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)などの入所施設に、短期間だけ宿泊して介護や看護が受けられます。家族の外出(旅行や冠婚葬祭)や体調不良、介護疲れの解消などで一時的に在宅での介護が難しい場合に活用されます。 ショートステイ中は、入浴や食事、機能訓練など日常生活上の介護を受けられるため、ご本人にとっては気分転換になり、ご家族にとっては安心して介護から離れられる時間の確保につながります。福祉用品や住宅改修への補助
在宅での生活を支えるための福祉用具貸与や購入助成、住宅改修の制度も整っています。介護保険では、車いすや介護ベッド、歩行器、手すり付きポータブルトイレなど特定の福祉用具のレンタル費用が給付対象となり、利用者は1~3割の自己負担で必要な用具を借りることができます。 また、入浴用いすや排泄関係用品など一部の福祉用具(特定福祉用具)については購入費の補助(支給限度額は年間10万円であり、かかった費用の9割を補助。ただし一定以上の所得がある場合、8割または7割の補助)が受けられます。さらに、要支援または要介護の認定者は自宅の段差解消や手すり設置などの住宅改修費も支給対象です。介護保険では原則生涯で20万円までの住宅改修費が支給され(自己負担1~3割)、和式トイレを洋式に替える、浴室に手すりを付ける、床の滑り止め加工をするといったリフォーム費のサポートを受けることができます。 これらの制度を活用することで、在宅介護を受ける方の生活環境を安全、そして快適に整え、介護する側の負担軽減にもつなげられます。 参照:どんなサービスがあるの? - 特定福祉用具販売 『福祉用具を購入したいとき』(横須賀市) 『介護保険における住宅改修』(厚生労働省)在宅介護で行政のサービスを受けるために必要な手続き
在宅介護で公的な介護サービスを利用するには、要介護認定を受ける手続きが必要です。まず、お住まいの市区町村の窓口(高齢者福祉課や地域包括支援センター)に申請書を提出し、要介護認定の申請を行います。申請後、自治体の職員などが申請者の自宅を訪問して心身の状況を調査し、主治医の意見書も踏まえて介護度(要支援1・2または要介護1~5)が判定されます。
結果が通知され、要介護1~5と認定された場合は介護保険サービスを利用できるようになります。介護度が決まったら、利用者本人または家族はケアマネジャー(介護支援専門員)を選任し、相談しながら居宅サービス計画書(ケアプラン)を作成してもらいます。
ケアマネジャーは、利用者の心身の状況や希望を踏まえて適切なサービスを組み合わせ、サービス事業者との連絡調整を行ってくれる心強い存在です。要支援1・2と判定された場合には、原則として地域包括支援センターの担当者がケアプラン作成などを支援し、介護予防サービス(総合事業)を利用する流れです。
公的サービスを利用する際には、介護保険被保険者証の交付や負担割合(所得によって1~3割)も通知されますので、内容を確認のうえサービス利用契約を結びます。なお、認定結果に不服がある場合は不服申立て(審査請求)も可能です。
以上が行政サービスを受ける大まかな手順で、最初は戸惑うかもしれませんが、市区町村や地域包括支援センターで丁寧に案内してもらえるので安心です。
在宅介護と施設介護の違い
高齢の方の介護には、自宅で介護を続ける在宅介護と、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどに入居する施設介護があります。ここでは、主な違いをいくつかの観点から解説します。
介護者の違い
在宅介護の場合、主たる介護者は家族であることが多いです。配偶者や子どもなどの家族が日常的な世話を担い、不足する部分を訪問介護やデイサービスなどの居宅サービスで補完します。居宅サービスを組み合わせれば福祉の専門職の支援も受けられますが、基本的には家族が介護の中心となるケースが多く、介護者自身も高齢のケースではお互い負担が大きくなりがちです。 一方、施設介護では施設の職員(介護福祉士や看護師など)が介護にあたります。食事や入浴、排泄介助から健康管理まで専門スタッフが行うため、家族は日常の細かな介護から解放され、主に見守りや精神的な支えの役割になります。生活環境の違い
在宅介護は住み慣れた自宅での生活を継続できる点がメリットです。長年暮らしてきた我が家や地域コミュニティとのつながりを保ちながら過ごせるため、高齢の方にとって心理的な安心感があります。また、自宅の生活リズムを維持しやすく、プライバシーも確保しやすいでしょう。しかし、自宅を介護向きに整えるために手すり設置や段差解消などの改修が必要な場合があります。 施設介護ではバリアフリー設計が整った環境で専門的なケアを受けられます。居室や共用部は高齢の方が安全かつ快適に過ごせるよう配慮され、入浴設備やリフトなども備わっています。ほかの入居者との共同生活になるため、人付き合いやレクリエーションを通じた刺激が得られる反面、自宅に比べて生活様式が画一的になる部分もあります。また、私物の持ち込みや居室の広さに制限がある場合もあります。 それぞれによさがありますので、本人の希望や状態に応じて選択することが大切です。費用の違い
経済的な負担も在宅と施設で異なるポイントです。介護保険サービスの利用料は、在宅介護の方が必要なサービスだけを利用するため費用を抑えやすくなります。一方、施設介護では介護サービスの自己負担に加え、居住費(部屋代)や食費、日常生活費が発生します。公的補助がある特養でも一定の居住費と食費負担があります。 そのため、介護サービス利用者の約80%は在宅サービスを利用していますが、介護費用全体に占める在宅サービス費は約64%と、施設サービス費(約36%)より一人当たりの費用が低いことが示されています。 ただし、注意したいのは、在宅介護では表面的な金銭負担は少なくても、家族が仕事を辞めたり時間を割いたりする見えないコストや、介護者の身体的および精神的負担が大きくなりがちな点です。一方の施設介護は費用負担は大きいものの、専門ケアによって家族の負担が軽減される利点があります。 参照: 『介護分野をめぐる状況について』(厚生労働省)在宅介護で困ったときの対処法
在宅介護を続けていると、家族だけでは抱えきれない悩みや困りごとが出てくることがあります。ここでは、在宅介護でよく直面する課題と、その対処法の例をいくつか挙げます。
家族の身体的、精神的な負担が大きいとき
長期間にわたる介護は、介護する家族の体力と気力を消耗します。無理を続けると介護する側が介護うつや体調不良になる可能性もあります。負担が限界に近いと感じたら、以下の対処法を試してみましょう。| 対処法 | 内容 |
|---|---|
| レスパイトケア(一時休養)を利用 | ショートステイやデイサービスを活用し、一時的に介護から離れる時間を作ります。 |
| 介護用品・福祉用具を活用 | 身体的負担を減らすため、福祉用具や便利な介護用品を導入します。 |
| 相談窓口や支援サービスを利用 | 専門家や同じ立場の介護者と悩みを共有し、情報や支援を得られます。 |
仕事との両立が難しいとき
介護と仕事を両立している介護者も多く、「仕事がある日の介護スケジュール調整が大変」「介護のために勤務を減らしたら収入面が心配」といった悩みがあります。両立が難しいと感じたときのポイントは次のとおりです。| 対処法 | 内容 |
|---|---|
| 職場に相談して制度を活用する | 上司・人事に介護中であることを伝え、柔軟な働き方(時短勤務・テレワークなど)を相談します。介護休業(最大93日)、介護休暇(年5〜10日)などの法定制度も利用可能です。 |
| 訪問サービスやデイサービスを利用する | 平日昼間はデイサービスで本人を預けて仕事に専念、退社後にヘルパー訪問で家事支援を依頼など時間調整します。介護保険枠で不足時は民間の家事代行や見守りサービスを自費で追加利用します。 |
| 職場外の支援策を利用する | ファミリーサポートセンターで高齢者見守りや通院付き添いを依頼できます。介護費用負担が重い場合は、高額介護サービス費(自己負担上限超過分払い戻し)や介護休業給付金(雇用保険給付)など公的支援制度を確認します。 |
医療的な対応に不安があるとき
在宅介護では、褥瘡(とこずれ)の処置や服薬管理、吸引といった医療的ケアへの不安もあります。特に持病があったり、在宅酸素や胃ろう、カテーテル管理など医療ニーズが高い方を介護したりする場合、家族だけで適切に対応できるか心配になるでしょう。そのようなときは次のような対策があります。| 対処法 | 内容 |
|---|---|
| 在宅医療サービスを利用する | かかりつけ医に相談し、定期的な訪問診療や訪問看護を導入します。往診体制のあるクリニックと契約すれば、夜間急変時にも電話相談や緊急往診が可能です。 |
| 地域の連携支援を頼る | 地域包括支援センターに相談して在宅医療と介護の連携体制を整えます。地域によっては在宅療養支援センターでケアマネジャーや医療ソーシャルワーカーが多職種連携を支援してくれるでしょう。救急時の連絡先や手順を家族で共有すると安心です。 |
| 無理せず入院・施設利用を検討する | 医療ニーズが高まり在宅介護が困難になった場合、短期入院や医療対応可能な施設(介護医療院、医療対応型老人ホーム)への入所を検討します。終末期ケアで自宅看取りに不安がある場合は、在宅ホスピスや看取り対応施設の情報も収集しましょう。 |
本人が協力的ではないとき
介護されるご本人が介護に非協力的・拒否的な場合も、在宅介護では大きな悩みとなります。例えば、入浴を嫌がる、デイサービス利用を拒む、服薬やオムツ交換を拒否するといったケースです。認知症による場合もあれば、プライドや気分の問題で抵抗を示す場合もあります。そんなときの対応策として、以下のポイントがあります。| 対処法 | 内容 |
|---|---|
| 本人の気持ちを理解する | 高齢の方は「家族に迷惑をかけて申し訳ない」という思いから自信を失い、介護を受け入れられないことがあります。もどかしさやイライラの背景にある感情を理解し、否定や説得より共感を優先しましょう。 |
| できることは本人に任せ自尊心を尊重する | すべて介助せず、可能な範囲で本人に任せましょう。意思決定も本人に委ねることで、尊重されている感覚が生まれ、協力的になりやすくなります。 |
| 第三者の力を借りる | 家族より第三者(ケアマネ、ヘルパー、デイサービス職員、医師)からの働きかけで受け入れやすくなる場合があります。 |
まとめ
在宅介護は、高齢の方が住み慣れた自宅で生活を続けられるよう支援する仕組みで、訪問介護や訪問看護、デイサービス、福祉用具など多様なサービスを介護保険で利用できます。ケアマネジャーの助言でサービスを組み合わせれば家族の負担を軽減できますが、介護拒否や負担増などさまざまな課題もあります。在宅医療との連携、レスパイトケアなどを活用し、介護者自身の健康を守りながら、本人と家族に適切な介護方法を選びましょう。
参考文献



