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痰の吸引は家族でもできる?在宅介護で行う条件や手続きから、具体的な吸引方法や注意点まで解説します

 公開日:2025/10/20
痰の吸引は家族でもできる?在宅介護で行う条件や手続きから、具体的な吸引方法や注意点まで解説します

在宅でご家族の介護をされている方のなかには、痰の吸引が必要になり、不安や戸惑いを感じている方もいらっしゃるかもしれません。かつては医療従事者しか行えなかった医療行為ですが、現在では法律が整備され、ご家族も正しい知識と手順を学べば、ご自宅で実施することが可能です。 この記事では、痰の吸引がなぜ必要なのかという基本的な知識から、ご家族が吸引を行うための具体的な条件や手続き、日々のケアで役立つ吸引の手順、そして緊急時の対応まで、網羅的に解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

痰の吸引の概要

痰の吸引の概要

痰の吸引とは具体的にどのようなケア方法ですか?

吸引器という専用の医療機器を使い、ご自身の力で痰や唾液を体外に出すことが難しい方の、鼻やお口の中、または気管カニューレ(気管切開をした方が装着するチューブ)の内部に溜まった分泌物を取り除く医療的なケアです。

自宅で痰の吸引が必要になる疾患や状態を教えてください

在宅で痰の吸引が必要になるのは、病気や加齢、障害などによって、咳をして痰を排出する機能(自己喀出能力)が低下している方です。具体的には、以下のような疾患や状態の方が対象となることがあります。

  • 神経・筋疾患筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病、筋ジストロフィーなど、全身の筋力が低下していく病気
  • 脳血管疾患の後遺症で、意識障害や麻痺が残り、嚥下機能(飲み込む力)や咳反射が低下した方
  • 重症心身障害:生まれつき、あるいは病気や事故により、重度の知的障害や身体障害がある方
  • 加齢や長期臥床による全身の衰弱:老化や長期にわたり寝たきりの状態(廃用・衰弱)が続き全身の機能が低下し、痰を出す力も弱まっている方
  • 気管切開をしている方

これらの疾患名に当てはまらなくても、咳をする力が弱く、飲み込みがうまくできず、痰がゴロゴロと鳴っているような状態であれば、医師の判断により痰の吸引が必要となる場合があります。

痰を吸引しないとどうなりますか?

まず呼吸困難や窒息のリスクがあります。溜まった痰が気道を塞いでしまい、呼吸が苦しくなります。重度の場合には、完全に気道が閉塞し、窒息に至る危険性があります。次に誤嚥性肺炎の発症のリスクがあがります。お口の中や喉に溜まった痰や唾液には、多くの細菌が含まれています。これらの分泌物が誤って気管や肺に入ってしまうこと(誤嚥)で、肺が細菌に感染し、肺炎を引き起こす可能性があります。

痰を吸引する頻度やタイミングを教えてください

痰の吸引は、1日に何回といった時間で区切るのは難しいです。大切なのは、患者さんの状態をよく観察し、吸引が必要なサインを見逃さずに、必要なときに行うことです。 以下のようなサインが見られたときは、吸引が必要なタイミングと考えられます。

  • 喉の奥から「ゴロゴロ」「ゼロゼロ」といった音が聞こえるとき
  • 呼吸が速くなったり、肩で息をしたりするなど、苦しそうな表情や様子が見られるとき
  • 食事や水分補給の後(唾液や痰の分泌が増えやすいため)
  • 入浴後や身体を動かしたとき(体温が上がり、痰が動きやすくなるため)
  • 患者さん自身が吸引を希望するとき
  • パルスオキシメーターの酸素飽和度(SpO2)の数値が、普段よりも低下しているとき

特に、食事の前後や体位を変えた後などは痰が動きやすくなるため、注意深く観察することが大切です。

家族が痰の吸引を行うために必要な条件と手続き、必要なもの

家族が痰の吸引を行うために必要な条件と手続き、必要なもの

痰の吸引は医療従事者以外でも可能ですか?

はい、可能です。ご家族が吸引を行う場合は、療養上の目的で、患者さんにとってその必要性が認められていることが前提となります。これは、ご家族が患者さんの日々の生活を支えるうえで欠かせない行為として、法的に認められているということです。

家族が痰の吸引を行うために必要な研修や手続きを教えてください

ご家族が痰の吸引を行う場合、介護職員のように国が定めた公式の『喀痰吸引等研修』を修了し、資格を取得する必要はありません。しかし、人の身体に行う医療行為であるため、安全に実施するためには、以下の2つの条件を必ず満たす必要があります。

1.医師による書面での指示 主治医から、痰の吸引を行ってよいという内容の指示書を文書で受け取る必要があります。この指示書には、吸引が必要な理由のほか、吸引してよい場所(お口、鼻など)、使用するカテーテルのサイズ、カテーテルを挿入してよい深さ、吸引圧の目安など、その患者さん個人に合わせた具体的な方法が記載されています。

2.医師や看護師による直接の指導と手技の確認 指示書をもらうだけでなく、訪問看護師や医師から、直接、吸引の具体的な手技について指導を受けなければなりません。指導では、人形などを使って練習するだけでなく、実際に患者さんに対して、看護師の監督のもとで吸引を行い、手技が安全かつ確実に行えることを確認してもらう必要があります。

自宅で痰を吸引するために必要なものを教えてください

在宅で痰の吸引を行うためには、いくつかの専用の物品を揃える必要があります。

  • 吸引器
  • 吸引カテーテル
  • 接続管吸引器
  • 消毒用のアルコール綿
  • 使い捨て手袋
  • 洗浄用の水とコップ
  • カテーテル保管容器

吸引器は痰を吸い出すための本体です。コンセントにつなぐ電動式が一般的ですが、停電時や外出用に、充電式のポータブルタイプや、電気を使わない足踏み式・手動式のものを準備しておくと安心です。

吸引カテーテルは痰を直接吸い出すための細いチューブです。患者さんの状態に合わせて、医師から太さ(Fr:フレンチという単位)や種類が指定されます。衛生上、ほかの方との使い回しは絶対にせず、定期的に新しいものに交換します。

接続管吸引器は本体と吸引カテーテルをつなぐチューブです。

消毒用のアルコール綿は吸引カテーテルの消毒などに使います。1回分ずつ個包装されているものが清潔で便利です。

使い捨て手袋は感染予防のために、吸引を行う際は必ず着用します。

洗浄用の水とコップは使用後のカテーテル内部を洗浄するために、清潔な水道水を入れます。

カテーテル保管容器は、カテーテルを繰り返し使用する場合、洗浄・消毒後に保管するための蓋付きの容器です。容器には消毒液を入れ、カテーテル全体が浸るようにします。

これらの物品は、介護保険サービスや、お住まいの自治体の助成制度を利用して購入・レンタルできる場合があります。詳しくは担当のケアマネジャーや市区町村の窓口にご相談ください。

自宅で家族が痰を吸引する際の注意点

自宅で家族が痰を吸引する際の注意点

痰を吸引する際に気を付けるべきことを教えてください

基本的な手順は、医師や訪問看護師から指導された内容を必ず守ることが大前提です。

吸引中は、痰だけでなく肺の中の酸素も一緒に吸い出してしまいます。長時間吸引を続けると、低酸素状態になることがあります。痰が取り切れなくても、一度に15秒以上は行わず、患者さんの呼吸が落ち着くのを待ってから、必要であれば再度行いましょう。

カテーテルを深く入れすぎると、気管の粘膜を傷つけて出血させたり、強い咳き込みや嘔吐反射を引き起こしたりする原因になります。 吸引圧が強すぎると、粘膜を傷つける危険があります。医師や看護師に指示された圧力を基本としましょう。

吸引した痰に異常がみられたときはどうすればよいですか?

吸引した痰の色や量、粘り気は、患者さんの体調を知るための重要なサインです。普段と違う痰が出たときは、慌てずにその特徴を記録し、訪問看護師や医師に報告・相談することが大切です。「いつから、どのような色の、どのような粘り気の痰が、どのくらいの量出ているか」を具体的に伝えると、医師や看護師が的確な判断をしやすくなります。

停電や機器のトラブルで吸引ができないときの対処法を教えてください

在宅で医療機器を使ううえで、停電や故障は常に想定しておくべき事態です。特に痰の吸引は、数時間できないだけでも命に関わるため、事前の備えと緊急時の対応方法を知っておくことが、介護者の重要な役割となります。 災害や停電はいつ起こるかわかりません。日頃から以下の準備をしておきましょう。

普段使っている電動吸引器とは別に、電気を使わない手動式または足踏み式の吸引器を必ず準備しておきましょう。足踏み式は両手が自由に使えるため、吸引操作がしやすいという利点があります。

ポータブルタイプの吸引器を使用している場合は、常にバッテリーをフル充電しておくことを習慣づけましょう。外部バッテリーも定期的に充電状態を確認します。

かかりつけ医、訪問看護ステーション、医療機器メーカーの担当者など、緊急時に連絡する先のリストを、電話のそばなどわかりやすい場所に貼っておきましょう。

大規模な災害で長期間の停電が予想される場合に、緊急で入院できる病院があるかなどを、あらかじめ主治医と相談しておくと安心です。 日頃の備えが、いざというときに患者さんとご自身の両方を守ることにつながります。

まとめ

まとめ

痰の吸引は最初は大きな不安を感じるかもしれませんが、正しい知識と手順を身につければ、ご家族でも安全に行うことができます。ご家族は、患者さんにとって最も身近で、信頼できるケアチームの一員です。この記事が、皆さまの不安を少しでも和らげ、自信を持って日々の介護に取り組むための一助となれば幸いです。

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