在宅医療とは?対象になる方や手続き方法、費用の目安まで詳しく解説
公開日:2025/10/20


監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
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目次 -INDEX-
在宅医療とは
在宅医療とは、病院や診療所に通うのが難しい患者さんに対し、医師や看護師などの医療従事者が自宅を訪問し、必要な診療やケアを行う医療サービスです。通院の負担を減らし、住み慣れた環境で安心して療養できるのが大きな特徴です。高齢化が進む日本では、医療と介護を地域で一体的に支える地域包括ケアシステムの中核として注目されています。
日本における在宅医療の歴史
日本の在宅医療は、1980年代後半から制度として整備が進みました。1986年の厚生省(当時)の報告では、高齢者の方は可能な限り住み慣れた地域で暮らせるようにする方針が打ち出され、在宅医療の推進が正式に国の施策として位置づけられました。 その後、1990年代に入ると訪問診療や訪問看護に関する診療報酬が整備され、医療機関が在宅で診療しやすい環境が整っていきます。 2000年には介護保険制度がスタートし、医療と介護の連携が強化されました。2010年代以降は、急速な高齢化に対応するため在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションの拡充が進みました。こうした経緯から、在宅医療は外来や入院と並ぶ重要な医療の柱として定着しました。 参照: 『「高齢者保健福祉」から「地域包括ケア」への展開』(名古屋学院大学)在宅医療の位置づけと概要
在宅医療は、外来医療・入院医療に次ぐ、第三の医療として位置づけられています。大きな特徴は、患者さんの生活の場である自宅や高齢の方向け住宅に医療スタッフが訪問し、継続的な治療や健康管理を行う点です。 対象となるのは、病気や障害で通院が困難な方や、退院後も自宅で医療的ケアが必要な方、末期がんや難病で自宅療養を希望する方などです。提供されるサービスは、医師による定期的な訪問診療、症状悪化時の往診、看護師による訪問看護、リハビリ専門職による訪問リハビリ、薬剤師による服薬管理など多岐にわたります。 これらは医療保険を基本としつつ、介護保険や地域の支援制度と組み合わせることで、患者さんと家族が安心して生活を続けられる環境を整えます。また、在宅医療は単なる診療提供だけでなく、患者さんの生活全体を支える包括的な仕組みです。訪問リハビリや生活支援と連動することで、患者さんが日常生活のなかで治療を継続できるようサポートします。在宅医療でできること
在宅医療では、医師や看護師をはじめさまざまな専門職がチームを組み、自宅で受けられる医療や介護サービスを提供します。具体的には次のようなサービスがあります。
医師による訪問診療
訪問診療は、医師があらかじめ決めたスケジュールに沿って患者さんの自宅を訪問し、診察や検査、薬の処方などを行うものです。通院が困難な方でも、外来診療と同じように症状の確認や治療方針の見直しができます。訪問頻度は症状や病状により異なりますが、一般的には月2回程度の定期訪問が基本です。急性期や症状が不安定な時期には、週1回以上の訪問や臨時往診を組み合わせることもあります。 定期的な訪問により、体調の変化を早期に発見できるほか、必要に応じて緊急往診にも対応します。具体的には、採血や尿検査、心電図、エコー検査など多くの検査が自宅で可能です。また、褥瘡の処置、点滴、在宅酸素療法やカテーテル管理など、入院時と同等レベルの医療行為も行われます。急な発熱や呼吸困難時には臨時往診で対応し、必要に応じて救急搬送を判断することもあります。リハビリ専門職によるリハビリ
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などのリハビリ専門職が自宅に訪問し、生活に必要な動作の回復や維持を目的とした訓練を行います。例えば、歩行練習や関節の可動域訓練、食べ物や飲み物を飲み込みやすくする嚥下訓練などが含まれます。自宅環境に合わせた運動指導や福祉用具の提案も行い、患者さんができる限り自立した生活を送れるよう支援します。薬剤師や栄養士による助言
薬剤師は、処方薬の正しい服用方法や飲み合わせの確認、副作用のチェックなどを行います。訪問服薬指導では患者さんの自宅を訪問し、服薬状況を確認しながら指導します。必要に応じて一包化や配薬セットを用いて誤薬や飲み忘れを防ぎ、薬の種類が多い高齢の方でも服薬を続けられるように支援します。管理栄養士は、病状や栄養状態に応じた食事メニューの提案や調理方法の工夫、嚥下障害がある方への食事形態の調整などを行います。これにより、薬と栄養の両面から療養生活を支えます。看護師による訪問看護
訪問看護師は、医師の指示に基づき患者さんの健康状態を観察し、必要な医療処置や日常生活の支援を行います。具体的には、血圧や体温の測定、点滴・注射、カテーテル管理、褥瘡(床ずれ)ケアなどが挙げられます。また、入浴や清拭、排泄の介助、服薬管理、家族への介護方法の指導なども担います。終末期の在宅療養では、緩和ケアや看取りのサポートも行い、患者さんと家族の心身の負担を軽減します。多くの訪問看護ステーションでは24時間対応体制を備えており、夜間や休日の緊急時にも連絡・訪問が可能です。例えば、夜中の点滴トラブルや急な発熱時には、電話での指示や緊急訪問によって入院回避につながることもあります。訪問介護員やヘルパーによるサポート
訪問介護員(ホームヘルパー)は、介護保険制度のもとで日常生活を支える役割を担います。身体介護(入浴、排泄、着替えなど)や生活援助(掃除、洗濯、買い物、調理など)を通して、患者さんが自宅で安全かつ快適に過ごせるようサポートします。医療行為は行えませんが、訪問看護や医師の診療と連携し、生活面から在宅療養を支える重要な存在です。在宅医療の対象になる方
では、誰でも在宅医療を受けられるかというと、一定の条件を満たす場合に対象となります。医療保険上は、在宅で療養中で、疾病や傷病のために通院による治療が困難な者が在宅医療の対象とされています。具体的には、次のような方が対象です。
| 対象者 | 具体例 |
|---|---|
| 身体機能の低下により外出が困難な方 | ・病気や障害で歩行が難しく寝たきり ・車椅子移動が必要で通院が大きな負担 |
| 医療機器を使用中で移動が難しい方 | ・在宅酸素療法(酸素ボンベ)、在宅人工呼吸器、胃ろう、点滴カテーテルなど装着中 |
| 認知症や精神状態の問題で外来通院継続が困難な方 | ・重度認知症で公共交通機関利用が困難 ・精神疾患で外出時に著しい不安・混乱がある |
| 退院後も引き続き治療・ケアが必要で通院が難しい方 | ・入院後、継続的な医療処置や見守りが必要で定期通院が困難 |
| 自宅での療養・看取りを強く希望する方 | ・末期がん患者さんで「できるだけ自宅で家族と過ごしたい」「最期を自宅で迎えたい」と希望し、医師が在宅療養可能と判断 |
| 小児や難病で在宅療養中の方 | ・小児の在宅医療ケア ・難病や重度障害で長期在宅療養中 |
在宅医療を受ける手続き
在宅医療を始めたいと思ったら、まず主治医や地域の相談窓口に相談することから始めましょう。具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
病院の地域連携室などに相談する
入院中や通院中であれば、病院内にある地域医療連携室(医療ソーシャルワーカー)に相談するのがスムーズです。退院後に自宅で医療を受けたい場合、医療機関が在宅療養をサポートする医師や訪問看護ステーションと連携し、在宅医療の開始までを手配してくれます。必要に応じて介護保険の申請手順や福祉用具の手配なども同時に案内してもらえます。主治医に相談する
かかりつけの主治医に、在宅医療を受けたい旨を直接伝える方法です。主治医自身が訪問診療に対応していれば、そのまま在宅医療を開始できます。もし対応していない場合でも、在宅医療を専門に行っている医師や診療所を紹介してくれることがあります。通院が難しい理由や今後の療養方針をしっかり説明し、医師と一緒に適切な受診方法を検討しましょう。地域の役所や地域包括支援センターに相談する
在宅医療は、介護保険サービスと併せて利用するケースが多くあります。地域包括支援センターは、市区町村が設置する高齢の方向けの総合相談窓口で、医療と介護の両面から支援してくれます。要介護認定の申請、ケアマネジャーの紹介、在宅医療に必要な情報提供や関係機関との橋渡しなど、幅広くサポートしてくれます。自宅で医療や介護を受ける準備段階から頼ることができます。 なお、相談の際は、病状や服薬内容、過去の治療歴、在宅での希望(看取り希望など)などをメモしておくとスムーズに進みます。また、相談時には利用可能な医療機関の空き状況や訪問可能なエリアも確認しておきましょう。地域によっては訪問診療を行う医師が限られるため、早めの予約や調整が必要になる場合があります。在宅医療にかかる費用の目安
在宅医療を利用する際の費用は、医療保険と介護保険それぞれのサービス利用分について計算されます。公的保険が適用されますので、患者さんの自己負担は原則として1割〜3割(年齢や所得に応じ異なる)です。以下に大まかな費用の目安を示します。
| 区分 | 内容 | 自己負担割合や条件 | 費用の目安 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 医療保険(訪問診療など) | 医師による訪問診療、訪問看護(医療保険適用分)など | 75歳以上:1割(一定以上所得者は3割)70〜74歳:2割70歳未満:3割 | 月2回訪問診療の場合 1割:約7,000円 2割:約14,000円 3割:約20,000円 | 訪問診療基本料や在宅医学総合管理料、居宅療養管理指導料を含みます。処置や検査、緊急往診などは別途加算があります。通院より高めですが、交通費が不要で待ち時間なしなどの利点があります。 |
| 介護保険(訪問看護・訪問介護など) | 介護保険サービス(訪問看護、訪問介護、デイサービスなど) | 所得・世帯状況に応じ1〜3割負担(65歳以上の多くは1割) | 高額介護サービス費制度により、1割負担の上限は月約44,400円(一般所得層の場合) | 上限超過分は払い戻しがあります。また、複数サービス併用でも過度な負担増を防止できます。ケアマネジャーが費用も考慮しつつプラン作成します。 |
| 公的な負担軽減制度 | 高額療養費制度、高額医療合算介護サービス費、医療費控除 | 高額療養費制度 | 利用者条件や所得区分により異なる | 医療と介護の合算され、上限制度があります。年間医療費が一定額超の場合は確定申告で医療費控除も可能です。 |
まとめ
在宅医療を利用すれば、通院が難しくなっても住み慣れた自宅で療養を続けられます。家族にとっても安心感があり、一緒に過ごす時間を大切にできます。一方で、介護負担や自宅環境の整備が必要になることもありますが、訪問診療・看護、リハビリ、介護サービス、福祉用具や住宅改修など支援制度は充実しています。大切なのは、制度やサービスを知って活用することです。不安や悩みは医療や介護の専門職に相談し、一人で抱え込まないことが重要です。仕組みを理解し準備すれば、自宅で自分らしく最期まで暮らす希望も叶えられます。
参考文献




