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嗅覚障害の有無が総死亡率に関連との研究結果【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/03/27

シンガポール国立大学の研究グループが18歳以上の成人嗅覚障害患者の重症度と死亡率を報告していた観察研究を解析し、嗅覚障害患者の総死亡率の相対的な危険度は嗅覚障害のない人と比べると52%高いという研究結果を発表しました。この結果は2022年4月7日のJAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery誌電子版に掲載されています。この研究報告について小島先生にお話を伺います。

小島 敬史 医師

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。
日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

研究グループが発表した内容とは?

シンガポール国立大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください。

小島 敬史 医師小島先生

今回の記事のテーマとなるシンガポール国立大学のグループによる研究は、今年4月7日のJAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery誌の電子版に掲載されたものです。高齢者の嗅覚障害は総死亡の危険因子になり得ることを示唆する研究が増えていますが、嗅覚障害と死亡の関係について検討した研究では、一貫した結果を示せていませんでした。研究グループは去年8月13日までに登録されていた文献の中から18歳以上の成人を対象として、嗅覚障害と死亡の関係が検討されていた査読済みの英語文献を選び、新型コロナによる急性の嗅覚障害ではなく、パンデミック前から慢性的な嗅覚障害を有していた患者を対象としていた研究を選出しました。条件を満たした11の研究に登録されていた2万1601人を対象に系統的レビューと解析を行ったところ、嗅覚障害がない人に比べて嗅覚障害患者の総死亡のハザード比は1.52という結果が出ました。研究グループは今回導き出された結果について、「嗅覚障害が総死亡と関連しており、健康および老化のマーカーである可能性があることを示唆している。基礎となるメカニズム、および介入の範囲を確立するためにさらなる研究が必要である」と結論づけています。

嗅覚障害とは?

今回の研究対象になった嗅覚障害について教えてください。

小島 敬史 医師小島先生

嗅覚障害は、病状や原因によって「気導性嗅覚障害」、「嗅神経性嗅覚障害」、「中枢性嗅覚障害」の3つに分類されます。「気導性嗅覚障害」は匂いの成分が嗅粘膜に到達できなくなることによる嗅覚障害で、副鼻腔炎が多くの場合に原因となっているとされています。「嗅神経性嗅覚障害」はウイルス感染や薬物・毒物などの影響により、嗅粘膜にある嗅神経がダメージを受けて、匂いを感じ取れなくなります。嗅神経は、嗅粘膜を介して外気と接しているためウイルスの影響を受けやすく、新型コロナウイルス感染症の影響で発症する嗅覚障害は、このタイプだと考えられています。「中枢性嗅覚障害」は脳がダメージを受けて匂い成分の情報を受け取れなくなった結果、匂いが判別できなくなるものです。交通事故など外的な要因で生じたり、脳梗塞やアルツハイマー病などの影響で起きたりする可能性があります。

発表された研究結果の意義は?

シンガポール国立大学の研究グループが発表した研究内容が今後どのように活かされる可能性があるのか教えてください。

小島 敬史 医師小島先生

嗅覚障害と総死亡率との関連性について解析し、臭覚障害があると死亡率が高くなることを示した初めてのシステマティックレビューです。嗅覚障害自体は臨床でよく目にする一般的な障害ですが、原因不明の嗅覚障害は神経変性疾患、抑うつ状態、全身疾患等様々な疾患と関連していることが知られています。筆者らは、嗅覚障害を起因として疾患以外にも食欲の低下をきたす恐れがあり、結果としてフレイルに、最終的には死亡率の上昇に寄与する可能性も示唆しています。ただし、今回の解析ではどのような病態が総死亡率の上昇に寄与したかという因果関係までは明らかになっていません。
現状では嗅覚障害の診療はあくまで局所の器質的疾患に対する診断と、それに対する治療を行うことに限られます。嗅覚障害がどのような経過をたどって総死亡率の上昇に関連しているか明らかにすることができれば、積極的な介入によって将来的に死亡に至る患者さんを減少させることができるかもしれません。今後の詳細な解析に期待したいと思います。

まとめ

シンガポール国立大学の研究グループにより、嗅覚障害患者の総死亡率の相対的な危険度は嗅覚障害のない人と比べると52%高いという研究結果が、学術誌に発表されました。今後、メカニズムの解明などの研究が進むことに期待したいと思います。

原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamaotolaryngology/article-abstract/2790855

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