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HPVワクチン、若いイングランド女性の子宮頸がん大幅に減少【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/03/27

イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンの研究者らが、HPV = ヒトパピローマウイルスのワクチン接種プログラム開始により20代での子宮頸がんの発症率がワクチン導入後に著しく減少していたことなどをLancet誌で報告しました。この海外論文について前田医師に伺いました。

前田 裕斗 医師

監修医師
前田 裕斗(医師)

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東京大学医学部医学科卒業。その後、川崎市立川崎病院臨床研修医、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科、国立成育医療研究センター産科フェローを経て、2021年より東京医科歯科大学医学部国際健康推進医学分野進学。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。

Lancet誌に報告された内容とは?

イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンの研究者らが、Lancet誌に報告した海外論文内容について教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

この研究は、キングス・カレッジ・ロンドンのMilena Falcaro氏らによって行われた研究で、Lancet誌の2021年12月4日号(電子版は2021年11月3日)で報告されました。イギリスでは2008年9月1日に2価のHPVワクチン(サーバリックス)の接種が開始され、12~13歳の女性に定期接種が行われています。さらに2008~2010年には14~18歳の女性への追加接種を行うキャッチアッププログラムが実施され、定期接種の年齢からもれた女性に対する接種もおこなっています。研究チームは、12~13歳で定期接種を受けた女性とキャッチアッププログラムを受けた14~16歳、16〜18歳、接種を受けていない年代の女性を対象に、20歳以上30歳未満での子宮頸がんと前がん病変であるCIN3(子宮頸部上皮内腫瘍)の発症率を比較しました。ワクチンを接種していない年代の女性と比較して、子宮頸がんの発生率は、12~13歳で接種を受けたグループで87%、14~16歳で接種を受けたグループが62%、16~18歳で接種を受けたグループで34%低下していました。そして、CIN3は、12~13歳で接種を受けたグループは97%、14~16歳で接種を受けたグループで75%、16~18歳で接種を受けたグループでは39%低下していました。この結果から、HPVワクチンの接種は若年で行うほど子宮頸がんの予防効果が高いことがわかります。

また、ワクチン接種したグループにおける子宮頸がんの発生件数は予測よりも448件、CIN3の発生件数も予測よりも1万7235件減少していました。
研究チームは「イギリスでHPV予防接種プログラムが導入された後、若い女性、特に12〜13歳でワクチンを接種した人において、子宮頸がんとCIN3の発生率が大幅に減少したことが確認された。HPV予防接種プログラムは、1995年9月1日以降に生まれた女性における子宮頸がんをほぼ撲滅することに成功した」と述べています。

この論文に対する評価と受け止めは?

今回取り上げた論文に対しての評価と受け止めを教えてください。

前田 裕斗 医師前田先生

ほとんどの子宮頸がんはHPVによって引き起こされます。HPVは性交渉によって男性から感染するため、性交渉前の若い年齢からHPVワクチンを接種することで子宮頸がんの予防効果が高いことが予想されます。子宮頸がんの発症は時間が経ってから起こるため、HPVワクチン接種による予防効果を確かめるのにも時間がかかります。これまでスウェーデンの全国調査で、HPVワクチンの接種を受けた女性で子宮頸がんの発生率が63%低下していたことが報告されていました。この時にも17歳以前のワクチン接種が、それ以降の接種と比較して、発生率低下と関連していましたが、今回の研究ではさらに年齢別にワクチンの効果が確かめられ、低い年齢で接種するほど子宮頸がんの予防効果が高いことが示されました。

日本でも同様の効果が期待できる?

日本でもHPVワクチンをめぐっては、積極的勧奨の再開や、9価ワクチンの定期接種化が決まるなど進展が見られます。今回の論文では、イングランドで子宮頸がんとCIN3の発生率が大幅に減少するなどの効果が報告されましたが、日本でも同様の効果が期待できるものでしょうか?

前田 裕斗 医師前田先生

もちろん同様の効果が期待されます。しかしワクチンが効果を発揮するためには皆さんに接種してもらう必要があります。今回の結果をもとに日本でも接種を推奨し、またこれまで接種を受けられなかった女性への接種、そして有効性や安全性に関する正確な情報提供を産婦人科医はじめとした医療界全体で行う必要があります。また、効果が証明されるためには今回の研究と同様長い年月がかかるでしょう。根気強くデータの蓄積を行い、適切な形で発信する取り組みが求められます。

まとめ

イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンの研究者らによる論文で、HPVワクチン接種プログラム開始により20代での子宮頸がんの発症率がワクチン導入後に著しく減少したと報告されました。HPVワクチンの積極的勧奨が再開されるなど日本でも動きがある中で、こうした海外の事例などは重要な情報と言えそうです。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=34741816&keiro=journal

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